「おいしい」を決める要素
僕は幼少期、母にインスタントコーヒーをよく作らされました。
「あなたの作るコーヒーが一番おいしいから今日も飲みたいな」と言われて、調子に乗って張り切って湯を沸かしたものです。
子供が作るコーヒーは時には濃すぎたり薄すぎたりしたはずですが、それでも息子が必死になって淹れるインスタントコーヒーは母にとっての一番「おいしい」コーヒーでした。
味とは体験です。その体験を良いものにする要素の半分は味そのもの、もう半分は環境です。美味しさを語る上で味そのものが占める割合はもちろん大きいですが、最大限の「おいしい」を感じられるかどうかは飲み手次第。その日の体調などに大きく左右されます。
そもそも「おいしい」とはなにか?おいしいの語源は「いしい(美しい)」に接頭詞「お」をつけて丁寧にしたもの。
提供する側も受け取る側も「味」だけではなく美しさが伴ってこそ真の「おいしい」が生まれるものです。
また、香りは記憶と大きく関係しています。香りを嗅ぐことで過去の記憶や感情が蘇る「プルースト効果」というものがあります。
香りの強いコーヒーですから、できるならいつもポジティブな時間にしたいものです。
味という体験をどんな環境で受けるか。見るものや聞くもの、温度と湿度、一人で、二人で、好きなモノやコトに囲まれて飲むコーヒーの体験は記憶となり、また次の「おいしい」に繋がっていきます。
「おいしい」を感じると、人は幸せになれます。
ほっとする味、楽しくなる味、沁みる味……品質を評価するための尺度では測りきれない「美味」がこの世にはたくさん存在しています。
長い人生、悲しい味や切ない味もあるかもしれません。
そういった味と思い出は時間と共に受け入れられるようになるでしょう。
味を受容するのは舌で、その信号を受け取るのは脳ですが、その味の本質を感じ取るのは舌ではなく心なのかもしれません。
このコラムを読んだあなたの今日のコーヒーが少しでもおいしく感じられたら幸いです。
Writer|しょーへい(ポッドキャスター/VOICYパーソナリティ)
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