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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #115 Ryusei Side

毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛中。さとみは琉生と同棲しているが、このまま結婚していいのか悩み中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。琉生が出張中、さとみは志田のことが好きだと気付いてしまい、二人は一線を超えてしまう。それを知らずに琉生は出張から帰宅し、普段どおりの生活を続けている。

今日もまた、帰りが遅くなってしまった。

「今、最寄り駅着いた」

さとみにLINEをする。

「気を付けてね」

すぐに返ってきたLINEに嬉しくなる。

「コンビニ寄っていくけど、何か欲しいものある?」

「ううん、大丈夫。お菓子とか買ってこないでね」

言おうとしていたことを、先回りして牽制されてしまった。

最近、晩酌の酒を買いに寄るのがクセになっているのだが、自分だけが飲んでいるのは居心地が悪いので、さとみに、とスイーツを買っていってしまっていた。

3日連続で買っていって、昨日ついに言われてしまったのだ。

「あの・・・たまになら嬉しいんだけど・・・夜食べると太るし・・・こんなに続けては、いらない」

「あ、うん、そうか。ごめん」

さとみはもともと細いので、太るとか気にしないものかと思っていた。

仕方なく、俺は自分の缶チューハイと乾き物を手に取り、レジに向かった。

あ、そういえば、取引先の会社が雑誌に広告を出したとかで、見てほしいって言われていたな。

俺は雑誌コーナーに向かう。

有名な雑誌だったので、すぐに見つかった。ふと横を見ると、女性誌が並んでいて、俺の目は華やかな女性が花にうもれてにっこりしている雑誌に目が留まった。

結婚情報誌・・・

こういうのは女性が買うものなんだろう。

でも、リアルに結婚が近づいてきている今、ちょっと読んでみたいと思った。俺は雑誌を2冊手に取ると、レジに向かった。

***

「え・・・」

俺が買っていった結婚情報誌をみて、さとみが固まっている。

「いや、ちょっと、俺もどんなものか見てみたくて」

「あ・・・うん・・・私も、こういうのはちゃんと見たことないけど・・・」

さとみが雑誌をペラペラとめくる。

スイーツを買って帰った時より、引かれている気がする。ミスったか。

「まあ、いいじゃん。一回一緒に見てみようよ」

俺はさとみが並べてくれた料理と共に、チューハイの缶を開ける。

「す、すごい・・・」

さとみが、絶句している。

俺はさとみの横に移動して、一緒に雑誌を見た。

巻頭から

「結婚の届け出一覧!これがあれば大丈夫!」

「結婚式のお金丸わかり!」

「今、流行りのウエディングドレスはこれ」

「エンゲージリングは必要?先輩の買ってよかったリングブランドベスト10」

など、どのページも幸せそうな女性(と、時に男性)が目白押しだ。

結婚式の準備はもちろん、届け出に関することなどが、事細かに書いてある。

「結婚する人、みんなこんなことしてるのかな」

さとみが唖然とした様子でつぶやいた。

「うん・・・なんか、スゲー大変そう・・・」

俺も、役所に婚姻届けを出して、身内でこじんまりしたパーティーでもやればいいか、と思っていただけなので、軽くめまいがした。

「きっと・・・こういうのは、若くて“お嫁さんになりたい!”っていう子がするものだよね」

雑誌の後半は、式場やホテル、コンシェルジュデスクなどの広告がほとんどだった。なるほど、そういう雑誌なのか。

さとみがそっと雑誌を閉じる。

「年齢ではなく、こういうことをしたい!って思っている人は・・・やりたいんだろうね」

ため息交じりに言う。

「私、ここまでしなくてもいいかなあ」

俺も、見てみて、完全にこの中に書いてあるのはファンタジーだと思った。

なんとなく“指輪は給料の3ヶ月分”なんてフレーズを見たことはあったが・・・一生に一度だから、という理由でなにかと金を遣わせようとしているようにしか見えない。

俺自身、友達でもダイスケくらいしか、結婚しているヤツがいないので、本当にみんながこういうことをしているのか、理解できなかった。

実際「結婚式!披露宴!」という物に出たことがないので、俺は年長者で適齢期のさとみに訊いてみた。

「さとみは友達の結婚式とか出たことある?」

「あるけど、ザ、披露宴、みたいなのは、昔従妹のお姉ちゃんのに出たくらいかな」

「そっかあ。やっぱり最近そういうの、する人すくないよね」

俺はふと、斎藤部長のことを思い出した。

「斎藤部長と奥さんのは?さとみ、総務で奥さんと同じ部署だし、呼ばれなかったの?」

「斎藤部長と光先輩は、確かハワイかグアムで式だけしてたと思うよ。だから前もってお祝い渡して、後日写真見せてもらったくらい」

「あー、なるほどー。そういうの、いいなあ」

「今はなかなか難しいけどね」

そっか。世界情勢もあるから、今、海外で式を挙げるのも、以前ほど気軽にできなくなっているんだろう。残念だ。

「でも、さとみのドレス姿は見たいかなあ」

「え・・・いいよ、そんなの・・・」

さとみは相変わらず、結婚に興味がない。

「じゃあ、指輪は?指輪はこんなのが欲しい、とかないの?」

「ない・・・。指輪は、これがあるし」

そういって、さとみが右手の薬指の指輪を差した。クリスマスに俺が贈った指輪。

「え、それと婚約指輪とはまた別じゃん。なんか、買おうよ」

大事にしてくれるのはいいけど、それとこれとは話が違う。

「琉生・・・まだ同棲してから、一年経ってないよ」

「え、でも・・・」

いや、確かに同棲して一年経ったら結婚しよう、と約束はした。その約束まであと3ヶ月ほどだ。しかしこの期に及んで、結婚しないという選択があるのか?

「一年経ったら・・・話そう?」

「う、うん」

さとみがそういうので、俺は仕方なく頷くしかなかった。

マリッジブルーというやつなのだろうか。いや、そんなに深刻そうではない。さとみの反応は・・・結婚に興味がない、という感じだった。

32ともなると、現実的になってしまうのか。さとみは、結婚したい時期は過ぎたって言ってたから、そんなものなのかもしれない。20代の俺とのギャップを感じる。

さとみがそっと雑誌をマガジンラックに入れる。

「お風呂入るね」

「うん」

俺は、残っていた缶チューハイを飲み干し、スマホで

“結婚式 男女差”

と検索してみる。

案の定、女性は派手にやりたくて、男性はそうでもない、というエピソードばかり目につく。

俺も派手にやりたいわけじゃないんだけど・・・記念になることはしたいよなあ。どちらにしろ、さとみが賛成してくれないと、動きづらいわけだけど。今からプロポーズの時の指輪くらい、用意しておいてもいいかな。

俺は、続いて

“プロポーズ 指輪”

で検索を始めた。



*** 次回更新は9月3日(金)21時ごろの予定です***


雨宮よりあとがき:私自身、結婚情報誌を初めてみたときはドン引きしました(笑)30過ぎてたのと、そんなに結婚式に憧れはなかったので、遠い存在だなーとw(実際は双方の親のために、簡単な式とパーティーやりましたけどね)でも時々男性のほうが頑張っちゃう話も聞くので、琉生はそのタイプだろうなあ、と思って書いております。




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