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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #105 Jun Side

毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛中。さとみは琉生と同棲しているが、このまま結婚していいのか悩み中。琉生と一時期付き合っていた由衣は、上司の斎藤と不倫中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思いだが、酔った勢いと惰性で、由衣とセフレの関係でもある。琉生が出張のため、さとみと潤は会社帰りに待ち合わせをして食事に。

▼時間軸としてはこちらの続きです

「大丈夫ですか?」

「うん、多分」

駅までの帰り道。さとみさんの足元が、おぼつかない。ワイン、飲ませ過ぎた、かなあ。

俺はさとみさんを支えながらどうしようか、考えていた。

「さとみさん、お酒弱いんですね?すみません」

「大丈夫〜」

顔は赤いが、ご機嫌。か、かわいい・・・けど、大丈夫か?

飲みすぎで具合が悪くなるタイプではなさそうだけど。由衣さんのような酔っぱらいじゃないだけ助かる。

さとみさんはふんふんと、鼻歌かなにかリズムを取りながら歩いている。かわいいけど、なんか、意外。

普段きっちりしているイメージのさとみさんが、ほわほわだ。

「ねえ、潤くん」

先を歩いていたさとみさんが、振り向いた。

「はい」

「行動を変えるって、同棲解消する以外になにかあるかなあ」

「うーん」

さっきの話しか。

俺は自分で言っておきながら、俺に有利になる名案が浮かばなかった。

「えっと、俺と浮気するとか」

俺は苦し紛れに、でも本音を混ぜた冗談で言ってみた。

返事はない。その代わり、さとみさんはクスクス笑っている。

「あ、お水買っていいかな」

さとみさんが自動販売機を見つけ、向かって言った。

・・・華麗にスルーされた。

「あ、俺、買います」

俺はちょっと傷つきつつ、さとみさんが小銭を探している隙に、横からICカードでタッチした。

「ありがとう」

さとみさんが水を取り出す。

「酔ってるよね、私」

「はい、多分」

「酔い覚まして帰らないと」

確かに。俺もここまで酔ってるさとみさんを琉生さんには見せられない。

「あっちに小さいけど公園ありますよ」

俺も自分用に水を買って、さとみさんを公園につれていくことにした。

大通りから一本入ると、ビルとビルの間に小さな公園がある。公園と言っても、植栽とベンチしかないようなスペースなので、普段はビジネスマンの休憩場所として使われている。夜はもう誰もいなかった。

さとみさんがベンチに座る。

俺も横に腰掛けた。

さとみさんがペットボトルを開けようとしているが、酔って力が入らないのか、開かない。

「開けますよ」

俺が手を差し出す。

「ありがと」

さとみさんからペットボトルを受け取り、蓋を開ける。

さとみさんにそっと渡すと、もう一度ありがとう、と言われた。

いちいち比べてしまうけど、由衣さんとはぜんっぜん、違う。由衣さんだったら「ん」って、渡されて、「ん」って受け取られる気がする。

やっぱりセフレの由衣さんと、本命のさとみさんだったら、天地の差で、さとみさんだわ。かわいすぎるし、いい人過ぎる。

コクコクと水を飲んでいるさとみさんを見ているだけでも、幸せだ。

「そんな、見ないで」

俺の視線に気がついて、さとみさんがうつむいた。

「見ますよ」

だってこんな機会、めったに無いので。といいながら、一時期より一緒にいる機会が増えてきているので、プライベートなさとみさんを見る機会も増えているわけだけど。

「潤くんて、今本当に彼女いないの?」

さとみさんが、子供のようにベンチで足をぶらぶらさせている。

悪魔のような由衣さんが頭をよぎるが、あの人はもう斎藤部長に夢中だ。

「いません」

俺はいつもの調子で、なんでも無いように答えた。

「気にしてくれてるんですか?」

「・・・・」

さとみさんからは返事がなかった。そのまま下を向いて足をぶらぶらさせている。何を考えているんだろうか。それとも酔っていてぼーっとしているだけなんだろうか。

「俺、やっぱ、理性が・・・」

「ん?」

あどけない顔でさとみさんが振り向く。

俺は耐えられなくなり、さとみさんの肩を掴んで。

そして、キスをした。

さとみさんの柔らかい唇に俺の唇が触れる。

この前はおでこまでだったけど、このかわいらしさに我慢が出来なかった。

突き飛ばされるかひっぱたかれるかも覚悟した。のに。

さとみさんは俺にされるがままだった。

それどころか、さとみさんの手が俺の腰にまわり、シャツを掴む。夢かな、と思った。夢なら夢で味わわないと損だ。

俺は夢中でさとみさんの唇を貪った。

最初は遠慮がちにシャツを掴んでいたさとみさんの手が、最後のほうは抱きつかれるような形になっていた。

どのくらい時間が経っただろうか。

「あの」

そっと唇を離した俺のほうが戸惑っていた。

「い・・・いんですか」

理性が効かなくなっていた自分が恥ずかしくなって、俺のほうが目を合わせられない。

「うん」

「そんなこと言うと、ホテルに連れ込みますよ」

「うん」

「え?」

やだあ、と笑われることを期待して言ったのに返ってきたのは、思いがけない返事。

俺は耳を疑った。

「さっき浮気しようって言ったの、潤くんだよ?」

平然と、さとみさんがそんな事を言う。まだ、酔っているのか。

「いやっ。それは例えというか、冗談というか」

俺のほうが慌てて、打ち消した。

きょとんとしているさとみさんは、めちゃくちゃ可愛いが、それを見ている俺の脳みそのほうが大混乱している。こ、こんなこと、さとみさんが言うわけがない。酔ってるとは言え。どうしたっていうんだ。

しかしその後さらに、俺は信じられない言葉を訊いた。

「私・・・多分・・・潤くんのこと、好きなの」

「へ?!」

俺は再び耳を疑った。ちょっと、日本語が理解できなくなっている、俺。

さとみさんはじっと俺を見つめている。俺は脳みそをフル回転させるが、さとみさんが何を言っているのか、わからない。

俺のほうが酔っていて、さとみさんの言葉を理解できないんだろうか。

「私、気がつくといつも、潤くんどうしてるかなとか、LINE来ないかなって考えてるんだ」

さとみさんが、ぽつりと言った。その声は、さっきよりしっかりしていて酔っぱらいの感じではなくなっていた。

え。マジで?それって。

「だけど、彼もいるし・・・いい人だし・・・別れるほどの理由もなくて」

さとみさんがうつむきながら、そう言った。

えっと、他に好きな人が出来たというのは、恋人と別れるのに十分な理由だと思いますが。

と言いたかったが、茶化すとそれ以上話してもらえないかもしれない、と思い、俺は黙ってさとみさんが続ける話に耳を傾けた。

「でも私が潤くんのことを考えているのって、友達として好きなのか、そうじゃないのか分からなくて・・・」

何がどうなったのかわからないけど、今までの積み重ねが、さとみさんの心に届いていたってことか???

「確かめてみます?」

NOの可能性もあるから、と自分に言い聞かせつつ、俺は千載一遇のチャンスを逃すまいとしていた。がっついていると思われても構わない。

さとみさんが、コクリと頷く。

「キスだけじゃないんですよ」

確認・・・というかダメ押しで、俺はもう一言付け加えた。

「今日は彼氏さんのところに帰さないですよ?」

さとみさんはもう一度、コクリと頷いた。

え、じゃあ、これから俺、どうしたらいいの???

じっと俺を見つめるさとみさんを見ながら、俺の心臓のほうが早鐘のように鳴り出した。


*** 次回は8月7日(土)21時頃更新です ***

雨宮よりあとがき:よおおおおおおおおやく、潤にもさとみの気持ちが・・・!いやまあ、ずっとさとみも潤のこと気にしてたんですけどね。どうするの、琉生は。気になる、気になるよおおおお←作者w

というわけで、あしたは久しぶりにアダルト(有料)をさとみと潤で書こうと思っています。よければぜひお読みください。

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