自分という魔物

昔から「自分がもう一人いればいいのに」と思っていた。
でも、心から自分という存在を憎んでいた時期もあって、矛盾の狭間で潰されそうになっていた。

不思議と、私は悲しい人やつらい人を引き寄せた。
普段元気な人でも、たまたま私がいるタイミングで悲しい出来事が起きたりもする。
そんなとき、私は必ず一緒に悲しみ、慰め、抱きしめ、頭を撫でてあげた。
みんな感謝してくれたし、なかには告白されてお付き合いした人もいた。

けれども、その私の行動は、本心からの優しさじゃない。
本当は、誰よりも、私が一番されたかったことだったから。
人を慰めてあげている間、私が思うことは「羨ましい」だった。
「私も、こうやって、一緒に悲しんで、慰めて、抱きしめて、頭を撫でてほしい。どうして誰もしてくれないんだろう?どうしてみんな、自分のことばかりなのだろう?」と、内心苛立っていた。
自分ばかり慰めてもらって羨ましいな、と。

みんなは私を「優しい」と言ってくれたけど、その苛立ちがあったから、私は私を優しいとは思えなかった。
私を好きだと言ってくれて、お付き合いした人も、みんな、誰も、本当に悲しいとき、抱きしめてはくれなかった。
むしろ傷つけられるばかりで、私の何を見ているのかわからなくて、いつも振った。
今のパートナーは、唯一、一生懸命本人なりに愛してくれようとしてるのが伝わっている。
それでも、本当に私が悲しいとき、抱きしめてくれるわけではない。
私から抱きしめれば、抱きしめ返してくれる。
それで十分なのだろう。
私から、自発的にすればいいだけなのだ。
わかっている。
それでも、誰かから、優しく、そっと抱きしめてほしいときもある。

だから、私はつらいとき、いつも自分で自分を抱きしめた。
ベッドのなかでうずくまって、頭を撫でた。
「大丈夫、大丈夫。つらいね」と。
閉められた扉をそっと開けて、うずくまる背中を、見えない神様がさすってくれる。
つらいとき、昔からそうやって、しのいできた。
それで満足できるかと言えば、できるわけがない。
でも、誰もしてくれないから、そうする他ないのだ。

自分を心から憎んでいた時期は、本当につらかった。
「自分がもう一人いればいいのに」とすら思えないのは、あまりに孤独だった。
両親から生まれた自分が醜くて……体に通っている血が、体を支えている骨が、それを覆っている皮膚が、すべて気持ち悪かった。
気持ち悪すぎて、吐き気がした。
全身引っかき傷だらけになって、毎日みみずばれがあった。
その時期、何度も自殺未遂した。
死にきれなくて、自分を余計に憎んだ。

どうやってその時期を脱せられたのかは、あまりよく覚えていない。
アニメのおかげかな。
一通り自分を憎んだら、満足したのかもしれない。
私は良くも悪くも飽き性でめんどくさがりだから、「もういいや」と思ったのかもしれない。

他人が私を好きだと言ってくれる。
でも、私にはその「好き」が、どの「好き」かわからない。
その人が見ている私は、私のなかの一面でしかない。
たとえば、私が誰かに優しくしているとき、頭の中で相手をぶん殴っていたら……その人は私を本当に好きだと言えるのだろうか。
自分でも自分が面倒だと思う。
でも、そういうことって、よくある。
最近はほとんどないけど、昔はよくあった。
ニコニコ笑いながら、頭の中で相手をぶん殴ってること。
一人になった瞬間、頭の中で、相手の体をぐちゃぐちゃにしてるんだ。
狂気の沙汰だ。
「妄想と現実が逆になってしまったらどうしよう」と、いつも自分が怖かった。
そんな私は、全然優しくなんかないだろう。
一体どの私を「優しい」だなんて言っているのか。
そしてその優しさを見て、よく「好き」だなんて言えるな、と思う。

漫画の王子様やヒーローみたいな人が現れて、「好きってこういうことだ!」ってバーンッ!って教えてくれるはずもないし。
どんなに愛情を注いでもらっても、虐待を受けて育った私は、きっと、「もっともっと」と欲してしまうのだろうとも思う。
結局、私が求める完璧な愛情なんて、私しか与えられない。
だから、私は、もう一人私がほしい。

でも「こんな狂気的な人間がもう一人いても大変だろうな」とも思う。
私は優しくなることが目標だけど、もう一人私が存在しても、優しくなれる自分を想像できない。
避けられない嫌な出来事の愚痴を言い合って、傷を舐めあって、完全に自分中心の世界を築くだけだ。
そうして、いつか仲違いして、また孤独を味わうハメになる。

一人で強くなってしまうとね、人に優しくあれないんだよ。
人に優しくあれなければ、人はどんどん離れていく。
そうして孤独になり、人を恨み、不幸になる。
つらいことを経験した人は、その分だけ人に優しくできる……なんて綺麗な言葉があるけれど、だいたいそう上手くはいかない。
つらいことを経験して、誰かに助けてもらえた人は、優しくあれる……というのが正解だ。
一人で強くなると、他人にもその努力を強要してしまう。
知らず知らずのうちに「自分ができたんだから、お前もできるだろ」って、押し付けてしまう。
でも本当は、できない人のほうが、多いんだ。

私は……頭では理解していて、必死に誰かに優しくされた経験を思い出して、一人じゃなかったんだって思うようにしている。
それでも、やっぱり、今でもたまに、自分が怖くなるよ。
自分のできることを相手に強要したくなる。
いつか、本当の優しさを手に入れたいものだ。

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