『落研ファイブっ』第二ピリオド(17)「大好きすぎて、夏」
仏像と交錯したままぴくりとも動かない井原れんに、大声でエールを送っていた仏像の父とピーマン研究会も声を失っている。
仏像の腹の上に崩れ落ちたれんは、みぞおちを強かに打って息が詰まったらしい。
一瞬の静寂の後、体をかすかに動かして大丈夫と告げようとしたれん。
彼女は自分がどこにいるのかを確認し、今度こそ気を失った。
〔仏〕「れんさん、しっかりしてっ」
漫画のごとく鼻血を吹いて倒れたれんを、仏像はさっと抱え起こした。
〔大〕「その手をすぐに放すんだゴー君!」
〔うい〕「ゴー君、れんちゃんからすぐに離れてるら。ゴー君萌えが限界突破して、れんちゃんの頭が沸騰したのら」
〔仏〕「あ、そうだった。マズイ」
仏像はれんの身柄をういと大和に託してれんから距離を置く。
〔仏〕「あの短時間でどれだけ鼻血を吹いたんだあの人」
仏像は鼻血まみれのうどん粉病Tシャツを脱ぎ捨てた。
※※※
けが人一名(鼻血)を相手方に出して試合を三対一で終えた『落研ファイブっ』。
次なる対戦相手は――。
〔キ〕「お久じぶりでずう。もう少じ涼じげれば学童の子達も連れで来だのでずが」
サンフルーツ広島ユースの優勝メンバーにインハイベスト八経験者を擁する、藤沢の学童保育施設のスタッフから成る『うさぎ軍団』。
サッカー部顧問の桂と同じマンションに住むキャプテンは、相変わらずほぼすべての話し言葉に濁点がついている。
〔多〕「あのキャプテンは相変わらずだね。ほら下野君、荒屋敷新監督がお目見えだぞ」
〔下〕「おおおおお」
下野は感極まった様子で桂の隣を歩く荒屋敷を見つめた。
まるで小柳屋御米を目の前にした三元のような感激ぶりである。
〔桂〕「こちらは一並高校サッカー部の監督に就任する元サッカー日本代表の荒屋敷悟さん。下野君は良く知っているよね」
〔下〕「はいっ」
直立不動で荒屋敷を見つめる下野を、荒屋敷は大福のような顔でにこにこと見やる。
〔荒〕「私はクラブ育ちで高校サッカーの現場は初めてでしてね。ビーチサッカーもついでに時々見てほしいと言われまして、どんなものかとやってきましたが」
こりゃ良いですねと荒屋敷はほがらかに笑った。
〔荒〕「小さな子供からお年寄りまで、言葉の通じない人同士だってボール一つで会話できる。それこそがサッカーがここまで世界的に人気になった理由だと思うんです。
ビーチサッカーは人数が少なくても、スパイクが無くても出来る。サッカーの素朴な良さがぎゅっと詰まっていますねえ。お相撲さんやおじいさんの強豪チームもいるだなんて。楽しいなあ」
とても元海外組のスター選手だとは想像もつかない、大きな横っ腹をさすりながらのんびりしゃべる荒屋敷の目が、再び下野をとらえる。
〔荒〕「下野広小路君。腐らずサッカーを続けてくれて安心したよ。二学期から君とサッカーが出来るなんて、僕はとっても幸せ者だよ」
下野は、目に涙を浮かべて感激のあまり震えながら無言でうなずいた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
https://note.com/momochikakeru/n/nd9eca65e79c5
この記事がちょっとでも気になった方はぜひ♡いいねボタンを押してください!noteアカウントをお持ちでなくても押せます。
いつも応援ありがとうございます!
よろしければサポートをお願いいたします。主に取材費用として大切に使わせていただきます!