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#小説

黒 『夜露がたり』(砂原浩太朗)が凄い

表紙と装丁の元となっているのは広重の「両国花火」。 でも花火も屋形船も切り落とされている。 ただ黒洞々たる夜の橋があるばかりだ。 と、羅生門の最後の一行なぞもじりたくなったのは、その内容故かもしれない。 手にするとずっしりと重く感じるのは、 タイトルと帯に書かれた宣伝文の力もきっとある。 『夜露がたり』(砂原浩太朗・新潮社) 目次をみると全8篇、 それぞれのタイトルからも滲みが漏れ、否が応でも期待は膨らむ。 「帰ってきた」「向こうがわ」「死んでくれ」「さざなみ」 「錆び刀」「

凪良ゆうの『汝、星のごとく 』 「こうである、ことが当たり前」なんて、ない

人は誰しも「思い込み」を持っていると思う。 大きなものから小さなものまで、 言うなれば 「こう、と、されている、ことを疑いすらしないこと、かーらーの固定」だろうか。 その「かーらーのー固定と凝り固まり」が、 誰かをしんどくさせたり誰かにとっての暴力となりもしかねない。 と、考えたことはあるだろうか。 「こうであることが当たり前of当たり前すぎて疑いもしない」 その向こうには、「ではない」「そうなれない、出来ない」ことやものやひと、も、「ある」「いる」。 その絶望や苦しみを考え

私労働小説 ブレイディみかこが「私たち」のクソみたいな仕事をロッキンに書ききった

クソみたいな仕事ってなに? それは「自分が自分でなくなってしまう」仕事。 クソみたいな仕事をしていたら自分が自分でなくなる。 自分が自分でなくなってしまうと自分ではない、それは、ない、 ありえない、あってはならない。のに。でも。 それでも。 クソみたいな仕事をしている主人公たち、 つまりそれは著者自身であり「私」である。 そんな「私」たちの〝私労働小説〟。 『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』 この本は、 出てすぐに買って、 勿体なすぎて1章1章読んだのだが、 毎回気持ち

1冊の本、ひとつの舞台 『歌舞伎座の怪紳士』はミステリーでもホラーでもなくハートフルなあなたの私の話

タイトル、ちょっと濃い。 〝歌舞伎座の怪紳士〟 勿論あのミュージカルをもじって付けられたのであろうことはわかる。 けれど、漢字ばかりが並ぶからかな、 怪と紳士が並ぶと圧が強いよなあ、そこが、それが、ミソやんなあ。 そんなタイトルに反して、内容は、とても、とてもやさしい。 あたたかくて、やさしい話だった。ヒネクレ者のわたしでも何度かホロリ。 劇場と、人と、人びと、物語と「私」の話だった。 多作で知られる近藤史恵さん。 最近はドラマ『シェフは名探偵』の原作者としてご存じの人も

オマージュと真実と 『カササギ殺人事件』

突然だが、パクリが嫌いだ。 パクリや利用(する・される)が嫌だ。 でもパクリっていったい何だろう。どこからどこまでを言うのだろう。 パクリというときつい言葉だが、便利な言葉もたくさんある。 オマージュとかインスパイアとかパロディとかリスペクトとか二次創作とかなんだかかんだか。 これらの言葉で言い逃れ……言い逃れという言葉もきついが、 本心からそんな気持ちでこれらの気持ちで作られるものだってあるだろうし、それぞれがそれぞれに、でも、「ん?」もあるかもしれないし、ああ、難しい。

そのタイトルに 『教誨』

ひとりだと、ひとり。でもそれが群れや集団となると、別だ。 集団は、時にとてもこわい。 〝個人のはっきりした言葉や意見よりも集団としての和〟 〝集団の中で波風を立たせずに生きることが美徳〟 〝空気を読め〟 そうして集団で「YES」となったことは時に絶対的に間違ったことであっても「YES」となることがある。 そうさせられてきたり、そうすることそのことを疑いもしなかったり、 いや、そうしないと排除されたりするから黙ること。 そんな暴走や暴力や沈黙が他者の尊厳や命さえ直接的にも間接的

大阪の物書きが始めた東京の本屋さんのこと 8月の更新と御礼

「本屋・桃花舞台」 startした5月GW以来、 いろんな方に訪れていただき、 お買い求めいただいたり、みていただいたり、 ほんとうにありがとうございます。 「湯島をぶらぶらしていて思い出して、Momoさんのnoteをみて気になっていた本を、手にすることが出来ました」とお伝え下さった方も居て、 ありがたくうれしいことばかりです。 自己紹介がわりの手書きペーパーもたくさんの方がお持ち帰り下さり、 うれしいです。 改めての御礼と、今月8月の更新の、お知らせをさせて下さい。

毒を食らわば川上未映子、そして光 『すべて真夜中の恋人たち』

ストーリーを言ってもネタバレにはならないかもしれない。でも言いたくない。 ストーリーじゃなく何も言いたくない。先入観なしに、が、きっと、ぜったい、いい。 あ、珍しくぜったいなんて言葉を使った。使ったし、使いたい。 川上未映子、『すべて真夜中の恋人たち』という作品を読んでの気持ちです。 すこし、セリフを引用してもいいですか? 「何かにたいして感情が動いた気がしても、 それってほんとうに自分が思っていることなのかどうかが、 自分でもよくわからないのよ。 いつか誰かが書き記し

私はここに居る、釈迦はここに居る 『ハンチバック』

容れものと中身、身体と気持ち、 両のバランスがうまくとれている人って、世の中にどれくらいいるんだろう。 誰しもがいつもどちらかに傾いたりバランスをとれずにいたりするのではないか。 そのズレ故に自分自身や他者とのもやもやや苛々、摩擦や不調を感じているのではないか。 話題の芥川賞受賞作『ハンチバック』を読みました。 主人公は自由に(という言葉の意味もよく考えたらわからないけれど)体を動かすことが出来ない。 それこそ本屋にも行けないし、紙の本を読むたびに体が押し曲がるようだと言う

ファンタジーとおにぎり

きのう夕方のこと、 出先の近鉄電車の駅構内にあるファミマに寄ったらこんな声がきこえてきた。 「運動後の水分補給に一番ふさわしい飲み物は?」 カーン、ピンポーン。早押しボタンを押して答えるクイズかなんか? でも、答えめっちゃむずかしない?! 振り向いたら私学の中学か高校だか、いや、中学生やろなあ。 運動部(なにかはわからんかったが)の男の子たち3人が喋っていた。 そのうち1人が手にとったのは紅茶花伝で もう1人が手にとったのはリポビタンDだった。 「おまえ、それありえへんって

すべてほんとう 『散り花』

生き様。 今では誰もが結構気軽に使うけどきっと意味としては重いであろうこの言葉を浸透させたのは(一説によると)プロレス中継の際の古舘伊知郎らしい。 と、聞いたか読んだかしたけれど、定かではない。 でももっともらしいな、と思ったりもする。 なんだかもうほんとに浸透しすぎている言葉じゃないですか。 わかるようでわからなく、わからないようでわかるような気がする言葉じゃないですか。 なんてことを思い出したのは、 プロレスを描いて(正確には闘魂三銃士(だけじゃないけど)を描いて) 第1

LADIES!! AND GENTLEMEN!/『ついでにジェントルメン』

うれしい本を読みました。 タイトルは『ついでにジェントルメン』、 大ファンである柚木麻子さんの新刊です。 ここ数年、ドはまりしている作家さんなのです。 コロナが始まったくらいに偶然読んだ『ナイルパーチの女子会』で「!!」、 過去作からほぼすべてを集めて読み、 文芸誌に掲載された新作もすべて追って、 友人たちに薦めまくり、薦めた友人もドはまり(笑) 待望の新刊は、なんだか、本当に、いろいろ、うれしかった。 読みながらずっと、うん、うんうん、頷き、笑い、時にほろり、 わくわく

出会いについて、と、柚木さんの伝えたいこと(たぶん)~『幹事のアッコちゃん』~

大人の女の子は魔法のコンパクトで変身なんて出来ないけれど 素敵な出会いは「私」を変える― ランチのアッコちゃんシリーズの第3弾、 『幹事のアッコちゃん』が出ていることを今更知り、読みました。 コロナの渦中だったのもあり、元気をもろて、ちょっと泣きました。 うん、出会いは人生を変えるんだ。 柚木麻子さんの『ランチのアッコちゃん』シリーズは ドラマ化もされた人気シリーズです。 正直でまっすぐだけれどさえない派遣女子の三智子ちゃんが 元は上司、その後、移動販売の店「東京ポトフ&ス

言葉は世界を変えられる、フィーリング・タイミング・ハプニング~『本日は、お日柄もよく』~

言葉は、時として世の中を変える力を持つ。 自分は政治家や宗教家にはなれないだろう。 けれど、スピーチを書くことは出来る。 いつの日か、人の心を動かし世界を変えるスピーチを書く。 ――今読めて!良かった!  原田マハ『本日は、お日柄もよく』を一気読みしました。 初マハです。 なぜか縁がなかった。 書店で欲しい本を買うついでに平積みされていたので手に取りました。 結果、目当ての本より面白かった! わくわく読んで、 読みながら、彼女のSNSをしっかりフォローして、 読後チャリ飛ば