⑩旅路を繋ぐモンキー125
長崎の朝は、蒼い雲に覆われていた。路地を歩く人々の足元には、雨が降り注ぐ前触れの水たまりがあった。
「また雨だよ」と私はため息をついた。ホテルの簡素な朝食をさっと終え、出発の準備を整えてチェックアウトを済ませた。駐車場で待つ小さなモンキー125は、どこか寂しげに見えた。愛車にまたがりエンジンをかけると、低く力強い排気音が響き、アイドリングを続けた。
防水ハウジングに収められたGoProを装着し、レインスーツに身を固めると、いよいよ出発の時が来た。125ccの軽量ボディで長距離の旅に挑む不安と、それでいて胸の高鳴る期待感が入り交じっていた。
「行くぜ!」アクセルを扱うと、モンキーはたじろぐことなく、スムーズに加速した。決して馬力不足を感じさせない軽快な走りが、自信を持たせてくれた。
豪雨に見舞われながらも、慎重に運転を続けた。台風2号の影響で梅雨前線が活発化しているらしく、予報では北九州が非常に危険視されていた。雨に移り気は全くなく、風も強く視界は悪かったが、モンキーに助けられながら、フェリーターミナルのある門司港へとひた走った。
かなり過酷なコンディションの中、なんとか新門司港に辿り着いた。バイクから離れ、ずぶ濡れの姿を振り返ると、ここまでの道のりが何とも言えず実感された。露天の駐車場でうっすらと目を凝らすと、遠くに東九フェリーの船影が浮かんでいた。九州を離れる時がついに迫っていた。
乗船手続きを済ませると、大部屋内の船室に案内された。窓の外は雨模様の寂しげな景色だったが、船内には必要な設備が整っており、行きのフェリーと同様に、まるでホテルのようなくつろぎ空間がそこに広がっていた。
船室にたどり着いた私は、荷解きを済ませるとすぐに風呂場へ向かった。熱い湯船に身を沈めると、心も体もほぐれていくような気がした。あの暴風雨の中、長崎から新門司まで小さなモンキー125で走り続けた。体力だけでなく、何よりも安全に走行することに集中したため、神経が削られた。
船内の食事を自動販売機で手に入れ、食堂の電子レンジで温める。簡素ながら満足のいく食事だった。一口、また一口と食べながら、その後ビールを流し込んだ。船室に戻ると、すぐに深い眠りに落ちていった。
翌朝、私はすでに徳島港に着いているフェリーの中で目を覚ました。ゆったりと朝食を取り、洗濯をした後はロビーで雑誌を手に旅の疲れを癒した。
窓の外を見ると、トラックや乗用車が次々とフェリーに乗り込んでいく光景が目に入った。いよいよ本土へ渡る時が近づいてきたのだ。明日はついに本州への上陸だ。
これまでの道のりを振り返れば、モンキー125に跨って長距離を走破してきた充実感と達成感に浸ることができた。しかし同時に、経験不足を露呈する場面も多々あった。いずれにせよ、バイクツーリングの醍醐味と難しさを、身をもって知ることができた旅だった。
昨夜、船内に固定されたモンキー125は、ひどく汚れまみれの姿だった。それでも、雨に打たれながらもひたすら走り続けてくれたことに、感謝の念がこみ上げてきた。達成感と共に、次はもっとゆっくりと景色を堪能できるよう、スタイルを変えてみようと考えた。これからの期待に胸が高鳴る思いで、船上での時間を過ごした。
ついに東京港へと上陸する日が訪れた。船は予定時刻通り、朝5:30に東京港に着岸した。旅の終着点を迎え、喜びと寂しさが入り交じる複雑な気持ちになった。
自宅に戻ると、GoProで撮影した映像を少し見返してみた。撮影が中断してデータにブランクがあり、到底満足のいく出来映えではなかった。バッテリー残量にも気を配る必要があり、散々な目に遭った。メンテナンスをしっかりと行う必要があると痛感させられた。
それでも、モンキー125に乗って旅をしたことの充実感は何物にも代えがたかった。長距離のフェリー移動とツーリングを一人で成し遂げられたのだから。
「ありがとうな。本当によくやってくれたよ」と思わず愛車に感謝の言葉を発した。素晴らしい経験と思い出を残せたのだ。
次なる旅を夢見ながら、私はモンキー125の洗車とメンテナンスに取り掛かった。きっとこの小さなバイクは、またいつか地平線をひたすら走り続けることだろう。そう確信していた。
数日後、メンテナンス作業を終えてモンキー125にまたがると、久しぶりに愛車のハンドルを手にした感触がよみがえってきた。長距離フェリーとツーリングの道のりが思い起こされる。
そして、GoProで撮影した映像の編集を進めるごとに、思い出が次々とよみがえってきた。走行映像を眺めていると、道中の風景の変化に気づかされた。分け入り難い荒れ果てた道から、徐々に雄大な海岸線の風景へと移り変わっていく。モンキーと共に歩んだ行程が、視覚的にも実感できた。
フェリーの船内に収められた飲食施設や娯楽施設の映像が続く。当時は疲れを癒す貴重な時間だったが、今になってみれば、そこにもまた旅の醍醐味があったことが分かる。船上デッキからの風景は、まるでダイナミックな絵画のようで、言葉を失いそうになった。
「本当にすばらしい経験ができたんだ」と映像を眺めながら呟く。
発見の喜び、達成感、緊張感、それらすべてが私を成長させてくれたように思えた。
防水対策や電池管理など、不行き届きな点も多々見受けられたが、それでもこの経験に勝るものはなかった。手探りの中でモンキー125と試行錯誤を重ねながら、結局はツーリングを達成できたのだ。
「この教訓を生かし、次はさらに完璧な旅を」と新たな目標に向かって、探究心と決意を新たにした。
時折編集作業を中断して窓の外を見やると、すっかり初夏の風が吹いていた。
ついに最初の編集作業を終えると、旅の第一話が完成した。この思い出の記録に全力を注いだ。
「おまえのおかげで、ここまでこられたんだ。ありがとうな、モンキー」
日々のバイクライフを大切にしながら、次なるチャンスを心待ちにしている。
【あとがき】
このマガジン「モンキー125渡り鳥の旅 - フェリーを拠点に西日本を遍く」は、私自身の記憶を辿りながら書き起こした、実体験に基づく物語です。旅の途中で断片的に綴った走行映像や写真を手がかりに、あらためて体系立てて物語化を試みました。
単なる旅行記録にとどまらず、当時の心境の変遷や気づきなども織り交ぜることで、よりたくましい価値を持った一冊に仕上がったのではないかと思います。
もちろん、すべてを完全に正確に記憶し続けることはできません。一部のエピソードはフィクション化せざるを得なかったかもしれませんが、骨子となる経緯そのものは、できる限り忠実に再現するよう努めました。
この作業を通じて、旅の真の意味を、改めて実感することができました。旅とは目的地への到達だけでなく、そのプロセスそのものにこそ醍醐味があることを教えられたのです。
長距離ツーリングという過酷な旅程にあって、幾多の困難にぶつかりながらも、モンキー125との絆を深め、無事に目的地にたどり着いた達成感。ひとつひとつの道のりの中に、学びと発見がありました。それが旅の醍醐味なのだと気づかされました。
編集を重ねるごとに、当時を鮮明に思い出すことができました。雨に打たれながら、モンキー125が前へひたすら進む姿。台風の影響で視界が遮られ、危機的な状況に陥った場面もありましたが、それでも前に進むしかありませんでした。バイクに寄り添い続けることが求められました。
時に心が折れそうになりながらも、モンキーはひたすら前進を続けました。私もまた、そうあり続けねばなりませんでした。頼れるパートナーがいたからこそ、長距離の旅を成し遂げられたのです。
メンテナンスの際に、モンキー125の身体中に付着していた泥や汚れを拭き取ると、道のりの過酷さが改めて実感されました。しかし同時に、耐えぬいてきた道のりへの誇りにも満たされました。
映像データに抜けがあり、満足のいく動画にはなりませんでしたが、この体験の意味を否定することはできません。むしろ、これからの旅のための課題を見出すことができたのです。
バイクツーリングの醍醐味と困難を、身をもって知ることができた今回の経験。旅のプロセスにその真髄があることを、胸に刻みました。今を大切にしながら、いつかまた新たなる地平線を目指す日が来ることを心待ちにしています。
モンキー125との出会いは、可能性の扉を大きく開かれました。これからも、このバイクとの絆を大切にしながら、走り続けていきたいです。次なる目標を見据え、今を全力で生きていきたい。それが私の在り方であり、生き方なのです。
<筆者 自己紹介>
私は現在40代後半に差し掛かり、子供たちも徐々に自立し、自分の時間を満喫できるようになりました。免許を取得したのは30代後半でしたが、仕事と家庭のバランスで中々バイクに乗る機会がありませんでした。しかし、最近になってようやく自分の時間を楽しむ余裕ができました。大型バイクは維持にお金がかかりますが、手軽に乗れて維持費も抑えられるバイクを模索していました。そこで私が出会ったのがモンキー125です。このブログでは、私のモンキー125にまつわるエピソード、ツーリングの思い出、カスタムの詳細など、私自身が体験したことを共有していきます。
それに加え、私のYouTubeチャンネルでもいくつかの動画を公開していますので、ぜひ一度ご覧いただければと思います。🏍️✨
モンキー125の走行シーンと独特のサウンド、そしてツーリング体験を、まるで現地にいるかのようにお楽しみいただけます!ぜひご覧ください👇
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