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職人化とプロデューサー化が進む半導体業界

大学時代に半導体関連の研究をしていました。

そんな背景もあり、半導体業界のニュースも少し気に留めていたりするのですが、今年は特に大きな話題が多かった気がします。
アップルのSoC内製化(Apple Silicon)、米中関係に端を発したTSMCのもろもろ、NVIDIAのARM買収など。

そんな半導体の話があると必ずと言っていいほど出てくるムーアの法則。微細化や高性能化の代名詞。

ムーアの法則は、集積回路の密度は18カ月ごと(もしくは2年ごと)に2倍になるという経験則ですが、名前のもとになったムーアさん自身が「予想がこんなにまで正しいとは思わなかったし、しかも10年以上続くとは思わなかった。50年も続いたこと自体が驚きだ」と語っているように、この法則自体にはあまり意味がないと思うものの、ムーアの法則の終焉、限界とかなり以前から言われ続けながら、いまだにいろんなところで名前が出てきます。

ポストムーアと言われて久しいですが、そのような技術的なブレークスルーはまだもう少し先のお話で、しばらくは現状のトレンドが続くと思われます。

その前提で、今後の半導体業界は、
半導体製造企業(ファウンドリー)のさらなる収斂(職人化)と、提供されるプロダクト・ソリューションと合わせて半導体をデザインするプロデューサー企業とに2分化していくんじゃないかな
と思ったというお話です。

そもそも半導体の微細化とは

一定の規則に従えば半導体の微細化は実現でき、小さくすればするほど性能がよくなる、という前提のもと微細化が進められてきました。これをスケーリング則といいます。
※いまさらの注記ですが、ここで”半導体”は、CPUなどに使われる”トランジスタ”などの半導体デバイスのことを指しています。

スケーリング則
半導体デバイスのタテ、ヨコ、高さといった構造上の比率を一定にしたままそのサイズを1/kにすると、駆動に必要な電圧は1/kに、消費電力は1/k^2(kの2乗分の1)に、遅延時間は1/kになる。
(要するにサイズが1/2に小さくなると、消費電力は1/4になるし、2倍程度高速化もするし、集積度は4倍になるのでいいことばかり、ということ)

とはいえ、微細化はメリットばかりではなく、小さくすればするほど技術的な課題が浮き彫りになり、リーク電流や短チャネル効果、回折限界によるリソグラフィの課題等々が出てくるわけです。

すごくざっくり言うと、小さくしすぎると、予期しないところから電流が漏れてしまって消費電力が増えてしまったり、構造的に制御が難しくなったり、そもそも小さすぎてつくるのが難しくなったりします。

それらの課題を解決するために、SOIやHigh-k材料、メタルゲートを使ったり、Fin構造や3次元構造にしてみたり、EUVを使ったり、と、新しい技術で解決を図って、なんとか微細化を続けています。

ここにきて、TSMCがアップル向けに5 nmプロセスのプロセッサを提供し、さらに3 nmのプロセスにも取り組んでいるというニュースも目にします。

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引用:EE Times Japan(2019.5.8)より

この5 nmや3 nmというのはゲート長や配線ピッチ等の、実際の半導体デバイスのサイズを表すものではなく、あくまでプロセスルール集積度を表す指標、あるいはビジネス観点での指標とでも言うべきもの)を指してはいるものの、微細化が進んでいることには違いないです。

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半導体微細化の推移と将来予測
引用:平本俊郎(東京大学生産技術研究所)『日経新聞「経済教室」』(7月18日)
参照:「7nmの半導体」に7nmの箇所はどこにもなかった


”職人化”する半導体プロセス

半導体のプロセス技術(製造技術)はもともとノウハウの塊だと思っていましたが、ここにきてその傾向がより顕著になっているんじゃないかと感じています。

特に、微細化に直接関係するリソグラフィー技術としてEUV(極端紫外線)が使われるようになってから、EUV装置としてはオランダのASMLというメーカーにシェアが集中し、製造技術としてはSamsungがEUVプロセスの歩留まり向上に苦労しているというニュースもあり、先行する企業が総取りしていくような状況が加速するような気配がします。

リソグラフィー
トランジスタの形状や回路のパターンを半導体基板上に形成する技術です。回路のパターン等を基板に転写する際に光を用いるフォトリソグラフィーが一般的ですが、どこまで微細なパターンを描けるかは照射する光の波長に依存するため※、(特別な手法を用いない場合には)可視光だと200 nm程度が物理的な限界です。(EUVでは13.5 nmの波長の極端紫外線を用いる)

※顕微鏡にしろ、フォトリソグラフィーに用いる露光装置にしろ、光学系の解像度の限界は光の波長の半分程度です。


山口 周さんが著書(『ニュータイプの時代』ダイヤモンド社)の中で、顧客に提供している価値には「役に立つ」と「意味がある」の2軸があり、

「役に立つ」市場では勝者総取りが発生する一方で、「意味がある」市場では多様性が生まれる

と指摘されていますが、(従来の)半導体製造はまさしく「役に立つ」市場です。
(機能的な便益のみの市場・プロダクトの場合、価格や性能などのみが評価指標のため寡占化するが、高級車やブランド品のようにブランド価値や固有の「意味」を持つ市場・プロダクトは多様化する)

微細化技術を先行して極めた会社が総取りする、”職人化”した企業の寡占市場になっていくのではないでしょうか。


プロデューサー化による「意味」の付加

テスラのSoC内製化、AppleのSoC内製化という話は、新たなトレンドや市場の創出につながるのでしょうか?

半導体プロセス市場の職人化が「役に立つ」市場の流れなら、「意味がある」市場の変化が、各社のSoC内製化に代表されるようなトレンドだと思います。

これまで、半導体市場は高速化(クロック数の向上、マルチコアによる処理速度向上 etc.)や低消費電力化(ARMアーキテクチャ etc.)など、性能が主な評価指標になっていました。

しかし、AI、自動運転、IoT、XRなど、PCやスマートフォン以外の領域のテクノロジー進化が進むにつれ、その用途が多様化しています。そのような現状の中、汎用的な高性能化ではなく、サービス・ソリューション毎、用途に合わせた最適化が重要になってくると考えます。
その観点から、サービスデザイン、プロダクトデザインの中で、半導体も含めた全体価値を高め、意味づけしていく、プロデューサー企業が飛躍していくのではないでしょうか。

サービス・プロダクトの1つの重要な要素として、全体デザインの中で半導体も最適化していく、SoC内製化の流れはそのようなトレンドの一面の現れかもしれません。


(半導体業界自体にはあまり見識がないものの...)
最近の動向などから思うところを書いてみました。

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