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ここがママリンゴ

4年間暮らした我が家と別れる日がついに来てしまった。
同居人に、「海外に行きたい」と打ち明けられたのは今年の初めか、去年の暮れか、確かそのくらいだった。
まだ考えなくていい、まだ準備しなくていいと思っている間に半年が経ち、6月も後半の私は終業式の日の小学生よろしく生活感が残ったままの部屋を大慌てで片付けるはめになっていた。
それでも、引っ越し直前までは生活を続ける必要があるこの家で、タイミング悪くもなくなった食器用洗剤やトイレットペーパーなどの消耗品が買い足されているのを見るたびに、せめてこれらをきれいに使い切るまではこの家での暮らしは続くのではないかと思い込みたかった。

この家を出ないことも考えた。誰か代わりの同居人を見つければいいだけのこと。
だけどピッタリとはまる同居人候補は現れなかった。ちょっと嫉妬で卑屈になりがちな先輩?医者の友達?2、3人で彼女の部屋を倉庫として使ってもらうという手もなくはないか?
まったくピンと来なかった。同居人と私と、猫。だからこそ大好きな我が家だったことに気がついた。

新しく引っ越す家は、祖母が住んでいたマンション。97歳で一人暮らしをしていた祖母が老人ホームに移り、私が空いた部屋を管理する形で入居することになった。
怖いものなしで無頓着な祖母のもとでぬくぬくと暮らしてきたチャバネたちが殺しても殺しても後を絶たない。
引っ越しまでに業者を入れたり、何回も掃除やバルサンをしに行くことを繰り返した。おかげで多少はましになった。
それから心配なのは、少しくらい楽器を弾いても問題がないかどうか。
今まで暮らしていた家は一戸建てで、周辺に暮らしている人たちはお年寄りばかりで、大きな音でラジオを聴いていたり箏曲の教室のようなものが近くにあって割と大人数で合奏する音が聞こえたりして、私もまったく周りを気にせず音を出していた。
(2022年アルバム「呼ぶ人」の中の「はあと時雨」でも、サックスとゴロスは自宅で収録している)
まあさすがに打楽器は迷惑だろうと思うが、ギターくらいは少し様子を見ながら弾いてみようと思っている。ダメだったら近所に公園があるので公園に行く。

さて同居人との4年間は本当に楽しかった。この家もこの町もすべて、暮らせば暮らすほど好きになった。
家の裏にある個人経営スーパーは、閉店間際に行くと売れ残ったお惣菜を「良かったら持って行って」と言って勝手に袋に入れてきた。
スーパーの向かいにあるドラッグストアで働いている細身の女性はマニュアルを徹底しているから毎回一言一句同じ文章でアプリをおすすめしてくる。
看板がベコベコになっている寿司屋は私が毎回サーモン丼の持ち帰りしか頼まないから、先日遂に一言も言ってないのにテイクアウト用のサーモン丼が出てくるようになった。
よく行く銭湯のご主人はCDを買ってくれた。ピックもめっちゃ使いやすいっすよ!と言ってくれた。
向かいに住んでいるドカタのおじさんは怒りっぽくて、息子なのか住み込みなのかわからないけど若い弟子がいつも怒鳴られているのが聞こえた。
路上で倒れるお年寄りに慣れすぎた周辺住民は、救急車を呼んだらあとできることは基本的に特にないということがもうわかっているので倒れた人の近くで普通に世間話をして過ごす。
退去日直前に家の斜め向かいに救急車が来たのでいつものことかと思ったらその時は事件性があったようで警察がたくさん来た。
穏やかで、刺激的な町だった。

24歳と25歳、無職の2人で始めた共同生活。年数を重ねるごとにそれぞれ何かを見つけ、何かを始め、暮らし向きも良くなってきた。でも共有財布に毎月入れるお金は4年間ずっと1万円ずつ合計2万円だった。
ゴミ出し、掃除、料理洗濯、最初は当番を分けていたがそれは1ヶ月程度でぐずぐずになった。4年前に同居人が書いた当番表だけが冷蔵庫にそのまま貼ってある。
他人と暮らすこと、近所と関わること、自力で生活すること、全部私には初めてのことだった。
本当に楽しかった。全部好きだった。
今度始まるのはこれも初めての一人暮らし。
まだどうなっていくのかわからない。今はまだ、この家を、この町を離れることがただただ寂しい。
でも新居は家賃無料だから。今まで払ってた家賃の分がなくなると何ができるかを考えれば少しは楽しく前向きな気持ちになれる。

1年後、同居人が帰国したらその後はどうなるかまだわからない。もう一緒には住まないような気もするし、また一緒に暮らせるのかもしれないし。
4年間でなくなった店も、更地も増えた。新しいマンションも少しずつできている。目の前にあるおんぼろアパートにはきっと年寄りしか住んでないし、新しい入居者もいない。多分、誰もいなくなったら取り壊して新しいマンションが建つ。
その時に帰ってきたい町かどうかは今はわからない。どうか変わらないでほしいとも思ってる。
でも4年暮らして心から大好きだと言えるこの町に、とりあえず現時点で、私はいつか絶対、1人でも2人でも、帰ってきたい!帰ってくるぞ!と思ってる。
戻ってくるだろう!ここへ!
ありがとう。君のことも、猫のねねちゃんも、この町も、愛してるよ。

一緒にチームラボ行った日
近所のスーパー。今はもうない。
我が家。銭湯ではない。
萌生さんが火鍋を作ってくれた日
北千住録音会の日
大好きな双子鮨
大好きな銭湯、ニコニコ湯。
ねねたんと片付いた押入
とーっても楽しかった!!ありがとう!!!

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