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泥酔して終電とバッグなくしたら五反田で知らないおじさんに助けられて朝帰りした話

かれこれ5年ほど前、いつものように飲み会でもなんでもない日の金曜日、散々飲んで終電ギリギリで山手線に乗った。そして、飲んだら座らないを肝に命じていたにもかかわらず、空いている席に座ってしまったため寝過ごした。

ここまではまあよくあることだ。

寝過ごしたことに気がついて飛び起きたと同時に、閉まりかけてたドアから抜け出した。手ぶらで。やば!と思った時には私のバッグを乗せた山手線最終電車は出発していた。ここはどこ?五反田だ。なぜ私は五反田で飛び降りてしまったのか。

身体ひとつで取り残される私。スマホすらないから電車代も払えない。酔った頭で強烈に「やっちまった」ことを自覚した。

とりあえず改札で駅員に状況を説明すると、世にも迷惑そうな顔で、はいはいそのまま出てください、と改札の外においだされた。

とりあえず外に出てみる。本当に身ひとつでポケットに小銭すら入ってない。事情を話してタクシーに乗せてくれたら家に帰ってお金を払って、、と算段して唖然とした。

家の鍵もねえ。

仮にタクシー乗せてもらえて家(電車で1時間ほどの距離)までついても、タクシー代払えない。それどころか家に入れない。

震えた。

つうことはだ、電車動き出すまでここにいてJRに落とし物探してもらって取りに行くしかないのだ。

凍える。

この時まだ春先で夜はそれなりに冷える。正真正銘途方に暮れた。酔いが急速に冷めていくが、頭は痛いし喉が渇いている。30をいくつも超えた女が一文無しで駅のベンチで夜を明かさなくてはいけないのか。あまりの情けなさに泣けてきた。私はバカだ。酔って電車乗り過ごしたことは数知れず。スマホも何台もなくした。それなのに性懲りもなくお酒ばかり飲んで、貯金だってほとんどない。彼氏もいない。こんなバカ女はこのまま凍え死んだほうがいいんだ。

思考回路がイタイ年増だったが、結構思い詰めていた。そして本当に嗚咽を漏らしながら涙を流して立ち尽くしていた。

その時、タクシー乗り場で前に並んでいた男性が振り返った。そして何とも飄々とした口調で「どーしたの?ー」と声をかけてくれたのだ。

男性は着物を着ていた。ちょっとお酒も入っているのか元からの性格なのか、やたら人懐こそうな人だ。年は70歳くらい。駅前で深夜に手ぶらで号泣してる不気味なアラサーに声をかけてくるということはけっこう変わり者なのだろう。

私は変なおじさんの変なテンションに少し正気を取り戻して、終電にバッグを忘れて帰れないと打ち明けた。

「うちどこなの?」「千葉です」

着物のおじさんをおヒョイさんと呼ぶことにした。おヒョイさんはちょっと考えて、

「さすがに千葉までタクシー代出せないわなー」

と言った。そりゃそうだよね。身分証もない、携帯もない女に金渡すお人好しはいないだろう。

1000円でも恵んでくれたらそれでタクシー乗って隣駅の行きつけのバーで誰か知り合いに助けてもらうんだけどなあ、とめちゃくちゃ都合のいいことを考えていたら、おヒョイさん、

「じゃ飲みに行こっか」と言ってスタスタ歩き出した。

なんだこの展開。とりあえずついていく。「朝まで付き合うよ」と飄々と言うのだった。

まじか。

まあいっか。おごりなら(→こういうところが心底アホだと思う我ながら)。

というわけでおヒョイさんに連れられてその辺の赤提灯系の居酒屋に入った。とりあえずビールで乾杯した。散々飲んだ後だったが喉が乾いていたので美味しく感じた。そしてちょっと元気になってきた。

おヒョイさんはなんかの(忘れた)会社をやってたけど今は引退して毎日気楽に過ごしてるらしい。いろいろ話したが特に印象的なことがなかったのか、忘れた(ひどい)。

そんなんで夜中2時を過ぎるとその店も閉店になり外に出された。

これでホテルに連れ込まれたら私は断ってもいいのだろうか?(→マジでこういうところがバカすぎる)

もやもやしながらおヒョイさんについて行くと、カラオケ屋に着いた。

おヒョイさん、かっこいい。

2人でフリータイムで、と淡々と店員に告げている。店員は私たちをどういう関係だと思っているのだろう。

部屋に入り、バカだから若干身構えていたが、おヒョイさんは淡々と曲を入れて歌い出した。全然知らない演歌を。

私も一応曲を入れて順番に歌ってみるが、夜中3時で、いろいろあって体力も眠気も限界で、、恩人のおヒョイさんをほったらかしてウトウトしてしまった。

途中、ハッと目覚めたら、おヒョイさんはまだ淡々と歌っていた。そしてまたウトウト。

朝になった。おヒョイさんに起こされて店を出ると朝日が眩しかった。私はかなり正気に戻っていて、猛烈に気まずく恥ずかしかった。

駅まで送ってくれたおヒョイさんは、「はいこれ」と2000円くれて、「これで電車乗りなー」と言った。私はもう本当すみません!と思いながらお金を受け取り、名刺をもらった。あとで必ずお返しします、と言ってみるも、「そんなのいらなーい」とかなんとか言って、じゃあこれだけね、と、

ハグされた。

誤解しないでほしい。いやらしい感じではなく、こう、外人が別れ際にする感じの極めてライトな感じのハグ。欧米か?

おヒョイさん、変な人だったなあーと思いながら手を振ると、おヒョイさんも、「変な女に捕まった〜、変な女に捕まった〜」とぶつぶつ言いながら去っていった。

だよねー。

変な女に付き合ってオールさせてしまってほんとにごめんなさい。ヤラレちまっても文句はいわめぇと、変な漢気だして腹括ってた自分が恥ずかしい。いやもう最初から最後まで恥ずかしい。

その後駅で落とし物相談をしたところ、電車に置いてきたバッグはそのまま届けられていて、財布もスマホも全部あった。

世の中いい人だらけだ。これは神様からの最後の愛だと思って、お酒はほどほどにしようと誓った。たぶんこの時以来最悪の最悪な失態は犯していないはずだ。

それでた、

本当に本当に最低だと思うのだが、お礼をするための連絡先か書かれた名刺を、、なくした。

ポケットに入れたはずだった。なんでなくしたのかわからないがなくした。

よって、最低なことにあの後直接お礼を言えてなくて返金もできていないのだ。

以来五反田を通ると着物の男性を探している。