![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/123894872/rectangle_large_type_2_afdd53b82f4537c7cc1fdd2bf7b6e779.jpeg?width=800)
『母を亡くして』…思い出の着物
2023年7月9日に逝去した母にまつわる話です。
* * *
母は着物好きだった。
が、それを知る人は少ないと思う。
和装で外出することは滅多になかったから。
でも、実家の2階の和室にある二竿の和ダンスには、
ぎっしりと母の着物が詰まっている。
5月、亡くなる2か月前。
私は、ホテルで開催されるパーティーに
着物で参加することになり、
母のものを借りるため、すべて見せてもらった。
茄子紺の地に真っ白な月下美人の染め、
光沢のあるグレーに螺鈿で描かれた花模様、
紅型、芭蕉布。
和服というより“作品”と呼ぶにふさわしいものばかり。
「これ全部、いつかあなたのところに行くんだから」。
母のその言葉は、
嬉しいというより寂しく私の心に響いた。
そんななか、
ひときわ目立って地味な着物があった。
紫の地色から、ぼおっと浮き出るような植物の模様。
「あなたのお宮参りのときに私が着たのよ」と母。
当時はクリーム色の地色だったが、母乳が出過ぎてシミになり、
染め直したのだという。
ほかの着物に比べたら見劣りするが、
最初の着物であり、私との歴史を刻んだもの。
だから、染め直してでも手元に置いておきたかったのだろうか。
母の死から5か月。
まだまだ上手に着こなせてはいないが、
母のためにも、できる限り袖を通そう。
生きているときには叶わなかった、
二人で和装でお出かけ。
まずはこの思い出の着物から、はじめることにする。