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カレイドスコープ #創作大賞感想

スマホに写真アプリから「○年前の今日」という通知が届くことがある。タップして飛んでいくと、そこには小さな子どもたちの笑顔や、食べている顔が映し出される。

ふわりと当時の記憶が蘇って、なんだか時間をかけてじっくりと見返したいような気分になる。たった数年前なのに、忘れてしまっていたような自分にもちょっとだけ嫌気のようなものを感じたりする。

瞬間を切り取ったはずなのに、声が聞こえてきたり、風を感じたりすることに驚く。写真に残しておいてよかった、と感じるのはいつだって、時間が経ってからだ。

くまさんの小説「Dance」を読んだ。

光に溢れた絵には、始まりの強さと、結末にあった手の届かないものへの憧れがあったのではないかと、読み終えた今なら思う。

恋愛小説、という建前だけれど、僕の中では何かそれはとても軽薄な感じもして、もっともっと彼らの真剣さに向き合いたくなるような、とても瑞々しい作品だった。

たった一度の人生で出会うものは、たいてい子どもや若者のうちに出会っているのかもしれない。逃げたくなるような辛さも、泣きたくなるような苦しさも、抱きしめたくなるような感動も、いわゆる“子ども”の時に出会っているのかもしれない。

それらを抱えて生きているのが、この物語の登場人物たちだった。

この作品には、常に音楽が流れていた。曲名らしき言葉が置いてある時もあるし、そうでなくても目の前の景色や風が感じられるような文章だったからだ。

音楽に身を任せ、挿絵に背中を押されるように、読み手の頭の中は彼らの物語を欲していた。急くわけでもなく、冗長にもならない、慌てずに進む彼らの姿に、子どもらしさを見出せずにいた。

タイトルにもなっているDanceについても考えた。身体表現、といえばそれまでだけれど、表現するための技術のようなものがそれなりになければ、きっと伝えることはできなかったのではないかと思う。それは、幸運にも伝えられたからこそ、少年の気持ちが少女に向かうきっかけになっていたのだろう。

作中、思いがけない命の提示は、本人だけでなく、むしろ本人以上に周りが動揺するものなのかもしれない。今までできていたことができなくなる喪失感、命が短くなっていく不安、想像できないことに、少年たちはどう向き合うのだろう。

僕には、少年たちには重すぎる未来だと短絡的にも思ってしまった。たった3人で何ができるというのだろう。しかし、書き手の心には希望があった。主人公たちには写真があった。

この物語も、彼らの全てを描いていたわけではなかった。それはちょうど万華鏡を回すように模様が変化していくようなもので、その変化の過程を読んでいないだけだった。幼い頃、万華鏡を覗いては、動く模様たちが生き物のように感じられたけれど、きっと彼らの未来もまたさまざまな模様があるのかもしれない、そんなふうに思えた。


#創作大賞感想 #高校生 #命 #写真  



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