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地元が出てくる物語 #書もつ

小説に地元が出てくると、ちょっと嬉しくなったりしませんか?そんなわけで、僕の生まれた川崎が登場する小説を紹介します。さまざまな作品を書かれている作家さんが、意外と近くを歩いていたのかもと思う、そんな瞬間も楽しいですよね。

コールドゲーム
荻原浩

怖い。復讐劇を描いた作品。子どもの頃の、思い出は、美化されているものもより強化されているものもあるでしょう。まして悪い記憶など、方向性の良し悪しはあれど"強い意志の素"になりそうです。

犯人とされる人物を追いかけていくと、やがてたどり着くのが川崎のとある街。この街、確かに地元でもあんまり治安が良くないなんて言われていたのです。こうして小説に描かれてしまうと、本当に治安が悪く、犯人のような恐ろしい人物が暮らしているんじゃないかと思ってしまいそう。

いやいや、知っている人から言わせれば、その街の駅前は商店街が伸び、新しい地域の取り組みがあり、今では若い家族が多く住む、明るい町並みになっている印象です。


三浦しをん

津波という自然の脅威によって、人生が変えられてしまった者たち。しかし、それは変えられてしまったのではなく、変わらないと思い込んでいた、人間の軽薄な側面を鮮やかに描き出したものであることに、読み終わって気付きました。

決して楽しい作品ではないけれど、教訓と実例に満ちた、恐るべき世界観に書き上げられる作者の強さに唸りました。身近すぎる場所が出てくるたび、この作者の影が近くにあったのだと感じました。

さらっと書いていますが、物語の内容はなかなかに重たいです。

なぜこの展開、と頭を抱えてしまうような、苦しみを感じるような場面も多くあって、タイトルの意味を早く教えてくれ!と懇願するような時間を過ごしたことを覚えています。

人間が生きていくことの難しさのような、紙一重の幸せが描かれており、励ましや勇気のようなものを求めて読むべき作品ではないと僕は考えています。

川崎の描かれ方は、1つ目の作品と似ていて、やや荒廃した地方都市のような書き方がされています。確かに、当時のあのあたりは工場の影に隠れるように家があったのかも知れません。今の雰囲気とは全然違うので、別の街のようです。

レインツリーの国
有川浩

細かく心情を書き込む作者の特徴がよく出ている作品でした。本から繋がっていく儚い糸が、やがてしっかりとした絆になっていくような、ひとつひとつ問題をクリアにしていく主人公の考え方が本当に強いと思いました。

一見、どちらも外には見えない悩みを抱えているようで、それは様々な言動に表れて、実は誰にでもありそうな悩みなのだということに気付き安心してしまうような優しい作品でした。

職場に聴覚障がいをもつ後輩がいたけれど、もっともっと話してあげれば良かったと、痛烈に反省。そして、本のカバーも身近な場所でなにか感慨深いです。

設定こそ今っぽいのですが、ここで描かれているのは特別なことではないと思いました。それぞれが自分自身をどう見せたいか、見せられないとわかったときにどう考えていくのか、個人的な苦悩が明快に解決していくような、爽やかな印象でした。

設定こそ若者の恋愛ではあるのですが、他人を思い、自らを省みて行動するのは恋愛に限らず実践すべきことなんだよなぁと思いました。こういう作品をどう読むかは、読み手の趣味とも言える判断になるのですが、僕の場合には、初めて読んだときには恋愛がとても難しいものかも知れないと感じてしまいました。

ここまでの2つの作品とは異なる、爽やかな作品。そして実は、川崎の描かれ方も違いがあります。作品をどんなに読んでも川崎という地名は出てきません(確か出てこなかったはず)。

実はカバーに写っている河川敷こそ、川崎の母なる川、多摩川の川崎側の河川敷なのです。単行本だけでなく、文庫本になってもこの写真は踏襲されました。何気なく本屋でカバーを見つめたとき、どこかの景色に似ていると感じたのです。

カバーを広げて見ると、見覚えのある建物がいくつも。その頃、河川敷を時々走っていたこともあり、その風景と合致したのです。

好きな作家さんの作品に、我が街が写真で出てくるなんてー!と、ひとりで盛り上がっておりました(笑)あとがきを読むに、作家本人はどこの河川敷か分かっていない様子。そりゃそうだ。


あまり明るい地元紹介ではなかったですが(笑)、作品に自分の生まれ育った街が出てくることで、物語はいろんなところにあるんだなぁと思えました。たくさんの人が暮らすからこそ、良いことも悪いことも起こる社会。

小説のように怖いことは起こってほしくはないけれど、そこにキャラクターの存在感や、物語のきっかけがあったのだと感じると、地元が誇らしく感じられる気がします。

皆さんの地元が出てくる作品も、教えて下さい。

サムネイルはinfocus📷さんの作品!ありがとうございます!川崎と言えば、工業の街。工場夜景・・なんて観光ができるなんて、僕が子どもの頃には考えられなかったけれど、それだけ環境対策が進んだってことなのでしょうか。綺麗な絵ですね。

#推薦図書 #荻原浩 #三浦しをん #有川浩 #川崎

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