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アメリカ60年代の映画界とアート界が間近に迫る。俳優&監督デニス・ホッパーが撮った写真に大興奮。

「つんどく的日乗」
個人ライブラリーを夫婦でひっそりやっています。
ライブラリーにある本とかレコードとか映画とかについての
気まぐれな作文です。

「アメリカの友人」のデニス・ホッパーがとてもいいね、
というところから今回の話は始まる。

ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースのボックスが出たので、
買ってしまった。お高いのに。
お目当てはデニス・ホッパーが主演している「アメリカの友人」。
何十年も前に映画館で観た。
期待して観たのに、良さが分からなかった。その時は。
その後何度か見直していたら、ある日、この映画にハマってしまった。
しかし、この映画の魅力をうまく説明できない。
ただただ、この映画の雰囲気が気に入ったのだ。
主演のデニス・ホッパーが、これまたいいのだ。

「アメリカの友人」のデニス・ホッパー。映像といい、表情といい、いい感じです。

ホッパーを最初に見たのは「イージーライダー」だ。
高校生の時にこの映画を観た。冴えない俳優だと思った。
ピーター・フォンダが圧倒的にカッコよくて、
ジャック・ニコルソンがやっぱり強烈。
ホッパーは髭面、サングラス、テンガロンハットで顔がよく見えないし、
いつも金の心配ばかりしている感じだった。

「イージーライダー」のホッパー。奥は、ジャック・ニコルソンとP・フォンダ。
奥の方に目がいってしまう。

デニス・ホッパーはいいねぇ、
と思えるようになったのは随分と大人になってからだ。

「アメリカの友人」の舞台はハンブルグやパリだが、ホッパーは、
そこにアメリカ人として登場する。タイトルのアメリカの友人とは彼のことだ。
テンガロンハットをいつも被っていて、なにか裏がありそうな雰囲気が満々。
実際、名画の贋作を作らせて売っている男で、犯罪に手を染めている。
この映画では、額縁職人のヨナタン(ブルーノ・ガンツ)を騙しながらも、
なぜか窮地から救い出したり、友情めいた行動をとったりする。
なにか魂胆があるのでは?主人公はそう思うが、そういうわけでもない。
こういう曖昧でうさん臭い感じがホッパーはうまいなあ。
これが地なのかもしれない。

いつも照れているような表情で、見た目はいい人そうな印象だ。
主演なのに、強い個性はなくて、どこにでもいる普通の人のよう。
「アメリカの友人」で演じているトム・リプリーという役柄は、
かつてアラン・ドロンが「太陽がいっぱい」で演じた役のその後の姿だ。
ドロンのように、陽光の中にくっきりと浮かび上がる
美しくも妖しい魅力はホッパーにはない。
ハンブルグの天気のようにどんよりした雰囲気、
つまり、うさん臭いという表現に落ち着いてしまうのだ。
今見ると、そこがいいのだと言えるが、
バブル期の若かりし頃にはピンとこなかった。修行が足りなかった。
こういう俳優の魅力を理解するには、やはり年季が必要なんだな。

カルトヒーローたちの友人という立場だから
なしえた奇跡的なショットの数々。

ここに、ホッパーの写真集がある。
ホッパーがカメラマンとして撮影した写真を集めたものだ。
彼は写真家としての実績もある。
本に収められているのは、1961年から67年までの写真だ。
60年代のハリウッドとアート界に多くの交流を持つ男だ。
写真の腕前も見事だが、何と言っても被写体がすごい。
ジェームス・ディーン、ピーターとジェーンのフォンダ姉弟、アンディ・ウォーホル、リキテンスタイン、その他、60年代アメリカンカルチャーのヒーローたちのごく自然体な姿を、友人として間近からカメラに収めている。

ジェームス・ディーン。「ジャイアンツ」の撮影現場にて。
アンディ・ウォーホルとランチ。ち、近い。
ジョン・ウェインとディーン・マーティン。「エルダー兄弟」撮影にて。
こんなとこから写真を撮れるなんて。そして見開きの迫力。

この本はとても大きい。縦40センチ×幅30センチほどの特大サイズ。
見開きだと幅が60センチくらいになる。私が持っている本としては最大級。
見開きで1枚の写真だと、その時代に吸い込まれそうな臨場感が半端ない。
この巨大さがこれらの写真の記録的価値をより高めてくれる。
印刷された本ならではの魅力だと思う。

右隣にあるのは縦30センチのレーザーディスク。それより随分でかい。

デニス・ホッパーは永遠のイージーライダー。
あの世でも走り続けているに違いない。

デニス・ホッパーは、俳優として映画監督として、あるいはアーティストとして、多くの実績を残しているが、その世界の中心に居たという印象はない。
どちらかというと、中心から少しズレた周縁に近いところにいて、
クールと狂気が同居したような危なっかしさで、私たちを魅了してきた。
その危い魅力は、彼の監督作「ラストムービー」で見事に結実している。

虚実の境界線を自在に行き来するデニス・ホッパーの魅力は、死後12年経っても尽きないなあ。

成功と失敗を繰り返した人の話はおもしろいです。


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