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舞台袖、それとも客席 #創作大賞感想
本を読んでいると、目の前にある文章が頭の中で映像になって動き出したり、周りの音が聞こえなくなったり、自分が何をしているのかさえわからなくなることがある。
それが、没入である。
僕の場合、本だけでなく、それは観劇のような機会にも起きる。目の前の舞台を観ているだけなのに、いつのまにか物語の世界に入り込み、傍観しているような気分になる。
何度も同じ演目を観ているのに、演者によって少し解釈が変わったり、より世界観が増長されるような演技や歌にハッとしたり。
でも、ハッとしても、感動しても、実生活では何も役立つわけではない。知識でも、所有物でもないのに、なぜ欲しくなるのだろう。
青野晶さんの小説「嘘つきたちの幸福」を読んだ。
ファンタジーのような世界観に、目が眩んでしまうようで、緻密に描かれていることに、まず驚いてしまった。大作である。ただ、大作であるけれども、微に入り細に入り、目に見えるものが言葉になって並べられていて、想像力を駆使するよりも先に映像が浮かんでくるような印象を受けた。
書き手の広い視野と、丁寧な筆致は、煌びやかな物語から読み手を取り残すようなことは許さなかった。
実際にこれが舞台で表現されるとしたら、もしかしたら削がれてしまう部分もあるかもしれないけれど、舞台上や舞台袖で出演者として見ているような視点と、観客としての視点のふたつの視点で読み進めることができた。
前半の前提作りのような部分はしっかりと人々のことが描かれ、後半はそれぞれの登場人物が生き生きと動き出すような印象があった。世界観に慣れてくると、彼らの声が聞こえてくるようだった。
演劇やミュージカル、オーケストラやジャズなどの舞台は観たり聴いたりしたことがあったが、バレエの舞台は見たことがなかった。動きひとつでも洗練され、研ぎ澄まされている様子を見たら、きっと緊張してしまいそうだ。
その点、この作品は文字で読み、読み手の頭の中で映像になる。後半にかかると踊りの形や、曲の雰囲気などが随所に追記され、読み手の想像を助けてくれる。物語の後半の疾走感は、そういうことだったのだ。
舞台で演じている役者さんたちは、ある意味では”嘘つき”かも知れない。観客はそれに騙されて、笑ったり怒ったり、悲しんだりしながら感動していく。嘘だと分かっていても騙されてしまうのが、舞台の魅力かも知れない。
物語の終盤、演者と観客をつなぐ粋な演出がある。それを読んだ時、書き手が観客のことを大事にしているな、と感じた。幸せな気分で席を立つことができる。どうか最後まで読んでみてほしい。
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