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小説。 僕の正直な顔。

小説。 僕の正直な顔。



 僕は自他共に認める優しい男だ。
そんなレッテルを貼り、貼られ、それを少し誇りに、だけども埃だとも思いながら時が過ぎて行った。そのうちに、僕というものはどこか遠くに行ってしまった。僕はどこに行ってしまったのか、僕はそれを探す旅に出かける。まだ見つかっていない、僕は意識を失う。その中で見つかったヒントだろうか。それを聞いてもらいたい。

・1つ目の顔。
 僕は、きっと寂しがりやだ。誰かに注目されたり気にかけてもらいたい欲求がいわゆる一般の人たちに比べて7倍くらい高い。人から放っておかれる状況、1人で自由に動いていい状況、暇な状況に耐えることが苦手だ。出来ないわけではない、苦手だ。いや、出来ないかもしれない。そのくらい、自分の中で、他人との繋がりは割合を多く占めている。なのに、それを認めたくない、一匹狼でいたいわけではないが、人肌恋しがってる奴とも思われたくないただそれだけだと思う。前面に出ている僕はきっと1人でも平気で他人に依存なんてしない人間と思われるように振る舞っているつもりだが、内面ではボロボロになっている。しかし、人に対して甘え倒して、それでいて裏で「あいつしつこい」なんて言われているのを想像するだけで生きていることが怖くてたまらなくなる。どこまでもハリボテにすがっていたい自分の顔は、自分の顔とは思えないほど、変な顔をしていた。

・2つ目の顔。
臆病だ。僕は臆病だ。急に勇気が出て行動することはできるのだがベースは臆病だ。慎重といえば聞こえは良いが、ただ足を踏み出さないだけ、自信がないだけ。考えてるフリして失敗を恐れているだけ。何かに紛れて事が収束しないかなぁなんて考えている。そんな時に絶対に逃げられない場面が訪れてしまった。長年臆病に慣れてしまったから、勇気の出し方を忘れてしまった。今までこういった場面にぶつかった時、どうやって乗り越えていただろう、どんなふうに自分は生きてきたのだろう。いずれにしても今も続いてる命だから、まだ乗り越えられる。乗り越えられるって思ってる。わかってるのだけれど、頭ではわかってるのだけれど。
ただ、どうしてもその方法を思い出せないだけ。思い出そうと思って鏡を見る。口を半開きにさせて目は虚ろ。髪を切ったばかりの少し不恰好な髪に、髭の剃り残し。実に不思議な顔だ。不思議な顔が目の前にある。
僕の顔って…こんな顔だったっけ?

・3つ目の顔。
 多重人格、人間失格、試験に合格、面接不合格。大事な連絡、見落とし大迷惑。会社に迷惑、必然な降格。無くなる味覚、生きてる感覚、叶わぬ計画……僕は!ぼ、僕は!
顔が見えないものならいくらでもやり通せる。言葉、綺麗な言葉。キレイ。綺麗なだけ、表面上。いくらでも作れる綺麗。嘘っぱちのキレイ。僕は存在が嘘八百。ネットの世界。綺麗事の自分。かっこいいイケメンな、他人とは違う自分。自信たっぷり、周りに人が集まっていて、勝者!そう勝者!!
そう、別格!!!!!!!!!
そう、そんな自分。そうやってレッテルはいくらでも貼れるのに、本物がどこにもない。正義に憧れるが正直になりきれない。クズになりたいが嫌われたくないから中途半端。変な奴になりたいが、変を演じてるだけの普通な奴。自己中になりたいが良心が痛む。なりきれない溶けきれない。半端な思いが乱反射して、周りに届く。届いたそれを開いた周りは
「結局あの人は何がしたいのかわからない」
そう、それで終わり。そこから先に興味を持ってもらえない。失意を抱いて、帰路に着く。夜、幾千もの夜を過ごしてきたからわかる。空っぽの夜。欲求が全て消えたような。満たされたからではない。なくなってしまったような。ぼんやりと水たまりを眺めた。僕の顔は、夜のせいだろうか。よく見えなかった。

・4つ目の顔。
 はい、はい、はい、うん、いいよ、うん、うん、はい、はい、やります、はい、おっけー、わかった、はい、はい…………
イエスマンは必ず報われる。SNSから得たその情報をリテラシーがない僕は鵜呑みにする。内部にはどこか、今について行くために必死だった思いがあったのだと思う。移り変わる。どこかで誰かと会って何かをする。漠然とした毎日は適当に過ごすと、いとも簡単に過ぎ去る。忘れ去る。私の前から去っていく。去るもの追わずの世界だから、ノーの一言でどこかへ行ってしまった人を何人も見てきた。1回の都合の悪さ、たった1度のドタキャン、やぶれかぶれ、キャンセル待ちなんてしてくれない。空いてるところに並べれば良い、行列に並ばない並べない嫌い無駄無駄無駄。って。流されて。はいはい言ってるから流されて、仲間ができて友達がずっとできない。トモダチトモダチ〜って口頭でいう僕の顔は果たして笑えてるかな。

・5つ目の顔。
 感情の仮面が参上した。喜怒哀楽全ての感情変化が起こりそうな時、それを防いでくれる存在、感情仮面!
怒る時に6秒考えたら怒りが収まるって教えてくれたりとか、悲しい時に悲しくならないようにそばにいてくれたり、まあなんかすげえ良い奴なんだ。でも、喜んだ時にさ、あなたが喜べる立場かなぁ?って言ってきたり、嬉しい時も、どうせいつかはまた不幸になるよって地平線の奥から囁いてきたりする。どこに行っても何をしてても付いてくるから、たまに付いてくるなって言いたくなるんだけど、なかなか強情な奴だから上手くいかない。失敗。今日も失敗した。「明日にはどうにかなるよ」って言ったかと思えば「失敗するなんてダメな奴」って言ったりして。究極のメンヘラだなぁ、おいメンヘラ仮面!お前は僕にどうなって欲しいんだ!
「返事はない」そう、僕が何か感情が動かないと、あいつは何もしないんだ。だから、存在を忘れてやる。感情を抑えれば良いんだ。どんな事にもどんな物にも、感情なんて動かさず、どんな美人を見ても、「いずれ老人になって可愛くなくなる」とかどんなに美味しい食べ物を食べても「ただの排泄物の材料」とか思うようになって、喜怒哀楽を潰してきた。忘れかけていた。あんな奴のことなんか。久しぶりに昔見た映画を見た。昔には感じなかった良さがあった。あったのはわかる。本来なら涙が出たりしてくるのだろうと思えた。ある父親の回想シーン。切ない音楽と共に、自分が子供から大人になり家族を持つという美しい映像。
しばらく使ってなかったからだろう。目というものから涙というものが出てこなかった。きっと僕の顔には埃が溜まっていたから、顔が感情を表せなくなっただけだ。大したことではない。喜びとか悲しみとか、今後2度と味わえないだろうって思った時、顔から埃が出てきた。僕はそれを拭うように、顔を洗った。

・とある日。
 また目を覚ましてしまった。まだこの世界に飼い慣らされたいのか、執着してるだけなのか。僕はただ、欲求に正直になれなかった。楽しみで寝れないとかそんなもの、たったの少しの夢のためにワクワクするなんてバカだと思っていた僕が、まさに今、寝れなくなった。楽しみ過ぎてソワソワしていた。きっとそれが最も正直な瞬間で、受け入れないようにしていた自分の姿だった。無意識に現れていたそれを自分が意識の中で認識した時、出来た時、自分を受け入れられたことになると思う。僕はこうして自分自身と再会することができた。それは、きっと人が人として生まれたことの幸せだと思う。
 そう綺麗に終わりたいのだけれど、僕は優しくてかっこ悪いからいつか絶対辿り着いてみせるって思ってるし、優しい自分をぶっ殺してまででも欲しいものは手に入れたいし、何よりこうやってそれを文章で可視化することによっていかに自分が野心家であるかを再認識する。自分との乖離は否めないけど、これがどうしようもない僕の顔で、何度も何度も泣いて泣き腫らして、少し赤くなった顔。何もかも貪り、何をしても不足感に苛まれ、嫌というほど上昇志向を持っている顔。満足できずに動き続け、疲れて動けなくなるまで足掻こうとするこの顔。
1番どうしようもなくて、1番僕らしい顔をしてやがる。そうやっていつか起きるかもしれない奇跡を待ち続ける。そう、それだ、その時のその顔だ!!!僕はこの顔が1番好きで1番嫌いだ。だから、僕をはやく幸せにさせてくれ、こんな優しい僕を。真面目に純粋に生きてる僕を、はやく幸せに。



おわり。

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