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いしのおはなし

いしがひとつ、ポツンとありました。
このいしは昔からずっとこの場所にありました。
昔は今よりもう少し大きないしでした。

いしは、この場所でいくつもの季節をこえてきました。

夏は、あつくてあつくて。
でも、いしはじっとガマンしました。
だからいしは、じわじわ溶けました。

秋は、木枯らしがいしの心に吹きます。
なんだかさびしくて、いしの体にはヒビがはいり
涙のかわりにポロリといしのかけらが落ちました。

  冬は、寒くて寒くてこごえたいしは
だんだんちぢんで小さくなりました。

 春、出会いの季節がやってきました。

ある日、いしの方へ男の子がやってきました。
いしはだれかと出会うのはとてもひさしぶりでした。

しかし、いしはあまりにもたくさんの季節をこえたので
いしは小さな小さないしころになっていました。
だから男の子はいしに気がつきません。

バッタンっ!!

男の子はいしにつまづいてこけてしまいました。

「こんなところにいしがあったのか!えいッ!!」

 せっかく男の子に気づいてもらえたのに
いしはほうりなげられてしまいました。
 
いしは、小さな軽いいしころになっていたので
どんどん遠くへとんでとんで
そしてコロコロっと転がっていきました。
 
とばされたいしは、小さな小さないほんのかけらになっていました。

いしが落ちたところには
いしと同じ、かけらのなかまがたくさんいました。

いしは、いしではなくなりました。

たくさんのなかまの中で
いつまでもいつまでも、めぐる季節を過ごしました。
 
おしまい

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