見出し画像

マネージャーはプレイヤーに非ず?  管理職の仕事を分解してみました

前回のブログでは、私の経験した3人の管理職のタイプを通して、管理職の在り方を考えました。
その上で今月は少し学問的な考察を加えたいと思います。

マネジャーの仕事

「マネジャーの仕事」と言われて思い浮かべるのは、ドラッカーが『現代の経営』の中で述べている「経営管理者の5つの活動」です。(マネジャー=管理職とお考え下さい)
その5つとは、①目標を設定する ②組織する ③動機づけを行い、コミュニケーションを行う ④評価、測定する ⑤部下を育成する です。
これは、組織運営のPDCAそのものを表しています。また、人事制度の観点からすると、目標管理そのものとも言えます。トップ、ミドル、現場という階層の違いによって、管轄範囲や責任の重さに違いはありますが、すべての管理者に共通する仕事を、シンプルかつ明快に言い当てていると思います。
 一方で、実際にマネジャーが抱えている複雑多岐にわたる仕事を、これ以上ないまでにそぎ落とした表現とも言えます。現に、管理職研修で、「管理者の仕事はこの5つです!」と説明すると、「私は自身の担当顧客をたくさん持っていますからね~。正直、こんなことまで手が回りませんよ。」とか、「うちの管理職はみんなプレイングマネジャーですから、こういうことに時間をかけられないんですよ。」「大企業の管理職ならともかく・・・われわれ中小企業では無理ですよ。」などという声が、しばしばしば聞こえています。
そんな声を聞くたびに、私の心の中には、「じゃあ、管理職って何なのですか? 何のために彼らを管理職にしているのですか?」という疑問がふつふつとわき上がります。しかしそれと同時に、「まあ確かに、それが当事者の実感なのかも」という思いにもかられます。
これからお話しするミンツバーグの「マネジメントのモデル」は、これよりもう少し具体的・機能的です。マネジャーの役割・仕事を、より実際的・実践的な形でとらえているように思います。 

3つの次元でマネジャーの役割・仕事をとらえる

ミンツバーグ(マネジメント・組織論を主たる研究分野とする経営学者)は、マネジメントの究極の目的は、「組織・部署が役割を果たせるようにすること」と言っています。たとえば開発部長であれば、顧客に喜ばれる新たな機能を持つ新製品を、他社に先駆けて開発すること、A地域をテリトリーとする営業課長であれば、わが社の製品の特性・特徴・価値をお客様に理解・評価してもらい、受注を獲得し、A地域でのシェアを拡大し、売上を伸ばすこと、といったことでしょうか。
ではそのために、マネジャーは日常的に何をしているのか? 彼はそれをモデル化し、3つの次元として整理しました。それが、
  ①情報の次元でのマネジメント
  ②人間の次元でのマネジメント
  ③行動の次元でのマネジメント
です。
ここでいう「次元」とは、現場業務からの距離感を表しています。現場業務から遠い順に、①→②→③となっています。

一般的にマネジャーというものは、価値を生み出す「現場」で直接に腕を振るうことがその中心的な仕事ではなく、少し離れたところから「組織・部署がその役割を果たす」ために仕事をするものとされています。とはいえ現場の仕事を全くしないわけではありません。
そこでこのような3つの次元で、役割・仕事が整理できるというわけです。
この3つの次元においてマネジャーが果たすべき役割があるのですが、その役割には、対外的と対内的の2つの側面あります。なぜならマネジャーというものは必ず、自分が責任権限を持つ組織とこれを取り巻く外部環境に挟まれた位置に存在しているからです。

意識の中心や優先順位が、この中のどこに置かれているかは、管理者それぞれによって異なるでしょう。しかし、「いやこれは私の仕事を指しているものではない」という管理者は、おそらくいないのではないでしょうか。
ミンツバーグは、「時代や環境が大きく変わっても、管理者の仕事そのものは、昔と今とで大きな変化はない」と言っています。しかしそれをどうとらえ、解釈するのかについては、さまざまな研究が今なお続けられており、いろいろな提言がなされているのです。

マネジャーはプレイヤーに非ず?

マネジャーというものは、一般的に、「自分が仕事をして成果を出す者」ではなく、「人に仕事をしてもらい、成果を出させる者」と言われます。ミンツバーグの「マネジメントのモデル」で言う、「コミュニケーションによって組織の内外をコントロールする(情報の次元)」、「組織の内外の人々に関わり、働きかけることにより、人々が自ら動くように影響力を及ぼす(人間の次元)」と一致します。
現場の第一線を鼓舞しつつ、少し距離を置いたところに彼らの仕事があるのです。
たとえば、プロ野球の監督は、選手兼任監督という特異な例を除くと、実際にグラウンドに立ってプレイをすることはありません。
彼らの主たる任務は、チームが勝つために、対戦相手ほか関係情報を収集、融合、取捨選択して、戦略を立て実行すること、試合の状況を見極め、その場その場で最適な意思決定を下すことです。
また、選手の様子を観察して能力やコンディションを見極め、チャンスを与えて取り組ませ、声をかけて励まし、結果をともに振り返り、今後に向けた課題を見出させることです。
オーケストラの指揮者も同様です。彼らの中心的な仕事は、聴衆の心に響く演奏ができるよう、演目に込める自身の思いを語り、共感を得る指揮をとることです。そして、楽団員一人ひとりの技術や個性、特徴を把握、統合して、相乗効果を生み出し、美しいハーモニーを創り出すことです。

しかし私たち、組織で働くマネジャーはどうでしょう?
身の回りに実際にいるマネジャーをよく観察してみれば、「マネジャーはプレイヤーに非ず」という表現が当たらない場合がほとんどです。
特に、中小企業においては、プレイヤーの比重が圧倒的に大きいマネジャーが大半ではないでしょうか。にも関わらず、多くのマネジメント論においては、それはやって当たり前の仕事、時間的・量的比重は大きいかもしれないがマネジャーの仕事の本質ではない、といったとらえ方をしています。それに対してミンツバーグは、「マネジャーというものは、実際には、現場の最前線でバリバリ働いており、それによって高く評価されている存在だ」と言っています。そしてマネジャーの役割・仕事のこの側面を「『行動の次元』のマネジメント」と称し、積極的に意味づけています。彼は、情報の次元、人間の次元という間接的な役割に、行動の次元という直接的な役割が加わってはじめて、マネジメントの究極の目的、すなわち「組織・部署が役割を果たせるようにする」を実現できると言っているのです。(ミンツバーグが異色の経営学者と言われる所以です)

身近なマネジャーを思い起こしてみてください。
期末が近づき、自部門の営業成績が目標に届いていない時、長い経験の中で培った幅広い人脈から有望顧客の目星をつけて自身で数字を確保してしまうのは、ベテランの営業マネジャーではないでしょうか。
納品した製品が不良品として返品された時、顧客の厳しい品質要求・納期要求に応えるべく、コンマ数ミクロンレベルの切削や研磨をぴたりとやりきってしまうのは、熟練の技術を持つ工場長だったりします。
これら多くのマネジャーが行動の次元のマネジメントに注力するのには、情報収集のため、自身の学習のため、メンバーにお手本を示すため、メンバーに任せると結果が不安だから、など様々な理由がありまが、その根源的な理由は、現場の現実に直接触れていないマネジャーには、情報の次元で適切な方向性を示すことも、人間の次元で効果的に部下や外部に関わることもできないということではないでしょうか。現場の実務を生身で経験することは、情報を取捨選択し、状況を分析し、戦略・方針を立てるために、また、部下や関係者と信頼関係を構築して、やる気や協力意欲を喚起するために、不可欠なのです。

3つの次元でバランスよくマネジメントする

ここまで、3つの次元でマネジャーの役割・仕事を見てきました。もうすでに皆さまはお気づきだと思いますが、この3つの次元に、優劣や軽重があるわけではありません。
情報の次元に偏れば、部下は自身で物事を深く考えず、ただマネジャーの言うことに追従するイエスマンとなってしまいがちです。
人間の次元に偏れば、部下の気づきや成長を待つ余りに、タイムリーに成果を上げることができない危険性があります。行動の次元ばかりのマネジャーは、目の前にあるすべてを一人で抱え込み、長期的な展望や俯瞰的なものの見方ができなくなる懸念があります。
つまり、よきマネジャーであるには、状況に応じて、この3つの次元をバランスよく使い分けることが必要なのです。
さらには、自身の能力や個性、価値観や考え方を基盤として、3つの次元を均等ではなくバランスよく組み合わせながら、自分らしいマネジメントスタイルを作っていくことが大切であり、それこそが「真のマネジャーに成っていくこと」ではないかと思います。

画像1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?