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来年は「SaaS経験者を募集してます」って言わないで下さいね

お疲れ様です。もなきです。
転職エージェントをしたり、キャリア系のYouTubeをしたり、スタートアップ企業の採用のお手伝いをしたりしています。

昨年に続き、今年もありがたいことに「採用アドベントカレンダー」にお誘いいただきました。主催のキャスター社の皆さま、どうもありがとうございます。
▼昨年書いたアドベントカレンダー

幸い上記の「カジュアル面談」noteは多くの方に読んでいただいたこともあり(PV数も1万を超えました)、今年は昨年以上に何を書くか悩んだのですが、今回は
「SaaS企業の採用」
について考察していきたいと思います。

<こんな人に読んでもらえたら嬉しい>
・SaaS企業で採用に関わっている採用責任者、採用人事
・SaaS企業の経営者、事業責任者
・SaaS企業を顧客としているHRサービス従事者
・SaaS企業への転職を考えている人

ぜひ、お付き合いくださいm(_ _)m

①SaaS企業の採用を取り上げようと思った理由

「このポジションは、SaaS企業でセールスやカスタマーサクセスをやっていた経験者を求めています」

令和前後くらいからか、採用募集のタイミングでこの手の話をする企業は増えました。「うぉ、またこのパターンきたか!」と思ったりします。

別にSaaS企業が「SaaS経験者を欲しい」と言うことを頭ごなしに否定はしません。SaaSのビジネスモデルを理解している人の方が、入社後の多少キャッチアップが早いことはあるだろうとは思います。

でも、事業モデルや仕事内容の詳細を聞いていくと
「本当にそれはSaaS経験者じゃないとできないのか?」
と思ってしまうことが多いです。

活躍しているメンバーや、マネジメントポジションにいる人の過去の経歴を聞くと、確かにSaaS出身者が挙がります。今でこそ既にIPOしている有名SaaS企業出身者とか。でも、その方々の大半は、創業初期の社員人数一桁のタイミングでリファラル採用してきた人達が多い・・・。

今回論点にあげたいのは、事業が拡大期に入り、人材紹介会社(転職エージェント)経由やダイレクトリクルーティングでの採用にもチャネルを拡げていくフェーズの企業の採用でも、同様にSaaS経験者を求めてしまうことです。活躍者分析の観点で、帰納法的にターゲットを考えれば、そりゃあSaaS経験者が導き出されはします。

でも、そのまま「SaaS経験者の採用」の一辺倒となってしまってよいのでしょうか?

②そもそもSaaSって何?

ここまで読んでくれた方には、もはや説明不要だと思いますが、念のため「SaaSとは何か」について簡単に補足しておきます。

SaaSとは
Software as a Serviceの略語。必要な機能を、必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア、または提供形態。
(Wikipedia参照)

昔は、家電量販店でソフトを購入して、CD-ROMを自分のPCにインストールして使っていました(懐かしい)。お母さんが「筆まめ年賀状のソフト買ってきたわよ~!」なんていう家庭の会話ありましたよね?

一方SaaSは、提供事業者のサービスにWEB上でアクセスすることで使用できちゃいます。

Salesforce、Adobe、Zoom、Slack、Chatwork、ベルフェイス、freee、マネーフォワード、SmartHR、sansan、HRMOS、SPEEDA、クラウドサイン、等々。挙げればキリが無いですね。

SaaSは販売の形態として「サブスクリプション型」つまり継続課金型のモデルを用いていることが多いです。このサブスクリプション型のビジネスモデルとしての特徴は色々ありますが、ポイントは以下。

①一度に入る収益(売上)は少ないが、長く使い続けていただくことで契約期間トータルで見た際の収益が高まる
②ユーザーの声を起点にサービスを進化させ、常に最新のサービスをご利用いただくことができる
③契約数の伸び方や解約率などから、収益の将来予測がしやすい
④マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスという分業体制を敷くことが多い(「ザ・モデル」と呼ばれる)

④についてシンプルに補足すると、「ザ・モデル」は、マーケティングがリード(見込み顧客)を獲得し、インサイドセールスが初期接点を持って顧客の問い合わせ背景や課題感をヒアリングして商談へ繋げ、フィールドセールスが課題感をさらに掘り下げつつデモ画面などを使いながら具体的に活用イメージを持ってもらい受注し、カスタマーサクセスが導入時や導入後に密にフォローして活用度や継続率を高めていく流れです。

いわゆる「売り切り型」の商材では「営業」がマルっとやっていたような仕事を、上記の分業体制を取ることで役割を明確化且つ効率化し、売って終わりではなく、長く継続的に使い続けていただくビジネスモデルが構築されました。

③なぜSaaS経験者を求めてしまうのか

では、なぜ多くの企業は採用の際に「SaaS経験者」をついつい求めてしまうのでしょうか?既に活躍している人が「SaaS経験者」だからという以外に、どんな理由があるでしょうか。

まず1つ目に、このSaaSのビジネスモデル自体が新しいから、ということが考えられます。新しいビジネスモデルを理解している人じゃないと活躍しないでしょ、という考え。

2つ目が、上述の「ザ・モデル」体制への親和性。従来の売り切り型の営業スタイルとは異なり、個々の機能の役割を認識した上でより良いサービスに進化させていく進め方に馴染めないのでは、という考え。

3つ目が、現場の採用部門の人たちの言われるがままのターゲットになっているパターン。SaaSの難しさや奥深さにこだわりが強い現場の方は「俺らのこの仕事、やっぱSaaSやってきた人にしかできねぇっしょ!」と言いがち。

これらは、一定は理解できるものの、やや疑問符が付きます。

まず、SaaSやザ・モデルの形態は学習でき、キャッチアップ可能です。SaaS経験者と言われている人も、オギャアと生まれた時からSaaSに取り巻かれて育ってきたサラブレッドではないのです。社会人になった時からSaaS企業に勤めていて10年経ちますなんて人はほぼ皆無。あくまで「後転的」なもの。

また、「SaaS経験者」と言っても色々です。
業界や業種を特化して展開しているSaaS(バーティカルSaaS)もあれば、業種関係なく展開するSaaS(ホリゾンタルSaaS)もあります。
価格帯も月額数万円から、何十万円単位でかかるものまで様々です。
受注相手が決裁者なのか担当者なのか、受注までのリードタイムもSaaSの中身によって異なります。
あとは、世の中に対して価値が浸透し始めているSaaSなのか、まだまだこれから価値を啓蒙していく段階のSaaSなのかによっても異なります。

結局「SaaS経験者」という表現がそもそも広すぎて、明確にターゲット設定ができていないのです。

④正しいターゲット設定の考え方

では、どのようにターゲットを考えていけばいいでしょうか。

結論、SaaS企業のターゲット設定においては、自社のSaaSの特徴を捉えた上で、仕事内容をきちんと因数分解し、ターゲットの解像度を高めていかないと意味がないということです。

基本に立ち返る話に帰結してしまい恐縮ですが、結局SaaSだろうとSaaSじゃなかろうと、仕事内容からターゲットを設定するのが本筋なのです。

例えば、SaaSのインサイドセールスの求人であれば

・アサインされるリード数は月間何件くらいなのか
・リードはWEB広告、ホワイトペーパー、イベント等、何からが多いのか
・商談する顧客の業界、職種、職位の傾向
・初期商談は電話なのかメールなのかオンライン会議なのか
・既に競合が存在し市場ができているSaaSなのか否か
・どんな内容を顧客と話すのか
・接点を持った顧客の後追い方法
・マニュアルやトークスクリプトの完成度合い
・商談化率は何%くらいか
・商談化率が高い人はどのようなコミュニケーション特徴があるか
・追う指標は商談数かその先の受注金額か
・マーケやフィールドセールスとの日々の連携の仕方
等々

あげればキリがないですが、これらを把握し、言語化する必要があります。要は「誰に」「何を」「どのように」展開する仕事なのかを明確に言語化します。

その上で、その仕事に就ける人は「どんな経験やスキル、強みや人物特性を持っている人」に類似性があるのか、再現性があるのかを整理します。
いわゆるペルソナです。

ペルソナはあくまで理想像とし、そこから「予め兼ね備えておいて欲しい要件」と「入社後に育成やインプットが可能な要件」を切り出します。前者は募集の「必須要件」に、後者は「歓迎要件」に繋がります。

例えば、一概には言えませんが、インサイドセールスは「今、受注に繋げた方がよい顧客」と「長期的にフォローした方がよい顧客」と「絶対に受注に繋がらない顧客」を短時間で見抜いてアクションを決める『瞬発的な判断力』がポイントだったりします。それを備えている人はどんな仕事をしていた人だろうか、を徹底的に考えることが大事です。
実際に僕の知り合いで、学生時代に繁華街で飲み屋のキャッチの仕事をしていた人が、SaaSのインサイドセールスやったらめっちゃ活躍した事例もあります(もちろん個人差はあると思いますが)。

⑤採用活動のバチェロレッテ化

SaaS企業のターゲット設定について、少し抽象的な話になってしまい、ピンときづらい人も多かったかもしれません。言葉通りにやってみてもすぐできるものでもないですし、一定の経験値(成功や失敗)や勘所、何より世の中の多様な仕事や会社を理解している知識が必要だったりします。

ただ、繰り返しになりますが自社のSaaSの特徴を捉えた上で、仕事内容をきちんと因数分解し、ターゲットの解像度を高めていかないと意味がないので、逃げずに取り組み続けるしかないかと思います。

最後に、話がそれるようでそれない話題で締めます。

2020年も間もなく終わりますが、皆さんは今年、バチェロレッテを見ましたでしょうか?AmazonPrimeで放送されていた、バチェラーの男女逆転版の恋愛リアリティ番組です。

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(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

もう最終回からだいぶ経ったのでネタバレしてもよいと思うのですが、結果的に主人公バチェロレッテを務めた福田萌子さんは「どの男性も選ばなかった」という結末で終わります。

この事については色んなところで賛否ありましたが、そもそも他人の恋愛を見るというエンタメに対して、外野がとやかく文句を言うものではないと思います。

一方で、僕は今回のバチェロレッテの結末から大きな示唆を得ました。
それは、

どんな人を選べばよいのか、因数分解や言語化ができていないまま、選考を進めてしまった

ということです。これは、企業の採用に置きかえても、学びが大きい示唆だと思います。

「結婚相手を選ぶことと、採用をすることは違うよ」と思う人もいるかもですが、意外と通じるところがあります。

結婚相手の選択
自身の理想の家庭像や半生を思い描き、これまでの恋愛経験や人間関係などを元に相性を言語化し、対象となる相手と出会い、選び・選ばれる

採用の選択
自社のミッションやビジョンを定め、事業内容や過去入社者のマッチ/ミスマッチの経験を元に言語化し、対象となる候補者を選び・選ばれる

今回のバチェロレッテは、もちろん番組を通して色んな男性と接点を持ち、自身についても内省する中で、求める相手の因数分解や言語化をしていきたい気持ちが強かったのだと思います。

ただ、どうしても2ヶ月という期間、17名の男性メンバーという制限がある中では、その結論に辿り着かなかった。そもそも「結婚相手を選択する」という難易度が高い問いなので、ある種致し方なかったのだと思います。この選択が難しいと言うことは、日本の離婚率35%が物語っています。

企業の採用においても、今回のバチェロレッテと同じことが起こりがちです。色んな候補者と面接を進める中で「欲しい人材が見えてきた」というパターンはもちろんあります。ですが、本来的にはきちんとターゲット設定をして採用活動を進めていけば「バチェロレッテ化」はしないで採用ができるはずです(そもそもバチェロレッテのように「選べる立場」にある企業も少ないとは思いますが…)

結論、採用ポジションの因数分解や言語化に妥協せず、ターゲットの解像度を高めた上で採用活動を進めていきましょう、という話でした。

ということで
来年は「SaaS経験者を募集してます」って言わないでくださいね。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。


明日は、福岡のベンチャー企業でHRBPをされている吉田さんです!
お楽しみに♪



サポート金を元手にその方とランチに行きたいです(都内のみ)つまり、500円が1,000円のランチに化けます。