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嘘は嘘でも差別は差別―――女性同性愛のフェイクカミングアウト

プロローグ

先月初日、いつものように Twitter を触っていると、あるツイートが目に飛び込んできました。
私の FF のどなたかがリツイートされたものでした。
後続のツイートを見るに、好意的なリツイートではなく、問題提起のためのリツイートだったようです。
その内容は、ある女性芸能人2人が同性愛を「カミングアウト」し、「エイプリルフールの嘘でした!」とツイートしたというものです。
衝撃でした。
今って本当に2023年ですか?
更に驚いたのは、それを面白がって消費しているファンらしき人々が多数存在していたことです。
なかには、当該芸能人のツイートを批判する方々に中傷めいた返信を送信している例も見られ、「どこが差別なんだ」という内容も見かけました。
そこで、今回私がこの件について分析したことを簡単にまとめてみることにしました。いち意見としてご一読いただけますと幸いです。

※注意※
以下本文では批判のためにホモフォビア的な言葉を引用したり表現したりすることがあります。閲覧には十分ご注意ください。

何が問題なのか

以下、かなり長くなりますが、7点に分けて問題点を解説していきます。

①「同性愛なんてあり得ないだろう」

既に多くの方から指摘されていますが、まず根幹となる大きな問題点について述べておきましょう。
なぜあのツイートが問題だったのか。
私自身は、
同性愛が冗談であるに違いないという共通了解のもとでエイプリルフールのネタとして消費し、存在する同性愛者の透明化を招いたから
からだと考えています。
このヘテロ多数の日本社会で、同性愛なら嘘と受け取られるだろうと考えネタにすることで、ただでさえ当事者が明らかにしにくい同性愛の透明化と異質化を促したことがこの問題の中核だと私は考えているのです。
あれが男女同士の嘘なら即刻炎上していたか、少なくとも異性ファンは良くは思わないでしょう。

②同性愛を巡る日本の現状

①で指摘していた透明化は、同性愛者の現状がどうであれ(どの社会においてであれ)、歴史を鑑みればいつでもしてはいけないことです。
しかし現代日本でするとなると更なる問題点が出てきます。
現代日本においては、未だヘテロセクシズムが幅を利かせ、同性愛者が数々の困難や差別に直面しています
この問題に関心をお持ちの皆さまであれば、日本が理解増進法案一つにどれだけ時間をかけているか、政治家たちの差別発言がどれだけ見逃されているか、多くの方はご存知かと思います。
何せG7の各国大使が遠まわしに苦言を呈しているレベルなのです。
このことを考慮すれば、今回の問題は単に配慮が欠けていたという範囲を超えています。
今なお正当な権利どころか、一部では存在さえ認められない当事者に著しい尊厳の棄損を与えるものです。

「同性愛をネタにできるってことは同性愛が浸透しているってことだろうが、指摘する方が差別だ」という意見もありましたが、一般でいくら浸透していても政府が法を以て同性婚を拒否していたら、明らかに異性愛と同性愛には扱いの差があると言えるでしょう。
絶対的な差別を軽んじておいてどうしてエンタメ消費を「受け入れの象徴」として礼賛できるのか、その矛盾具合が私には到底理解できません。
人権侵害が罷り通る状況で、マイノリティがエンタメ消費されることで受け入れを請わされる謂れはないのです。

③削除から謝罪(めいたもの)へのプロセス

さて、当該芸能人2人のツイートが公開されたのち、ファンたちが"お祝いの言葉"を大量にリプライしていた一方で、批判も湧き上がりました。
批判が段々と増えていくにつれ、本人たちもこれはまずいと思ったのか、2人揃って当該ツイートを削除しました。
しかし黙って削除するのも何となく気まずいためでしょうか、B氏はこのツイートで以下のように呟いています。

お付き合いありがとうございました! 先ほどのツイートはエイプリルフール限定のあの時間にだけたまたま見てくれたみなさんの心のいいねにしまってください

B氏によるツイート  2023年4月1日午後1:07

謝罪より先に削除を「あの時間にだけ」と表現し、「心のいいねにしまってください」と問題を終わらせようとしてしまいました。

④「不快な思いをさせてしまい……」

やがて問題が大きな批判の渦を巻き起こし、2氏は本件についてのツイートを公開しました。A氏によるツイートはこちら、B氏によるツイートはこちらです。

A氏

本日のエイプリルフール企画について、不快に思わせてしまった皆様に深くお詫び申し上げます。

人に優しく、楽しい世界を目指すためには、何よりも先ず自分自身が世の中のことをもっと知る必要があると痛感しました。 ご指導、ご指摘いただいた皆様、ありがとうございました。 その時々に相応しい言動をとれるよう精進してまいります。

そして傷つけてしまった皆様へ重ねてお詫び申し上げます。 本当に申し訳ございませんでした。

A氏によるツイート 2023年4月1日午後10:37

B氏

本日のエイプリルフール企画につきまして
不快にさせてしまった方々に深くお詫び申し上げます。

みなさまのコメントを拝見し、思慮が足りていなかったことを痛感いたしました。ご指摘くださった皆様ありがとうございました。

今後は、自身の言動が皆様にどう届くのかをもっと深く考えて行動してまいります。
不快に思わせてしまった皆さま、傷つけてしまった皆様、本当に申し訳ございませんでした。

B氏によるツイート 2023年4月1日午後11:23

しかしこれは所謂「ご不快構文」に他なりません。
即ち、「不快にしてしまった」とあくまでこちらの気分の問題にすることで問題をすり替えているのです。
差別発言をしたことで謝罪すべき立場になった有名人がよく使うことで批判の的となっている、典型的な手法です。

⑤ヘイトを呟くファンを制するどころか……?

そして今回の件を巡り、芸能人A氏とB氏のファンからは多くの擁護の声が上がっていました。
擁護と言っても、「謝罪してんだから良いじゃん」「気にしすぎ」「冗談として受け流すべき」から「LGBTは異常」といった中傷まで様々です。
そして、A氏は中傷を含むそれらの行為を窘めたり注意を呼び掛けたりすることなく、一部のツイートに「いいね」をしていたことが確認されました。
謝罪めいたコメントを発しながら、そのようなツイートに「いいね」を推していたということです。
なお、現在はそれらのツイートへの「いいね」は取り消されています。
参考となるツイートのリンクをお借りします。

⑥繰り返される"フェイク"カミングアウト

実は今回の"フェイク"カミングアウトにおいて、昨年起こったある出来事も取り上げられていました。
人気女性アイドルグループ所属のメンバーである芸能人2人が、「実は私たち、付き合っています」というような投稿をして批判されたことが、昨年もあったのです。
「去年もあったよな!それで今年もか!」と思われた皆さん、私もです。
あれだけ話題になっていたのにその教訓が一切生かされていない始末。
その出来事を気にせずにいられること自体、一つの特権であると言えます。

⑦ホモソーシャルの介在に関する疑惑

そしてもう一点、私が個人的に疑問に思ったことがありました。
なぜ、カミングアウトをエイプリルフールの嘘に利用して話題になるのは女性芸能人ばかりなのだろう
今回の芸能人AとBも、昨年問題になった芸能人2人も、全員女性なのです……しかも、職業上男性ファンの多い女性
一方で、女性ファンの多い男性芸能人同士で同性愛をフェイクカミングアウトする事例は私の知る限りあまりありません。男性芸能人同士で仲良くする様子を「カップル」っぽいと見られることはあっても、「結婚します」「お付き合いしています」といった嘘のカミングアウトは殆ど出てこないのです。
また、女性芸能人同士が両想いめいた親しい振る舞いをすることで人気を得る「百合営業」なんて言葉もある割に、男性同士でそういった「営業」をすることを指す言葉は思い当たりません。
これは私の予想ですが、ここには「ホモソーシャル」が介在しているのではないでしょうか。
そもそも数々の調査を参照すると、同性婚や同性愛に対する嫌悪感情は女性よりも男性の方が高いことが知られています。
この結果を単純に考えると
「じゃあ女性芸能人が同性愛カミングアウトなんかしたら男性ファンに嫌われるじゃん、なんでやるの?」
と思われるかもしれませんが、そこでポイントなのが最初に論じた「こんなのあり得る訳ないよねw」という暗黙の了解なのです。
女性同性愛は「有り得ないこと」「嗤って良いこと」とする蔑視感情、しかもあからさまな嫌悪を表さないソフトに見せかけた入り口、これらを利用して彼らは女性芸能人を囲む多くの男性ファンたちの空間におけるホモソーシャル(特にホモフォビア)を強化していると考えることは不可能ではありません。
(また、山下・源氏田による一橋大学の学生を対象とした研究によれば、男性回答者はゲイよりもレズビアンに対する好意の方が高く、その好意の差は、大して差がない女性回答者よりも顕著であったようです。)
一方で男性芸能人は、たとえ嘘であれ同性愛者を演じれば同じ男性から非常に厳しい視線(ホモフォビアによる蔑視)に晒されることになります。
それだけではなく、見る人の性別関係なく、「男らしさを損ねる存在」と見られる可能性も高いです。
これが"フェイク"カミングアウト問題における性差をもたらしているのではないでしょうか。

エピローグ

以上、今春に起きた虚偽のカミングアウトを巡る問題について、どこが問題なのかを一から論じてみました。
虚偽のカミングアウトそのものに潜むホモフォビアから、一連の出来事の流れにあった芸能人本人とファンたちの行動の問題点についても分析しました。
私たちはこうした問題に関心を持つとともに、万が一自分や好きな芸能人がこういったことをした場合、心から反省し謝罪し、学び取って二度と同じことをしないという決意を新たにしなければなりません。

それでは、またどこかで。さようなら。

もね


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