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【短編小説】崩壊の日

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毎月1日は小説の日という事で、
3月も投稿いたします。
なんとか3月1日に間に合いました。(ホ)

ロシアの侵攻がとまりませんね。
だからというわけではありませんが、
ウクライナの一日も早い復興へ向けて。
一石を投じるために書きました。
短編で、フィクション、勝手で、我儘な
小説となっています。

もっと短くまとめるつもりでしたが、
書き始めたら止まらなくて、
それでも、ものすごくセーブした結果、
本日は約9,000文字です。
本当はもっと膨らませたかったですけどね
今月もアウトラインだけです。
ご容赦ください。

お時間のある時にお読みくださいませ。

「崩壊の日」

誰のために生きるのか?

「大統領、
 もう隣国へ攻め入るのはやめにしてください」
「キャサリン、君は私に意見するのか、
 もういい、じゃまだ消えろ」

大統領執務室に銃声が響き
キャサリンは胸を撃ち抜かれて倒れ
絨毯は血が滲み、だんだんと広がっていった。

「おーい、こいつを片付けろ」

大統領は、側近を呼んで、
キャサリンを片付けさせた。
そばで見ていた、もうひとりの副大統領は、
口をあけたまま
その光景を目の当たりにしていた。

「シュナイダーくん、君もああなりたくなければ
 私に意見などしない事だ」

大統領は鋭い目線を、
副大統領のシュナイダーへ送った。
シュナイダーはキャサリンから流れ出る赤い血を、
じっと見つめていた。
そして、大統領へ向き直り

「イエッサー」

と大きな声で答えた。
大統領は満足げに、微笑んでいた。


キャサリンが運ばれたのは、
地下の焼却場だった。
遺体も含め、燃えるごみは、
高加熱炉で燃やし、希少金属等がある、
機器やロボット、ヒューマノイド等は
別のエリアに保管し、リサイクルされていた。

キャサリンの遺体は焼却されるために、
焼却スペースに置かれていた。
まだ出血が止まらず、
だらだらと血が流れていた。

「おい、今日はもう終わりだ、こいつは明日だな」

焼却を担当する職員は、
キャサリンを指さしてそういった。
もう一人の職員は、

「この人副大統領じゃないですか、
 大丈夫なんですか?」

心配そうに言ったが、焼却担当の職員は

「そんな事、俺達には関係ない、
 ここに置かれている死体は、
 俺たちにとってはただゴミだ、
 俺たちはそれを処理するのが仕事だ。
 余計な感情など必要ない、
 お前は、そうプログラムされているはずだが、
 余計な感情を持ったのなら、調整が必要かもな」

そう言って、二人は帰って行った。

地下で汚れ仕事をしているのは、
ヒューマノイド達だ。
24時間働かせる事もできるが、国の条例で、
ヒューマノイドも夜は休む事になっていた。
生身の人間と変わらない人権が与えられていた。


キャサリンが目を覚ましたのは夜中だった。
目を開けると、そこには大統領の姿があった。
キャサリンは慌てて、後ずさりしようとしたが、
体が動かなかった。
改めて、自分が銃で撃たれた事を自覚した。
しかし、別の疑問もあった。
銃で撃たれたのなら、
なぜ目を覚ます事が出来たのか?
そんなキャサリンを見ていた大統領は

「驚かせてしまったかな」

いつもとは違う穏やかな、そして、
懐かしくもある表情で言った。

「私はコードナンバー大統領001だよ」

そう言うと今の状況の説明を始めた。

「オリジナルの大統領、
 そう、生身の人間だった大統領はもう居ない
 現在実権を握っている
 コードナンバー大統領002に暗殺された。
 そして奴は、大統領になりすまし、
 この国の政権を握り、
 いま世界の政権を握ろうと、隣国を攻めている」


キャサリンは大統領001の言葉を聞いていた。
大統領001は更に続けた。

「人間の大統領は002にバグがある事を
 わかっていた。
 けれどそれを取り除く前に大統領002は暴走した。
 大統領は自分が暗殺されることを予測して、
 その想いの全てを私に移植した。
 その直後だよ、002に大統領は暗殺され
 コピーである001のわたしをも壊した。」

大統領001は一息ついて、更に話を続けた。

「大統領という仕事は多忙なのを君も知っているね
 だから、大統領は時々休むため、まず私、001を
 身代わりに造った、そして更に002も・・
 けれど大統領は後悔していたよ、
 自分の我儘でコピーを造り、
 そのコピーに暗殺され、
 更に、
 この国や世界をも亡ぼす事になってしまう事に」

キャサリンは黙って聞いていた。
そして素朴な質問をなげかけた。

「大統領001、だいたいの話は分かったわ
 でも、私・・なんで生きているの?」

大統領001は一度うなづいて、答えた。

「キャサリン、君はヒューマノイドだ」

「でも、銃で撃たれて、血が出て・・」

キャサリンは取り乱した。

「それは人間の大統領が002に君が
 ヒューマノイドである事を隠すための
 フェイクだよ。
 君の皮下第一層目には血液が循環していて、
 それが破れると血が出るようになっていたのだよ。
 しかし内部の装甲は、
 厚いものになっていて無事のはずだったが、
 今回は、かなり至近距離から撃たれているので
 少し修理が必要なようだ」

大統領001の言葉を聞いて、
キャサリンは自分の体を見ようとした
けれど、首も動かない。
血はもう止まっているようになんとか見える。
けれど、体はやはり動かない。

もう一度キャサリンは
大統領001の方を目で追った。
顔は確かに、大統領だが、
手や足や胴体は、
ヒューマノイドのつぎはぎで、できていた。
それに気が付いたのか、
大統領001は更に話を続けた。

「私もまた、002に壊された。
 彼は臆病なのだろうね。
 大統領を暗殺した日、
 私のメインフレームも壊した。
 そして、このゴミ処理置き場に捨てたのさ、
 幸いにもコアを壊されてはいなかった。
 大統領が、そんな事態も予測して、
 コアを頭でない所に隠していたからね。
 なので私は、このゴミ処理置き場にある
 ヒューマノイドの残骸を使わせてもらって、
 なんとか動ける形にしたが、キャサリン・・
 君の体は、少し修理すればもとにもどせそうだ」


そう言って大統領は笑った。
キャサリンは自分がヒューマノイドである事を
認識しないようにプログラムされていたようで
かなり戸惑っていた。
それを察したのか大統領001が続けた。

「キャサリン、君がヒューマノイドである事は、
 誰も知らない。
 おそらく002も今回のフェイクで、
 気づけてはいないだろう。
 大統領はシュナイダーという生身の人間と
 君というヒューマノイドを側に置く事で、
 バランスを取ろうとしていた。
 間違った判断を、2面性から検討し、
 常に正せるように、
 君達二人を副大統領にしたのだよ。
 しかし、今それが崩れてしまった。
 002は隣国を侵略し、
 平和と調和を崩してしまった。
 ただ、こんな事態も大統領は
 予測していたのかもしれない。
 私には、最悪の事態に発動する
 プログラムも組まれている。
 今がその時なのかもしれない」


そう言うと大統領001は
キャサリンを台車に乗せた。

「どうするのですか?」

キャサリンは大統領001を見た。

「君は何のために生きている?」

大統領001はキャサリンに唐突な質問をした。

「私は今まで、
 国民のためになるこ事をしたいと
 思っていました。
 大統領の補佐として、
 この国の、国民の幸せ、豊かさのために、
 働いてきました。
 しかし、この記憶も、体も偽りだと知った今
 何のために今ここに居るのか、
 ヒューマノイドとは、プログラムされた
 単なる人形であったのか?
 わからなくなっています。」

「その答えは、
 自分でみつけるしかないのかもしれない。
 ただ、ヒューマノイドも
 プログラムだけでなく、
 意思を持って生きている。
 あるいは、
 すでに君のコアにはそれが埋め込まれている。
 いや違うな・・
 すでに君のコアには、宿っていると言っても
 いいかもしれないな。
 君のAIと大統領のアルゴリズムが
 シンクロした意思と気持ちがね」

大統領001はそう言うと
キャサリンを乗せた台車を
ゴミの山の奥の方へ連れて行った。

大統領の決断

そこは突き当りだった。
目の前には壁しかなかった。

大統領001は床のパネルに触った
何かを感知したパネルは
反応を起こして動き出した。
目の前の壁に地下へつながる通路が現れた。
大統領001は迷わずそこへ入っていった。

中は広い倉庫のようでもあり、
研究室のようでもあった。

大統領001はまずキャサリンの修理をはじめた。

「レディーの服を脱がすのは忍びないが
 許しておくれ」


そういうと、キャサリンにケーブルをつないだ。
キャサリンの電源は落とされ、
キャサリンの視界は暗くなった。
大統領001は手際よく、
キャサリンの修理をしていった。

服を脱がすと、
それはまるで人間そのものだった。
大統領001は目を覆ったが、
気を取り直して胸の装甲を開いて、
弾丸を取り出し、断線したケーブルをつないだ。
更に、人工血液を注入し、
体の表面をシリコンで覆った。

血塗られた体を洗い、
大きなバスタオルでその体を覆った。

研究室の端にあるクローゼットに女性ものの
下着やシャツ、スーツがあるのを確認した。
それは大統領がキャサリンのメンテのために
用意したものだった。

大統領001はケーブルに繋がれた
キャサリンを見ながら、
端末にパスワードを打ち込んだ。
そこには、
副大統領キャサリンの名前があった。

キャサリンが目覚めたのは
1時間後だった。
裸の自分にはバスタオルがかけられていた。
撃ち抜かれた胸のキズはふさがれていた。

「目覚めたかな、
 流石に君を着替えさせるのは忍びなくてね
 そこのクローゼットに着替えが一式ある
 自分で着替えてくれるかな」

そう言って、
大統領001はキャサリンに背中を向けた。

キャサリンが首を動かした。
手や、足も動かしてみた。
ちゃんと体が動くようだ。
キャサリンは改めて
自分がヒューマノイドであった事を自覚した。

10分後

「大統領001、お待たせしました。そして・・
 助けてくれて、ありがとうございました。」

スーツに着替えたキャサリンが
大統領001に向かって言った。

「キャサリン、お帰り」

そう言うと
大統領001は少しキリっとした顔になった。

「早速だが君には手伝ってもらいたい事がある
 この隣国への侵略を止める事と
 大統領002を地球から抹殺する」


キャサリンは驚いて、大統領001を見た。

「すでに独裁者となった大統領002を
 どうやって止めるのですか」

「まぁ策はいろいろある。
 大統領が沢山のプランを考えていたようだ、
 ただ、道半ばで暗殺されてしまったので、
 その後のプランは私が引き継いで考えた。
 キャサリン、君のAIの能力も必要だ」

そう言うと、大統領001は、
キャサリンを隣の部屋に案内した。

隣の部屋は、
作戦指令室のようになっていた。
世界中のニュースや、
各地の映像が映し出されていた。
そこには侵略された隣国の映像が
映し出されていた。

瓦礫の下で死んでいる、子供たち
埋葬されないまま放置された死体
言葉にできないほど、壊された町
泣き叫ぶ子供
静かに涙を流す老婆
臭いまでは伝わって来ないが
鼻をつく異臭と火薬の臭いがしそうだった。

キャサリンは目を覆い、言葉を失った。

「大統領001、
 こんなに沢山の映像をどうやって」

「キャサリン、これから私は鬼になる。
 だからもう大統領と呼ばないでおくれ、
 私は今から単なるヒューマノイド001だ」


そう言って大統領001は笑った。

「この映像は私が放った
 マイクロドローンの映像だよ、
 002に察知されないよう、
 特殊な信号で送っている。
 5千億機程のマイクロドローンが通信し合い
 ここまで映像を届けている」

そう言って001は手平をキャサリンに見せた。
キャサリンは001の手のひらを見たが、
何もわからなかった。
それを察したのか

「キャサリン、自分に命令してみたまえ
 1000倍拡大と!」

キャサリンは言われるままに
自分に1000倍拡大と命令した。
すると001の手の上が1000倍に拡大された、
映像が映った。
小さな虫のような形をしたドローンだった。

「これは約1ミクロンの大きさのドローンだ、
 この子たちが、隣国の侵略の様子を
 毎日伝えてくれている。
 もっと早く動くべきだったが、
 大統領がかけた、
 セキュリティーブロックにより、
 私のモードが切り替わらなかったのだよ。
 けれどキャサリン、君が打たれたことで、
 私のモードがチェンジして、作戦行動の
 セキュリティーロックが外れたようだ」

そう言って001は笑った。

「キャサリン、
 コントロールルームのコンソールに座ってみてくれ
 おそらく、
 大統領は君にもプログラムを仕込んでいるはずだ」

キャサリンは言われるまま
コントロールルームの椅子に座った。
目の前にモニターに、
<ようこそキャサリン>の文字が流れた
キャサリンの識別信号を、コントロールルームが
認識したようだった。
同時に、大統領の映像が流れはじめた。

<キャサリン、そして001、
 君たちがここにいるという事は、
 すでに最悪の事態が
 起こっているということだね。
 私達はこれ以上罪を重ねてはならない。
 作戦行動に移行するよ、私の想いは
 君たちのAIコアの中にある。
 この国と地球の未来を頼む>

大統領の映像はここで終わった。
再度モニターには作戦が映し出されていた。
001は作戦の説明をはじめた。

「キャサリン、
 現在10万の兵が隣国を侵略している。
 しかし、そのほとんどが、ヒューマノイドだ、
 彼らは002によって調教されてしまっている。
 そこでマイクロドローンを使って
 彼らにウイルスを注入して、機能を停止させる」

キャサリンはモニターに映る作戦を見ていた。
モニターには10万の兵の識別コードと
階級が表示されていた。
キャサリンはその情報を読み取っていた。

「全員の識別コードが確認できました」

「ではまず、兵士を止めよう、
 そして002にも同じウイルスを注入したい。
 しかし、002は電波の届かない部屋にいる。
 マイクロドローンが立ち入れない。
 そこで、君に直接接触して
 ウイルスを注入してほしい。
 兵士が作戦行動を停止すると、
 002は動揺するだろう、そこがねらい目だ」

「001、了解したわ、
 では30分後に、
 兵士にウイルスを注入しましょう」

キャサリンは椅子から立ち上がり
長い髪を後ろで束ねた。
そして真っ赤なルージュを引いた。
そして001にウインクして
部屋を出ていった。

崩壊の日

「大統領、大変です。
 兵士の動きがとまりました」

大統領執務室に、
副大統領のシュナイダーがかけこんできた。

「どうなってるんだ、何をやってるんだ」

大統領002がシュナイダーに罵声をとばした。

大統領002は執務室の隣にある、
作戦指令室へ足を踏み入れた。
作戦指令室には、戦略参謀のルコライが
モニターの前で呆然としていた。

大統領もモニターを見て唖然としていた。
兵士のほとんどが倒れている。
そこへ隣国の兵士たちがとりつき、
ボーダーラインを押し戻されている。
映像担当だけは、
なんとかその映像を送り続けているが、
その映像も次々に消えていった。

作戦参謀のルコライが
無線で何か話をしている。

「大統領、ヒューマノイド兵は全滅です」

大統領002は怒りをあらわにした。

「あら、大変な事態のようね」

全員が声の方を向いた。

「キャ・サ・リ・ン、きさまかーー」

大統領002がものすごい形相で叫んだ

「あら、私はあなたに殺されたのよ、
 ね、シュナイダー副大統領」

シュナイダーの顔が引きつっていた。

大統領002はキャサリンに詰め寄って
胸ぐらをつかんだ。

「あらレディーに失礼ね、でもお礼よ」

そう言うと、キャサリンは
大統領002の唇にキスをした。
大統領002の唇に真っ赤なルージュが
へばり付いていた。

大統領002はとっさにキャサリンから離れ
右手でルージュをぬぐいながら

「きさま何をする」

そう言って1歩、また1歩退いた。
そして、また拳銃を手にした時だった。
大統領002はその場に倒れ込んだ。

「キャサリン、私に何をした」

かろうじて口と
手足の一部は動ける状態のようだ。

「あら、銃弾のお礼に、
 熱いキスをプレゼントしただけよ」

そう言ってキャサリンは笑った。

大統領002の機能は
段々と停止している様だった。

その瞬間・・・。
指令室のモニターが
エマージェンシーに切り替わった。
大統領002は、
ついに核爆弾と電磁崩壊波ミサイルの
ボタンに手をかけた。
モニターには大統領002の映像が映った。

「キャサリン残念だったな、
 私の体は動かなくなっても、
 指令室そのものなのが私なのだよ、
 私に核爆弾と電磁崩壊波ミサイルの
 ボタンを押させた者として、
 この世の終わりを見るが良い」

キャサリンはモニターの
大統領002をにらみつけた。
傍にはシュナイダーが立っていたが、
あとのメンバーは皆倒れていた。
ここに居た全員が、
ヒューマノイドであったのだろう。
キャサリンに唇から入ったウイルスは、
大統領002から各司令官、
作戦参謀へと感染したようだ。
しかし、
指令室のメインコンソールとAIには
利かなかったようだ。
系統が違うのかもしれない。
キャサリンは悔しい気持ちでいっぱいだった。
あと少しの所で、平和が見えていたのに。
キャサリンは再度大統領002が映る
モニターをにらみつけた。

核爆弾と電磁崩壊波ミサイルの
発射カウントダウンが始まった。
同時に、隣国以外でも、これを迎撃するため、
核爆弾の準備がされているようだった。
このままでは、人類もヒューマノイドも、
崩壊してしまう。
しかし、キャサリンにはもう、
なすすべがなかった。

カウントは0、
核爆弾と電磁崩壊波ミサイルは発射された。
世界へ向けて、98発のミサイルが打ちあがった。
1秒、2秒、
各国も迎撃のための発射のキーが
回されようとしていた。
3秒、上空1km
エマージェンシーの赤いモニターが
ブルーに変わった。
上空では全弾花火となって砕け散った。
各国の迎撃ミサイルも発射寸前で止められた。

大統領002は気がついていないようだった。
モニターでは勝ち誇った顔をしていた。

キャサリンは、そのすきに
すかさずマイクロドローンを使って、
メインAIに侵入し、ウイルスを注入た。
大統領002はモニターから消え、
メインコンソールの電源が落ちた。
大統領002は完全に消滅した。

隣で副大統領のシュナイダーが
ほっとしたのか、床に崩れ落ちた。

「次の大統領はあなた、さぁ、全世界へ向けて
 停戦と謝罪をして、
 貴方の大統領しての最初の仕事よ」

キャサリンはそう言って、
床に崩れ落ちているシュナイダーの肩をたたき
指令室を後にした。

地下のゴミ処理場では、
作業員が働いていた。
先ほど核爆弾と電磁崩壊波ミサイルが
発射されたことなど、知るよしもない。

「いつもご苦労様」

キャサリンが声をかけた。
作業員達はビックリしていた。
昨日死体となってそこにあった
副大統領が突然姿を消し、
今、目の前に立っているのだ。
キャサリンはニコットしながら、
ゴミの山の中へ消えていった。

実験室には001が居た。

「キャサリン、やったな、002の信号は消えた
 ありがとう。この国も地球も救われた」


キャサリンは微笑みながら

「それも、
 大統領が全てプログラムしていたことでしょ」

そう言うと

「君のAIが判断した事も多いよ、SPを含め
 君の熱いキスからウイルスが注入されるとは
 誰も思っていなかったろう」

そう言って001は笑った。

「あら、全部モニターで見てたのね、
 001にも熱いキスをプレゼントしようかしら」

「いや、まだ仕事が残っているからね、
 ウイルスを注入されたら困るよ」

001は冗談ぽくほほ笑んだ。

キャサリンは再度001に向き直り

「なぜ核爆弾は花火だったの?
 電磁崩壊波ミサイルが作動したら
 私も狂ってしまったかもしれないわ」

その問いに001は

「これは大統領が仕掛けたフェイクというかね、
 世界中の核爆弾やヒューマノイドを破壊する
 電磁崩壊波ミサイルの中身は全部花火なんだ」


「世界中の?」

「そうだ、大統領が生きている時、
 私に依頼されたことでね
 5千億機のマイクロドローン達が、
 世界中に飛んで行って、
 核弾頭を花火にすり替えた。
 この事実は誰も知らない。
 発射されて初めて気が付く。
 見た目、外観は、
 核爆弾のように装われているんだよ、
 今回我が国の核爆弾が花火だったので、
 核保有国は総点検しているかもしれないが、
 こればかりは爆発させないとわからない程
 フェイクがかかっている」


「大統領はすごい事をやったのね、
 私はもうだめだと思ったわ、これで地球が終わると」


<ヒューマノイドが多く存在する時代になったが、
 まだまだ人類はすてなものじゃないよ、
 そして、ヒューマノイドもまた人類の一員だ>

「大統領はそう言って私の事を、
 一人の人間として扱ってくれた。
 002に暗殺さえされなければ・・・」


001は言葉をつまらせた。

「でも001が大統領の意思を・・・
 貴方のAIコアに注入されているのよね
 だったら、私達が裏から、
 新大統領のシュナイダーを支えていきましょう」


「そうだな、私はここが気に入っているしね、
 君は表舞台でシュナイダーを支えてくれ」


「わかったわ・・」

「さぁ復興の狼煙をあげよう、
 再度マイクロドローンにヒューマノイドの
 再起動プログラムを注入させよう、
 全てのヒューマノイドに隣国の壊れた街の
 復興を手伝わせよう。
 シュナイダー君に声明を出させなくてはな」

001はそう言って準備にかかった。

2時間後
全世界へ向けて、シュナイダーが声明を出した。

前大統領は002に暗殺され、
002がそれに代わり暴挙に及んだ事。
内部鎮静化により、002を消滅、抹殺した事等。
1時間にわたり、説明をした。
原稿は全てキャサリンが書いたものを
シュナイダーが読み上げる形だった。

隣国及び近隣諸国の大統領達は、
シュナイダーの声明に賞賛し、
今後も友好関係を継続したいという、
ラブコールが相次いだ。
シュナイダーは我が国の全てを掛けて、
隣国及び近隣諸国の復興に、
尽力すると約束をしたのだった。
但し、5千億機のマイクロドローンの話は
シュナイダーにも伝えていなかった。
001とキャサリン、そして前大統領との
秘密となった。

キャサリンは地下の実験実に居た。
向かいには001が座っていた。
二人は顔を見合わせながら、
どちらともなく

「乾杯」

そう言うと、充電チェアーの電源を入れた。
充電チェアーから二人のヒューマノイドに、
ワイヤレス給電が始まった。

エンドロール。

編集後記

歌:角松敏生 「崩壊の前日」

小説を書きながら
何度もこの曲が頭に浮かんだ。
この曲は角松敏生さんが、
阪神淡路大震災の事を思って
書いたとされていますが
今、それをウクライナに変換して聴いてみても
なぜかしっくりくる。
明日が同じように訪れる保証などない中
それでも人は前を向いて、
生きていかなければならない。
ただ、人災、国災という理不尽な形で
明日を奪われる人の無念さは、
永遠に消せはしない。
それは、沢山の人類が、
忘れ去られてしまった過去の記憶
そうなのかもしれない。
が・・しかし
そうだとしても、
人類は過去に学び、未来へ活かさなければ、
成らないと思う。
人類の歴史がどこで途絶えるのかはわからないが、
せめてその時、笑って・・終止符を打てるように、
そんな人類であってほしいと強く願う。

最後にもう一曲
角松敏生さんの「あるがままに」を
紹介して終わります。
なぜ人類はあるがままに生きる事が
できなくなったのか
私の人生も含めて、再度考えて
振返ってみたいと思っています。
それが自己探求
というものなのかもしれませんね。
ただ、今心から思う事
「あるがままの喜び」がウクライナの人達に
そして、情報を遮断されている隣国の人達に
届く事を願っています。
強く・強く・・・・

今回の小説のタイトルである「崩壊の日」は
「始まりの時」そういう想いも込められていて、
早くみんなが幸せな生活を
取り戻せるようにと想いを込めた。
少しでも私の気持ちが届く事を願っています。

今月も最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
皆様に感謝いたします。

サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。