和解の瞬間に #書もつ
全米が泣いた!
泣ける実話!
泣きたい、と思ってそんな言葉が並ぶ作品を選ぶこともあるかも知れません。泣きたいことは別にあるのに、作品の主人公に感情移入して、没入して、とにかく泣いてスッキリしたい、そんな時もあるかも知れません。
泣くことは、さまざまな定義がされているけれど、この作家が考えていたのは「感情との和解」でした。ただ、感情と言っても色々あるし、和解って状況も掴めない・・要するに、難しいなぁと思ったのでした。
そんな前書きを経て、読み始めると、自分がいかにベタな感動をしてきたか、ある意味では軽い感動体験だったのかを思い知るような内容でした。
毎週木曜日には、読んだ本のことを書いています。
この作品も創作ではあるけれど、作家は「登場人物への共感」を大事に創作していると書いていました。それは聞く姿勢でもあるし、それをきちんと文章に表している表現も、とても好きでした。
この作品は、作家が見聞きした実話たちを再構成した短編集であり、泣くことを共通にした感情のバリエーションを知らしめる、カタログのようだと感じたのでした。
もらい泣き
冲方 丁
ひとつひとつの話は、簡潔なのです。むしろ短かすぎるようにも感じられました。あれ⁉︎というタイミングで場面が変わり、話が終わってしまったりするのです。
泣ける話を読んでいたはずなのに、気がつけばもう、中の人は泣いていて。しかも大勢が泣く時すらあって、読み手は冷めてしまうのです。そうかと思って油断すると、次の段落にスイッチが隠れていたりして忙しいのですが・・。
とにかく、実話がベースという物語の濃さに唸り、こんなことがリアルにあったのかと驚く気持ちが湧き、色々と追いつかない不思議な作品でした。だから、僕は多くの話で泣くことができなかったようにも思います。
でも、泣けなくても、とてもスッキリしたり、力をもらえる瞬間がいくつもあったのです。
泣くことが全てではありませんが、自分が声を上げて泣いてしまったことは、自分自身が強く記憶しているものだし、それが心の支え、気持ちの柱になっていることさえあります。
たまたま撮れた心霊写真、でもその正体は恨んでも憎んでもいない、愛そのものの姿だった。ハプニングではなく、必然であると思えるほどに強い思いを感じました。
この話を読んで以来、どうも力が湧いてきます。なんでか分からないのに、こんなに励まされることはないんじゃないかと思うし、とても新鮮な発見でもありました。褒められるのでもなく、期待されるのでもない、そこにある、ということの強さに涙した話です。
誰かの支えになること、安心を与えられる存在になること、それを教えてくれた老犬の姿は、人間とペットというつながりでは語れません。親として、まだまだ足りていないことを教えてくれた話でした。
どの話も、とても貴重でした。ひょっとしたら、友人達にも同じような強烈な物語が隠れているのかも知れないと思うと、人間が生きていくために、涙が必要だし、弱さの象徴なんて不名誉な称号こそ、涙にしか似合わないとさえ思うのでした。
これは、読んだほうがいい作品です。間違いなく。
僕の泣ける話は、なんだろう。
あなたの泣ける話は、なんだろう。
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