老母宅にトイレットペーパーをお届け。

唐揚げもリクエストされる。

トイレットペーパー12個の入った一袋を、何かしら負い目を感じながらも購入できたので、歩いて20分くらいのところに独居する母に電話をし、これから届けるよ、と伝える。

母は自力では最寄りのコンビニまでしか行けないので、そこに無いものは買えない。「トイレットペーパーがもうなくなるので、あったら買ってきて」と言われていて、ここ数日気になっていた。

「手に入るかは分からないけど、他に何か入り用の物は?」と尋ねると「あんたがよく買ってきてくれる唐揚げが欲しい、冷凍の」という。

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きっと、売上No1の、コレのことだ。

「では、途中の店で見てみる」と言って、すでに手元にあるトイペを大きめのリュックに入れて背負って出る。

80を超えた母のことは、以前も少し書いた。

テレビで取材されるような驚くべき健康を誇る老人、というわけでないが、母は歩行がおぼつかない以外はまずまず元気で、意識高い系の人達が嫌がるような、唐揚げやらフライやらといった食べ物を好む。

途中のスーパーマーケットの冷食売り場で、目当ての唐揚げが運よくあったので、トイペと一緒に背負って向かう。

こまめに訪ねられるわけでもないので、リクエストの品を首尾よく集められると嬉しい。
しかしこの嬉しさが、買占め行動を支える感情かも知れないと思う。

ひと気のない満開の桜通りで怖い話を思い出す。

例年なら町会の提灯が等間隔に下がり、暗くなるまで賑わいの絶えない桜の緑道に、人影はほとんどない。

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なにかの拍子で静まり返ったしまった街を見ると、永井豪の「ススムちゃん大ショック」や日野日出志の「元日の朝」を思い出して、少年の頃のトラウマがよみがえる。

大人に無慈悲に殺戮される子供たちを描いた、そういう漫画で心に傷を負った私だが、母宅の玄関を開ける際には手とドアノブをアルコール除菌する、心優しい中年紳士に育った。母との会話の際も、マスクは外さない。
トイレットペーパーと冷凍唐揚げさえ届ければ、予定外のものは何も持ち込みたくないので、距離をおいて会話をする。

ニュースになっている病院にかつて自分が入院していたと知る。

話のなかで、感染者が多く出てしまった台東区の病院の話になった。
すると「あんたが入院してた頃は、あんなに大きい病院じゃなかったし、場所もいまと違ったよね」と言われた。

「おれ、あの病院に入院してたの?」と驚くと「そうだよ、小学校あがってすぐ。肺炎で入院したでしょ」と言われ「それは覚えているけど病院がどこかは知らなかった」と答えた。
かつては銀座線浅草駅のとなりの稲荷町の交差点の角ににあったらしい。

私がその病院のお世話になったのは何十年も前のことだが、この一大事における舞台のひとつが、幼い自分とゆかりのある所だったのは少々驚きだった。

* * *

東京は、明日は雪だという。
街の鳥や猫や桜には気の毒だが、予報では長くは続かないようで良かった。

老母の暮らしの状況も確認できたし、愛犬は元のパートナー宅に遊びに行ってて散歩の必要もないし、明日こそは立派に引きこもってみせるぞぉ。


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