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人を好きになったら自己肯定感が失われた話 12

◾️11月 最後の飲み会

文化祭が終わると、今度は私達は半年間を称えあって皆が皆に寄せ書きを書く。
誰に書くとかは決めてないし、100人くらいいるので全員に書けはしないのだけど、
特にお世話になった人、仲の良い人に皆で好きなだけ思いを綴る。
不思議な慣習で色紙に皆で書いていくと、
当たり前だけど足りなくなってくるのだけど、
そうなると今度は羽、といって無地の厚紙を貼ってまた書いていくのだ。

またしてもそれを書く日に私達は喧嘩をしていて(理由とかなんにも覚えてない)、
私悪くないし、という思いと、
せっかく書いてもらえるはずだったのにという悲しさで気分が落ち込んでいた。

落ち込んでるとかなり顔に出るので、
先輩が心配してくれて、背中を貸して慰めてくれたけど、他の人から何をもらおうと満たされるはずがない。
私のかの関係は多分誰から見ても曖昧で、可哀想に映るらしく、
私達の関係を知ってる別のサークルの先輩にも、夏頃告白をされたけど、きっぱり断ったし、
この先輩にも後日やんわり告白されるけど聞かなかった振りをした。
向こうは違っても、私にはかけがえのない人だった。

その日は彼が勝手にブチ切れているパターンだったから、
私は彼のところにメッセージを書きつつ、
本当に書きたいことはここには書けないから別で手紙を渡そうかなぁと考えていた。
手紙を渡す、というのも文化としては存在していたので、まぁ良いだろうと考えていた。

彼の機嫌はしばらくすると直ったらしく、
「そこのチームの人達の色紙貸して」と私達のところを訪れた。
彼が私の分までしっかり書いたのを、
私は遠目でしっかり見ていたし、
終わった後LINEに「嬉しい?」と書かれて泣きそうになった。
最後には自分のことを構ってくれる彼が好きだった。
それが彼からの愛だと思っていた。

文化祭が終わった後、後片付けなども全部終わらせて後日、私達は最後の飲み会をした。
後輩から手紙やらプレゼントやらを渡される彼は輝いていて、
少し涙が潤んでいたのを私は見逃さなかった。
良かった、彼の半年間は報われたんだとほっとした。
綺麗な笑顔がいつもより一層綺麗に見えた。
笑顔だけは相変わらず無害だった。
私は沢山彼の写真を撮って、飲み会を終えた。


それ以降の日に、今度は活動していたグループごとでの飲み会があった。
これも毎年の恒例行事だった。
私のところの飲み会は大したことなく終わったのだが、
彼の方がそうはいかなかった。

夏頃出てきた後輩の女の子がまだ彼のことを諦めていなかったのだ。
彼と2ショットを撮ったらしい、という話が流れてきて(実際に写真も見た)、
それだけでなく遊ぶ約束もしたとか、
それだけでブチ切れそうだったのに、
なんと彼は彼女がふらふらだったから最寄りまで送って、
代わりに自分の終電がなくなったから公園で時間を潰すことになったとか、
彼女もしばらく同じ場所にいて時間を潰したとか言い始めるのだ。

は???
私が彼の好きな女の子がいながら近くにいると決めたのは、それが彼の好きな女の子だったからだ。
彼の気持ちを優先したかったからだ。
それなのに誰だよその女。
好きでもない女の子に無駄に優しくするのは、
彼が優しいからではなく、
彼が好意を利用して好かれたいだけだとすぐに分かった。
彼女でもないのに怒れる立場かと言われたらそうじゃなくて、何も言えなかったけど、
だからと言って黙って許せるわけなかった。
この辺りからぐるぐると歯車が狂っていった。

◾️12月 君の家で

12月7日辺りだろうか、
すっかり文化祭も終わって気怠げな彼に私は会いに行った。

どこかに一緒に遊びに行くとかではなく、
彼の家に。

彼の家は実家で、私は前に最寄駅を聞いていて、
今回乗らないといけないバスなども教えてもらって、
しっかり迎える状態だった。

なんでこんなことになったのか覚えてないけど、
なんの記録も残っていないので仕方ない。
確か彼の体調があまり良くないから、
遊びには行けないけど来てくれるなら、という話になったんだと思う。

相変わらず都合良く扱われているだけなのだけど、
私は彼の家に行けるのが嬉しかった。

5月に履修登録を頼まれた時、
彼がIDやらパスワードやらもそのまま伝えてくるので私は彼の履修がいつでも見れる状態だった。
しかも、そこには彼の住所や電話番号も書かれていた。
だから私はその住所を見ながらいつか行けないだろうかと夢見ていたのだ。

今思い出すと結構ストーカー紛いなことをしていた。
彼に裏垢をブロックされるのが嫌で、
他の女の子と何を話しているのか気になって、
パスワードを解読して勝手にログインして彼のツイートを見るようになったのも11月末くらいだろうか。
パスワードがめちゃくちゃ簡単だったのが悪い、と当時の私は自分の行動を正当化していたし、
結局それを彼に伝えることはなかった。

当日、学校から彼の最寄りまで1時間。
最寄りから彼の家までバスで30分。
バス停から彼の家まで少し迷って10分。
中々に時間をかけて彼の家の辿り着いた。

「ついたよ」とLINEをするけど、しばらく経っても返信が来ない。
寝ているんだろうか。
仕方なくピンポンを押すと、彼の母であろう人が出てくる。
「あの○○くんに会いに来たんですけど…」
めちゃくちゃ緊張してろくに喋れなかったけど、
なんとか彼を呼び出す。
ようやく出てきた彼はボサボサの頭で気怠げに出てきて「なんでピンポン押したの」と不機嫌そうだった。
「母さんに顔見られたじゃん」
「LINEしたけど出なかったから」
顔見られると何がいけないんだよ。
彼女でもない女が来たら迷惑?こんな女と付き合ってると思われたくない?
そういえばショッピングセンター行った時も彼の友達に会った時「説明めんどくせぇ」って愚痴ってたね。
どろどろとした感情を全部彼が好き、というまやかしで見ない振りをする。

厚着をしていてもほんのり寒い気候の中、
近くの公園のベンチで彼に膝枕をして時間が過ぎていく。
小雨に濡れてしまわぬように、私と彼の上に傘をさして。
ふらふら歩いて、彼のバイト先を見て「ここで働いてるんだね」と言ってはしゃいでいたら、
「意味分かんねぇ、キモ」と言われる。
別にそれで良かった。
彼の地元までわざわざ足を運んだ女はいないだろう。
それだけで良かった。

少しすると、彼のお母さんは外出したみたいで、
しばらく帰ってこないと言うので、部屋に上げてもらった。
知らない一軒家。
いつもここにいるんだなぁと思うと不思議な気がした。
彼の部屋に行って、「アルバム見る?」と言われたので幼稚園から高校まで全部を見せてもらった。
私はめちゃくちゃ写真を撮った。
初恋の相手が云々とか話し始めたので、それには全部聞かない振りをした。
高校の時の寄せ書きのところにメッセージを書こうとすると、「絶対黒歴史になるから嫌」と言われた。
今思うとめちゃくちゃ失礼なんだけど、
私もどこかでそうなるんだろうなと思っていたから、
「好きです ❤️❤️❤️みたいな内容を書くつもりはなかった。
なんて書いたのか忘れたけど、遊びに来たよ的な、未来で書いてるよ的な当たり障りないことを書いたんだと思う。

彼の家のベッドで2人で横になると、
まさかそんなことできると思っていなかったから、
心がぎゅっと締め付けられるような、
それでいて満たされるような不思議な心地がした。
夢のような時間だった。

彼の手がするすると私の身体を触ってくること以外は。
あの後もう1度、2度、そんな雰囲気になることがあっただろうか。
彼と遊ぶ度にこれを求められるのが嫌だった。
隣で静かに横になる、ということはないのだろうか。
横になったらもうそういう雰囲気になってしまうんだろうか。
そしてそれをいつまで自分は嫌と言えないままなのだろう。

彼のことを奉仕すると、彼は嬉しそうに「こっち見て」と言ってきて、
大人しく彼を見ると、「えろい」「可愛い」「ドMの顔してる」と好き放題言う。
彼が私のことを褒めてくれるのはこういう時だけだった。

そのうち彼が飲み会に誘われて、
家を出る支度をする、というので洗面台に行く彼に着いていく。
その間にも後輩の女の子からも連絡が来ていて、
私が「返したい」と言うと「○○って返しといて」と言われてそれを打つ。
彼女はこのことを知らないんだろう、と思うととてつもない優越感に浸れた。
けど今思えばもしかしたら私もされてたりしたんだろうか。
私が信頼できるからじゃなくて、駄々をこねるから彼は許してくれたのだろうから。

歯磨きをして、服装を整えて、ワックスで髪をまとめて、どんどん外行きの彼になっていく。
男友達の飲み会ですら整える外見を私の前では整えないことは、親しみと甘えのどちらだろう。
そんなことを考えながら、
結局また長い時間をかけて1人帰るのだ。

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