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チェッカーフラッグ

何気なくインターネットの通販サイトを見ていたある日、ある画像にオレの心は奪われた。イギリスのサブカルチャーご用達のブランドがデザインした白と黒のチェック柄が入ったポロシャツ。その紋様はスカとパンクロックを融合させた音楽「2トーン・スカ」のシンボルを彷彿させるデザイン。チェック柄の上からしれっと左胸に入るあの月桂樹のロゴ。

いやこれ、シャレオツやん。勝ち組やん。

これ着たらオレ、ロックで天下取れるやん!

パンクロックDJヒカルが見たら「チョーヤバイ!」って言われてチヤホヤされるパターンやんけ!

もうそのポロシャツがカッコイイ以外にないと完全に思い込み、勢いそのままに購入ボタンをポチっとな。ワクテカしながら到着を待ちわびていたが、届いた実物を見、はたと我に返る。理想と現実、その違いに「ちゅどーん」と頭の上にドクロマークの噴煙が上がった。

チェック柄がデカい。白と黒。ひとつひとつがデカい。

画像では、ジョジョ立ちしたモデルが帽子を斜めに被りながらさらりと着こなしてる風で、英国感にじみ出ていたのに、オレが着るとメルヘン風コメディ劇に出てくる三番目にセリフが多い役が着る舞台衣装にしか見えない。にじみ出るのは田舎者感。ピーコの辛口ファッションチェックだったら「野暮ったいわね」とお決まりのセリフで片づけられるパターンに違いない。

しくじった…。通販でよくあるダメ買いパターンにピッタリとハマってしまった。でもそれなりにお金もかかってるし、無理してでも今夏は着よう。きっとオレの価値観がズレているだけで、周りは違うかもしれないし。着ているうちに見慣れてくるよ絶対。そう自分で自分を騙して着まわしていった。

それから数日たったある夏の日。

「で、何なんですか、そのポロシャツ。チェッカーフラッグでしょ。F1好きなの?」

オレが気にしていたことをストレートかつ、とてもうまい例えで突っ込まれ、必死に守っていたペラペラのプライドは脆くも崩れ去った。それは県外でとある団体の行事に参加していた帰りの列車内。その団体で共に活動していたヒゲメガネ面が特徴的なNという人物に、容赦なくポロシャツをネタにされたのだ。

「うるせーよっ。買ったんだから今年の夏は着るんだよっ!」と返すオレ。

「遠くから見てモニカさんが終着点かと思いましたよ。チェッカーフラッグだけに。オレたちのゴールはここにあったのだ、と。ハハハハハ」

「やかましいわ黙っとれっ!おめえのメガネ、マドラーにしてやんよ!」

「いやー今度からモニカさんじゃなくてチェッカーさんですね」

そんなこんなで帰りの車内はどっと盛り上がり、ずっとイジラれまくるオレ。チェッカーフラッグの名付け親となったNは、面白いおもちゃを見つけた3歳児のように興奮してテンション上がりっぱなし。一刻も早く家に限ってこの呪われし鎧を脱ぎ捨てたかったオレを尻目に、駅に着いた後も飲みにつき合わされ、イジられ、ディスられ散々な目に会うことに。そしてその憂鬱な一日からオレに絡んでくる機会も多くなっていった。

日常で何かしらのチェックの柄を見つけると「あれ、モニカさんの同類いますよ」とか、会話の中に「チェッカー」の単語を混ぜておちょくったり。この野郎。今に見てろよ。再三再四イジられていた時、ふとしたことで反撃のきっかけが表れた。

その日もとある団体の懇親会が終わり、行きつけの寿司屋で飲みなおそうとNと移動した時のこと。寿司屋のカウンターに陣取り、おしぼりで手や顔を拭いながら一息つく。ふと横を見ると、Nのメガネのフレームが目に飛び込んできた。

ん?

フレームにデザインが施してあるぞ、白と黒のチェック柄だぞ。

んんっ?

チェッカーフラッグやんけ!

しめた、とばかりに白々しく言い寄る。

「で、何なん。そのメガネフレーム。チェッカーフラッグでしょ。今まで散々ディスってて好きやんけ。もしかしてオレのファンなの?」

えっ。目を丸くしたと同時にすぐにメガネを外してフレームを確認するN。そこには揺るぎなくあしらわれる白と黒の模様。二度見しようが三度見しようが、模様は変わらない。「しくじった」と思ったのだろう。一気に顔が赤くなり、「違うって」とのたまわりながら言い訳にならない言い訳を必死で探すN。因果応報。ブーメラン。ミイラ取りがミイラに。この場にふさわしい単語や熟語が次から次へと溢れ出し、二次会の雰囲気は最高潮に達したのであった。

あの夏からネタ元のチェッカーフラッグポロシャツは着ることはないが、ネタにされ、ネタにし返したヒゲメガネ面のアイツとは、腐れ縁なのかオレがその団体の活動を終えた今でも頻繁に連絡を取ってはつるむような仲になっている。

まあ、ある意味、ダメ買いではなかったのかもなあ。


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