【小説】無機質な彼【ショートストーリー】
彼は冷めていた
目の前に立つ彼は、何の感情もない目で私を見る
それもそのはず、彼はここを出て行くのだから
別れを惜しむように、私は右手で彼の頬を触る。そして親指で口唇をなぞった。彼は眉ひとつ動かさない
今度は彼の首筋に触れ、鎖骨、肩、腕の順番になぞってゆく。彼の指を私の指で絡めるが、やはり反応はない
左手で彼の鍛あげられた太ももを撫る。冷たくて固い。相変わらず彼の目はなんの感情も示さない
あきらめた私は彼の胸に頬をあて、両手を背中にまわす。彼から冷たく、無機質な匂いを感じる。それが彼から私への答えなのか。冷たい涙が頬を伝う
ふいにドアがノックされる
私は彼から離れ、頬を拭う
「はい」
「あ、先生。その人体模型の買い取り業者が来てますので、対応お願いします」
「わかりました」
ふと彼を見ると、半分笑っているようにみえた