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【地震前兆百科】陸上の動物:イヌ・オオカミ

■はじめに

自宅でイヌを飼っている家は、個人的に羨ましいと思う。
このノートを読めばわかるように、イヌたちは大地震が起きる前に、そのことを「知らせてくれる」ことが多いからだ。

イヌ(犬)は、ネコ目(食肉目)-イヌ科-イヌ属に分類される哺乳類だ。
「ネコの親戚?」と意外に思われるかもしれないが、生物学的分類上ではそうなっている。
オオカミが家畜されたものだ。

2018年の調査によると、日本では890万頭のイヌが飼われている。
イヌは、私たちががごく身近に見ることができ、地震の前にさまざまな異常行動を見せる。
そのため、やはりイヌが見せる異常行動などの前兆現象は、全体の中でも非常に多い。

すべての飼い犬ではないとしても、後述する生物学者などの研究によって、人間たちよりも早く地震前兆を捉えるイヌたちが多いことがわかってきた。
しかも、危険を察知して、そのことを飼い主に知らせてくれて、なんとか家から連れ出そうとするイヌもいる。
日ごろから人間に忠実だが、防災観点でもありがたい動物なのだ。

近所で吠える犬がいて日ごろうるさく思っても、大地震の前兆を捉えて吠え続けてくれれば、「ああ、あの犬のおかげで命が助かった」と思えるかもしれない。

また、イヌの祖先であるオオカミは、もちろんイヌと同様にネコ目(食肉目)-イヌ科-イヌ属に分類される哺乳類だが、現代人の身近にいないために事例は少ないものの、地震前兆のケースがあるため、まとめて紹介することにしたい。

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■犬に助けられた人々は多い

阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、近年日本で大きな被害と犠牲者を出した大地震は多い。
被災地の家庭の多くでは、イヌが飼われていただろう。

ここに書くような地震前のイヌの異常行動のパターンについて、もっと知識があれば、助からなかった命も助かったかもしれない。
イヌの地震前の異常行動について十分な知識がなかったために、そのサインに気づかなかった人も多いだろう。

このノートを読まれた方は、特に犬を飼われている方々は、将来に大地震に遭遇しても、ここに書かれた情報を防災用の知識として頭に入れていれば、愛犬に命を助けられたということも起きるかもしれない。

この【地震前兆百科】シリーズは、この『イヌ』編に限らず、必要があれば常に情報を追記したり、新たな地震前兆事例があった場合は追加したりして、どんどん育てていき、更新時には購入していただいた読者に通知するようにしている。

■動物の異常行動研究の前提として

東京大学・東京工業大学名誉教授の地球物理学者・力武常次氏(1921-2004)は、宏観異常現象の研究における日本の先駆者的存在だった。

1923年(大正12年)9月1日の関東大震災(M7.9)の前兆現象をまとめた故力武教授らの調査では、10件ほどのイヌの報告がある。
そのうち、2週間前から数時間前までの間に、飼い犬が遠吠えしたという例が何件か見られる。

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【写真】力武常次東大名誉教授

イヌが遠吠えするのは、地震の前だけではないだろう。
これは、イヌの先祖であるオオカミから受け継いだ習性だ。
動物の異常行動を研究するには、その動物の習性をよく理解しておく必要がある。

オオカミの遠吠えは、仲間に自分のいる場所を知らせたり、他の群れに対して自分の縄張りを主張する意図がある。
イヌが救急車や消防車のサイレンに連鎖して遠吠えを始めるのは、サイレンの音の周波数が、イヌが危険を伝えるために行う遠吠えの周波数帯域と似ているせいだという。

他のイヌたちに危険を知らせるためということは、地震などの危険を本能的に察知しても、遠吠えするのも、ありそうなことだろう。
だからといって、飼い犬が遠吠えしたらすぐに地震と結びつけるというのも感心しないが。

以降で、過去に世界の各地で起きた大地震の前に、イヌたちがどのような行動を取ったかを、地震発生の時系列に紹介する。

■中国・平羅地震(1739)

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