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【妊活×心理学】頑張りすぎない妊活のススメ~妊活をやめたら赤ちゃんができるって本当?~

“134.1万件”。これは、インスタグラムに投稿された「#妊活」の投稿数である。※1
このハッシュタグを覗いてみると、毎日の基礎体温グラフ、不妊治療の結果報告などと共に、「今月もダメでした」「いつ妊娠できるんだろう」「友人の妊娠報告を素直に喜べません」などのコメントが添えられており、妊活や不妊治療に励む女性たちの悩みや不安などリアルな心情が見えてくる。
また、「#ベビ待ち」「#ママになりたい」「#パパにしてあげたい」「#ポジティブ妊活」「#妊活仲間募集」など、妊活に関連するハッシュタグを並べてみても、子供を授かりたいと願う女性の不安や葛藤をうかがい知ることができる。
2015年に行われた調査※2では、不妊の検査や治療を受けたことがある、と答えた夫婦はおよそ5組に1組。検査や治療を受けていないまでも、妊活に励んでいる夫婦はそれ以上だと考えられる。

「赤ちゃんは、授かりものだから」「コウノトリに任せて…」と言われるように、妊娠は、生殖医療においてまだ解明されていない部分も多く、不妊の原因が明確でない場合も多い。
働きながらの通院、治療費、夫婦での温度差、周囲からのプレッシャー…様々な原因と重なり、妊活に対して、心身ともに強いストレスを感じている女性も少なくない。一人で抱えてため込みがちで、目に見えない「ストレス」をケアすることで、日々励んでいる妊活を後押しすることはできないか――。心理学をベースにしたメンタルケアの専門家にインタビューを行った。

話を伺ったのは、30~40代女性に特化したオンラインカウンセリングサロン「LIB Laboratory(リブラボラトリー)」代表の今井さいこさん。彼女も妊活・不妊治療を経験したひとりで、トータル3年半の妊活を経て、体外受精により2児を授かった。その経験を活かし、心理学を基にしたメンタルケアや夫婦カウンセリング、妊活女性が集まる少人数制「妊活CAFÉ」などを通して、妊活に励む女性をメンタル面からサポートする活動を行っている。

※1 2022年8月現在
※2 2015年6月第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査):国立社会保障・人口問題研究所 

Q.妊活には、ストレスをためるのはよくない、と言われますが、やはり身体に影響があるものなのでしょうか?

ストレス状態やメンタル面は、目に見えないものなので、影響があるのかどうか分かりづらいですよね。ストレスを感じている状態というのは、身体は緊張状態になるんです。筋肉がこわ張る、血の巡りが悪くなる、自律神経が乱れるなど、体にはよくない影響となるので、ストレスをある程度ケアできる働きかけが、妊活には必要です。
メンタルケアができたからと言って、必ずしも妊娠に繋がるわけではもちろんありませんが、生活習慣やクリニックなどの通院、薬を飲むなど指導を受ける中で、メンタル面がいい影響を与えることは、大いにあると考えられます。また、一通りの検査を受けたうえで、身体的に夫婦共に問題がない場合は、ストレスが一因である可能性を考えてみてもよいでしょう。
オハイオ州立大学の研究※3では、「ストレスが不妊のリスクを増加させる」ことを研究結果が示しています。その研究によると、強いストレスを感じている女性はそうでない女性と比べて、「妊娠する可能性が毎月あたり29%低かった」そして、「不妊の臨床定義を満たす可能性が倍以上高かった」ということが分かったそうです。数字で表すと、ストレスがいかに妊娠に影響を与えているかが分かります。

※3 2014年オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターによる研究。
コートニー・デニング - ジョンソン・リンチ氏率いる研究チームが、受胎前に受けるストレスが不妊の一因である可能性を示唆するデータを示し、高レベルのストレスと妊娠確立の減少の関連性を実証した。唾液で測定されるストレスの生物学的指標であるα-アミラーゼのレベルが高い女性は、 この酵素レベルの低い女性に比べて、 妊娠する可能性が毎月あたり29%低く、避妊していない性交を12ヶ月行ったにも関わらず、妊娠していないという不妊の臨床定義を満たす可能性が倍以上高かったことを明らかにした。

Q.では、ストレスをケアするには、何から始めればよいのでしょうか?

まずは、自分のストレス状態を知ることが大切です。
「妊活でストレスが溜まっている」状態とは、具体的には何にストレスを感じているのでしょうか。妊活におけるストレスの原因は、「不妊治療・通院」「仕事」「夫婦関係」「自分」「プレッシャー」「お金」など様々考えられます。
まずは、思いつくものを紙に書いてみましょう。そして、その横にそのストレスによって感じる感情を書いてみます。「今月は妊娠できなかった」という事実がある場合、「これだけ努力してきたのにダメだったことが悔しい」「先月もダメだったから連続して妊娠できなかったことが悲しい」「妊娠できない体なのではないかと不安を感じる」など、感情まで書き出してみると、自分では思っていなかった感情や思いに気づくことがあります。漠然とした気持ちを、1つひとつ紐解くことが、ストレスケアの第1歩となります。

Q.「なかなか妊娠できない…」焦る気持ちも身体によくないのでしょうか?

「まさか私がこんなに妊娠できないなんて…」「今月こそは絶対妊娠したい!」と、妊活が思うようにいかないと、焦る気持ちは増すばかりですよね。その焦る気持ちもまた、ストレスのひとつとなり、身体に緊張状態を作ってしまいます。焦りは、意外と自分で作ってしまっているかもしれません。先ほど自分のストレス状態を知ることから、とお伝えしたように、「私って、何に対して焦っているの?」と原因が分かるだけでも、気持ちが軽くなることもあります。次の4つに心あたりはありませんか?

<焦りの4つの原因>
時間に対する認知
→年齢に対する考えや、自分が決めたタイムリミットなど時間に関わる自分自身の考えや価値観からくる焦り
理想と現実のギャップ
→ママになりたい気持ちとそうなっていない今の自分に対するギャップ
やれることをやっていないという気持ちの表れ
→妊活で「あれをやろう」「これをやろう」といろいろ考えているのに行動できていない
自信のなさの表れ
→妊娠した周囲の人と自分を比べて自信を失っている状態

私の元に相談にやってきた女性で、「〇〇しなきゃ」というのが口癖になっていた方がいました。③のように、あれもこれもやらなきゃ、と気づかないうちに自分で自分に負荷をかけて、焦りに繋がっている場合もあります。そういうときは、やることを3つくらいに絞って、それができた自分を褒めてあげてください。

Q.夫婦間で、妊活に対する温度差がある場合、夫に協力してもらうにはどうしたらよいでしょうか?

夫との意識の違いというのは、妊活の悩みでもとても多い問題です。しかし、妊活が原因ですれ違い、夫婦関係が悪化してしまうと、本末転倒ですよね。子供を早く授かりたい、年齢も迫っている、という妻と、自分の価値観を押し付けられるのは気分が悪い、という夫、それぞれの言い分は、それぞれの立場で正しいものです。自分の方が正しい、という考えになると、妻は夫に妊活を強制させるようになりますし、夫は妻の意識を妊活からそらせようとしはじめます。
人は、自分で意思決定できない選択を迫られると「コントロールされたくない」と反発したくなる心理が働きます。これを「心理的リアクタンス」と言います。よくある「勉強しなさい!」「今しようと思ってたのに」という親子のように、「この人、自分をコントロールしようとしてる」と思うと反発心が働くのです。
まずは、相手をコントロールしようとしている自分に気づくこと、そして、コントロールしようとするのをやめることです。いくらコントロールしようと思っても、他人のことはコントロールできないので、余計にストレスがたまるだけです。それよりも、自分が今、自分でコントロールできることをさがすことが大切です。
自分がコントロール出来ることのひとつは、まず夫婦関係を修復することです。妊活に対する意識の違いから夫婦関係が悪化してしまったのならば、夫からすると妻に対する信頼感が落ちている状態です。そこを回復させる、元の状態に戻すことから始めましょう。「そんなことしていても妊活が止まっちゃう」と思ってしまうかもしれませんが、もし、この状態で子供ができたとしても、夫婦の気持ちにしこりが残ったまま育児が始まるのです。夫に加えて、さらにコントロールできない赤ちゃんまで増えたらどうなるでしょうか。夫婦関係が修復されていれば、2人で協力して育児をすることができますね。女性は毎月の生理などで常に意識することができますが、男性はそうではないので妊活に対して意識の差があることは当然のことです。「子供が欲しい気持ちは一緒のはず」と思って、夫婦で妊活をどうするか、二人できちんとすり合わせることが大切です。

Q.なかなか妊活がうまくいかず、気持ちが下がってしまったとき、持ち直すにはどうしたらよいでしょうか?

溜まってしまいがちなマイナスな感情は、なにより外に吐き出すことが大切です。悔しい、悲しい、苦しい、つらい、という気持ちを、紙に書いたり、ブログやSNSに書く、誰かに話をする、などして、外に出すことを心掛けましょう。

また、妊活が長くなってくると、落ち込まないための自己防衛策として、期待しないように「またダメかもしれない」と予防線を張り、結果を見て「やっぱりダメだった」と考える癖がついてしまうことがあります。実は、その「やっぱりだめだった」が、妊娠できないのが当たり前と、自分を否定していることに繋がってしまいます。
心理学用語に“自己効力感”という「自分にはその物事を達成する能力があると信じる力」を指す言葉があります、この自己効力感を高めることで、下がってしまった気持ちを持ち直してみましょう。
自己効力感は、次の5つによって高めることができます。
1.達成経験(最も重要な要因で、自分自身が何かを達成したり、成功したりした経験)
2.代理経験(自分以外の他人が何かを達成したり成功したりすることを観察すること)
3.言語的説得(自分に能力があることを言語的に説明されること、言語的な励まし)
4.生理的情緒的高揚(酒などの薬物やその他の要因について気分が高揚すること)
5.想像的体験(自己や他者の成功経験を想像すること)

この中でもおすすめなのが、5の想像的体験です。自分が妊娠したときのこと、ママになったときのことをできるだけリアルにイメージしてみるのです。私はよく、「ママになった未来の私を描くコラージュ」を作ることを妊活中の方におすすめしています。マタニティ期をどう過ごしたいか、こんな出産をしたい、こんな生活を家族で送りたい、その気持ちをありありと感じて想像することで、ワクワクする妊活の気持ちを取り戻してみましょう。妊活において「妊娠することが」ゴールだと考えている女性は多いですが、その先も人生は続きます。悩みを深くしてしまっている今は、通過点にすぎない、と考え、その先の自分を想像してみましょう。
そのほかにも、マタニティ雑誌を買って自分が妊娠した時のことを想像してみる、出産した時の自分への手紙を書いてみる、などの方法もおすすめです。

Q.ストレスケアと合わせて、そのほかに取り入れられることはありますか?

妊活には、食事や生活改善など様々な要素が大切ですが、ストレスケアと合わせて私がよく指導をしているのは、睡眠です。このサプリで妊娠できました、などと聞くと、人は即効性のあるものに飛びつきがちですが、妊活には何より心と身体の基礎を作ることが大切です。その、心と身体の基礎を作るには睡眠が重要な役割を担っています。悩みがあったり、気がかりがあるとそればかり考えて夜眠れない、という経験は誰しもあると思いますが、メンタルのバランスがくずれてくると、睡眠に影響する人はとても多いです。そして睡眠がきちんととれていないと、マイナス思考から抜け出せなくなるなど、悪循環に陥ってしまいます。
また、妊活において必要なホルモンは夜寝ている間に分泌されています。質の良い睡眠をとることで、ホルモンをしっかり分泌できますし、自律神経を整える、生活リズムの改善など、身体に様々なよい影響を与えてくれます。
寝る前はテレビやパソコンを見すぎないこと、部屋の明かりを暗くすること、就寝時間ではなく起床時間を整えるなど、簡単にできることから心がけてみましょう。

Q.妊活をやめたら妊娠する、という話を聞いたことがありますが本当なのでしょうか?

不妊の原因がはっきりとわかっている場合は医療の力を借りることが必要だと、私は考えています。ただ、妊活を頑張りすぎるあまり、メンタル面で追い詰められている状態や、妊活や不妊治療をすること、毎日基礎体温を測ることがストレスに感じるような状態ならば、一旦お休みしてみる、という選択肢は必要だと思います。確かに「妊活をやめたら妊娠した!」という話はよく聞きますね。これは「子供が欲しい」から、だんだんと「お金もかかっているし結果をださなきゃ」「家族や夫に良い報告がしたい」「妊娠しなきゃ」と、いつの間にか執着に変わってしまっているために、その一種の縛りのようなものを、一度心から手放した結果、気持ちにゆとりが出て、緊張状態から解き放たれ、血の巡りが良くなったり、安眠につながったりなど体に良い影響が出た、ということだと私は考えています。
しかし、妊活を休むことで余計に焦ってしまうようなら逆効果なので、自分がどう感じるか、を一番に考えて選択するようにしましょう。妊活に限ったことではありませんが、何事も「人にこう言われたから」ではなく、自分が納得感を持てるかで道を決めることが大切です。
妊活を休む休まない、というよりも、頑張りすぎて自分を追い込んだりストレスで体に負荷をかけすぎることが一番身体にとって良くないことです。


赤ちゃんが欲しい、という思いが強くなるあまり、自分で自分を追い込んでしまっているとしたら。目に見えないストレスが、本来備わっている身体の機能の働きを妨げてしまっているとしたら。それに気づき、ケアすることができるのもまた、自分自身。
まずは、今の心の状態や動きを知り、自分で自分の気持ちを楽にコントロールすることが、まだ見ぬ命を育む近道となりそうだ。

今井さいこ さん
高校生の時「環境による心への影響」に興味を持ったことから、大学で心理学を専攻。臨床心理学を中心に認知心理学、知覚心理学、行動心理学、生物心理学、発達心理学を学ぶ。その後、社会人としてベンチャー企業に勤める傍ら、心理カウンセラーとしての勉強と実践を積み、2009年より女性向けの個人向け心理カウンセリングを開始。自身の妊活経験で「妊活中も、妊活以外の女性としての楽しみを充実させたい」と感じたことから、2013年より妊活女性・ご夫婦向け心理カウンセリングを開始。現在、妊活を含め、ライフイベントと仕事の両立に悩む女性の中のメンタルケアや企業でのメンタルヘルス研修などを行なっている。


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