雑文 #181 泣かない
母が入院した。
去年の春先にも2ヶ月入院してたから、あのときのような衝撃はない。もう私はそのことでノイローゼのようにはならないだろう。
だけど私がここのところ調子が悪い一因に、母のことがあるんだろうとは思ってた。原因の全部ではない。コロナ禍とか、自分自身のこととか、いろいろあるんだろうけど、でも母が悪くなるタイミングで私も悪くなってった。
こう書くと誤解されるだろう。母思いの娘だと。全然違う。母は鬼門である。
私はお見舞いにも行かない。行けないのだ。妹に任せてる。そのぶん仕事と姪の世話を私が負担する。母を世話できないことをもはや申し訳ないとも言わない。それは去年泣きながら言ったと思う。
私は母の遺伝が濃い。似ているところがある。でも全然違うところももちろんある。理解できるし、理解できない。決して仲良くはない。苦手だ。私は良い娘ではないし、母は良い母ではないと思う。
でもただひとつ、言えることは母は私たちを大人になるまでしっかり育ててくれた。それだけでとても大きなこと。
母は来週からいろいろ検査をするが、また違った病の名前を得るかもしれない。ネットの限り調べたり、妹たちと喧々諤々話したり。そんなことをしても専門家じゃないんだかららちが明かないのに。
心配だ。私はとにかく心配しているんだと思う。母が好きとか苦手とか、良いとか悪いとか、ああ言ったこう言ったとか、そんなこともはや一切どうでもよく、ただ心配なんである。
昨日、姪と一緒に段ボールで秘密基地みたいなものを作っていた。そこに父と妹が疲れて帰ってきた。姪が素直に喜びを表す。
状況を話しながら、父が泣き出した。「お母さん、可哀想だ…」
それを見て姪が「おじいちゃん、泣いてる!」と言って笑ってる。大人の男が泣いているのを見るのが珍しく、おもしろいのだ。
「泣いてないよ」父が言う。
「だっておばあちゃん入院して可哀想でしょう?」妹が諫める。
私はうっかりもらい泣きすることなく、立ち上がってみんなの夕ごはんの準備を始めた。
30分で作ったカレーライス。洗って混ぜただけのサラダ。茹でて塩した枝豆。父とビールを少し飲む。
ほろ酔いで父がまた泣きそうになった。すごく弱気になっている。父が良くないことを言うので、私はまた泣きそうな気持ちを飲み込んで言った。
「お父さんの予感ってだいたい当たらないんだから」
「おじいちゃん、やっぱり泣いてる」カレーを食べていた姪がまた笑った。
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