『落研ファイブっ』第二ピリオド(10-2)「しこしこさんとオタ活夫婦」
「それにしたって何でこんなものを。恥ずかしくはないのか」
『ざるうどんしこしこ@日吉大経済卒』こと仏像の父の手になる怪文書をのぞき込んだ母親に、シャモは激しく頭を横に振る。
〔シ〕「俺が開いた訳じゃねえ。たまたま表示されっぱなしになってたのよ。それに母ちゃんにしたって、父ちゃんに『キリ番リクエスト』をしたのが腐れ縁の始まりでしょ」
『キリ番』なる単語を知らない世代のシャモは、両親のなれそめのせいで『キリ番』や『隠しページ』に『MIDI』などの無駄知識が豊富である。
〔シャモ父〕「懐かしいなあ。一万ビューのキリ番を踏んだのが母ちゃんでさ。『策権ほのぼの兄弟日常(notBL)』ってリクエストだったんだよな」
〔シ〕「ちょっと言ってることが良く分からない。とにかく、父ちゃんは書き手で母ちゃんが絵師。三国志の二次創作中堅サークルにのし上がった二人はめでたく華燭の典を挙げ、一粒種の漢太君をこしらえたと」
父からまいう棒を受け取ったシャモは、『無職輪廻――外資系スーパーエリートリーマン(以下略)』に目を通した。
〔シャモ父〕「この前政木君のお父さんと呼ぶべきか、しこしこさんと呼ぶべきか。とにかく彼と話をしていたら、その怪文書に星を三つつけてくれって言われてさ」
〔シ〕「まだつけないの」
〔シャモ父〕「物書きのはしくれとしては、全文読んでからでないと評価はしない主義」
シャモの父はまいう棒とずんだ棒の残りを冷凍庫にしまうと、シャモの代わりにパソコンの前に座った。
〔シャモ母〕「それにしても、この作品あたしも読んだが――」
〔シャモ父〕「実話だよな。母さん」
二人は深刻そうにうなずいた。
〔シ〕「じゃ、仏像の父ちゃんの『ロングバケーション』って言うのは」
〔シャモ母〕「リストラされたんだろ」
〔シャモ父〕「名前で検索したらすごい経歴だったけど、しこしこさんが外資系投資会社のCIO(最高投資責任者)だった頃に大へまをやらかしたらしい」
〔シャモ母〕「その相手方がよりにもよって」
仏像の父が『やらかした』案件の記事をシャモ母が見せると、シャモは頭を抱えてパソコンの前にうずくまった。
【敵対的TOBのmbo戦略に大誤算。風雲児H&Tキャピタルマネジメントに膝を屈した名門企業】
〔シャモ〕「仏像のオヤジが餌のオヤジに出し抜かれて失脚、とな」
仏像の父が『やらかした』案件の検索結果をシャモ母が見せると、シャモは頭を抱えてパソコンの前にうずくまった。
〔シャモ母〕「そもそもあんたが『みのちゃんねる』で時事メタル漫談をやるって言い出したんだろ。それをめっきり情報感度が低くなってまあ」
〔シャモ父〕「『新香町美濃屋』の宣伝なんだから、今のスタイルの方がこっちは助かるが」
〔シ〕「そう言えば餌の様子がおかしかったんだよ。いつもなら行くはずの寄席を、用事があるからって連続で蹴ったし。財布も時計も急に高そうなのをつけ始めて。しまいにはパパ活疑惑まで飛び出す始末でさ」
シャモはロレックスの腕時計をちらりと見る餌の姿を思い起こす。
〔シ〕「二学期から入る予定の一年生も早速問題を起こしてやがるし。その上に、落研を引き継ぐ餌と仏像にそんな遺恨が出来るなんて。俺安心して引退できないじゃん」
シャモはサイト登録すると、父親の代わりにざるうどんしこしこの怪文書に星三つを付けた。
これで【無職輪廻――外資系スーパーエリートリーマンだった俺は強制無職リセットされ、スキルゼロからダンジョン配信で成り上がり悪役令嬢と婚約してざまあしようと思ったら――】は毎日更新十日目にして星三桁の大台である。
〔シャモ母〕「いずれ互いが知る事にはなるだろうが。あんたは黙っとき。飛んで火にいる何とやらになりたくないならな」
シャモは無言でうなずくと、力なく立ち上がった。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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