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気になるクリーニング屋

最近、近所のクリーニング屋が驚きの変貌をとげた。
どうでもいい事なのに、やたら気になっている。

その店には数回通ったことがある。
中年夫婦が営んでいる小さな店だ。日当たりが悪いうえに照明を灯していないので、一日中薄暗い。
店の前には、案内板や花などの飾りものは何も置いていない。
代わりに客を迎えるのは、「両替お断り」と太い筆で書かれたポスターサイズの貼り紙だ。
引き戸の一番目立つ場所に貼ってある。薄暗さと相まってハンパない威圧感を感じたが、きっと両替を頼まれて困ったことがあったのだろう、と私は自分を納得させた。

夫婦は2人とも無愛想で、「両替お断り」以上に威圧感があった。丁寧な対応には程遠く、とにかく感じが悪かった。
玄関はそこの住人を表すと言われているが、その通りだなと思いながら帰ってきたのを覚えている。

別のクリーニング屋に行くようになってから6年程経つが、その店は特に変わった様子もなく営業を続けていた。


変化がおとずれたのは、2週間前のことだった。
なんと、殺風景だった入口にイルミネーションライトが付いている。
軒下の端から端にぶら下げられた一本のコードに付いた無数のライトが、七色に点滅しているのだ。
クリスマスシーズンでもないこの時期に突如現れた光の演出に私は驚いた。
しかも、日が暮れる前からピカピカしている。
相当気合いが入ってる。

それだけじゃない。
入口のガラスに満面の笑みを浮かべた招き猫の大きなシールが貼られているじゃないか。

殺風景で薄暗く、威圧感漂っていた入口が、七色の光の下で猫が「おいで」と手招く明るい雰囲気に変わったのだ。
センスの良し悪しは別として、以前よりもずっと印象が良い。

私の頭の中で、くだらない考えがグルグル回り始めた。

「あの夫婦にいったい何があったんやろう?」
「いよいよ顧客満足度を上げに来たのか?」
「いや、待てよ。玄関がそこの住人を表すなら…、
 実は愉快な人たちなのかもしれへんなぁ。」
「実は楽しいことが好きとか。」
「実はめっちゃいい人やけど、客には不器用なんかなぁ。」

妄想が止まらない。
ついに、夫婦が「あはは。あはは。」と笑いながらパーティーしている光景まで浮かんできたので、いい加減あほらしくなって妄想をやめた。

いずれにしても、夫婦で色々と考えたんだろうなと思うと少しほっこりした。
彼らに対する悪かった印象が少し良い印象に変わった。そういう変化は、なんだか嬉しい。

自分が相手に対してネガティブなイメージを持ってしまうと、相手の言動をどんどん悪い方向に捉えてしまうことがある。逆にポジティブなイメージを持つと、多少相手の言動が悪くてもさほど気にならない場合も多い。
その店に対して初っ端からネガティブな印象を受けた私は、もしかしたら必要以上に嫌悪感を抱いてしまったのかもしれないと思った。
もちろん外観の印象が良くなったからと言って、実際彼らの対応も良くなったかどうかは分からない。
けれど、「実は愉快な人かも」とイメージして接接したら、以前ほど嫌には感じないかもしれない。
そうだったらいいなぁと思う。

よし、久々に行ってみよう。

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