見出し画像

戦争の話をしよう #書もつ

読書の醍醐味として、追体験というものがある。実際に体験しているような気分で物語を読んでいくと、知らず知らず知識として、頭の中に情報が蓄えられていくような状態になる。物理的、時間的、経済的に体験できないことを読んで想像するからこそ、体験したような気分になるということだろう。

今日は終戦記念日である。

終戦記念日の記念日という表現が気になって調べてみたら、日本の終戦記念日は8月15日であるが…という記述があった。元々、日本の終戦記念日とはいわゆる玉音放送があった日を、記念日として定めているのだ。ちなみに、アメリカにおける終戦記念日は、9月2日なのだという。これは日本の外相が、降伏文書に調印した日なのだそうだ。

僕たちの戦争
荻原浩

戦争の物語というと、「火垂るの墓」や「ガラスのうさぎ」、「可哀想なゾウ」、「ちいちゃんのかげおくり」など、子どもの頃から近くにあったような気がする。もっと幼い保育園児だった頃、「ピカドン」を保育園で読んでもらって衝撃を受けたことも印象深い。まさか日本で起きたことなんて、と子ども心に驚いたものだ。

この物語は、フリーターの若者と、戦時中の日本軍の若者が入れ替わる物語だ。二人とも容姿がとても似ていて、周囲の人は「おかしくなってしまった」と思えるくらいに、同じ人物なのだろう。

現代の若者が戦争の渦に巻き込まれ、兵隊として不本意ながらも成長し、将来の自分の家族のために戦う様は、現代人として生きている読み手には共感と恐怖がまぜこぜに襲ってくる。自分が、そんな時代に生きることになったら、覚悟ができるだろうか、きっとできないだろう。

しかし、家族のことを思えばこそ、自らの命を賭しても惜しくないと思える境地になるのだろうか。物語では、意外な繋がりを持って未来に向かうことが判明するなどして、主人公の気持ちがどんどん変わっていく。

反対に、戦争の最中から飛び出して、未来の日本の姿を知って驚愕した日本兵の若者は、果たして怒りを覚えただろう。こんな国になってしまったのか…と嘆いている場面は、読み手にとっては笑い話のようだった。作中では、兵隊の若者の視点は実にコミカルに描かれている。まさか誰かと入れ替わっているなんて思いもしないし、真面目に現代を考察しているのは、とても怖いけれど、やはり面白い。

敵に一矢報いたとしても、果たして何が変わるのか、いわゆる特攻隊の名前を聞くたびに、その無謀な作戦が哀れに思える。もったいない、つらい、さまざまに人の命の重さを表現したいけれど、この物語のように人が人として生きている姿を見せられると辛すぎる。軍部が本当に追い詰められていたのと、冷静に判断ができなかった怖さのようなものをいつも感じてしまう。

物語では、玉音放送のあった日に戦争が終わっている…訳じゃない展開がある。きっと、実際の現場でも多くあったのだろう。人間の気持ちはすぐには変わらない。上官として若者を厳しく鍛えていた者の発想としては、やれやれこれで普通の人に戻れますね、なんて思ってしまうことは、”死ぬこと”よりも恥ずかしいことだったのだろう。


遺族会に入られている方と仕事で関わっていたことがあるが、終戦記念日にお話をする機会があった。「終戦の日も、とても暑かった」と言っておられたのが印象的だった。


飛び立つ飛行機は、一体どこへ向かっているのか、infocusさん、サムネイルありがとうございます。今の暮らしに思いを馳せる日ですね。

#推薦図書 #戦争 #平和 #終戦記念日 #読書


この記事が参加している募集

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! サポートは、僕だけでなく家族で喜びます!