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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

春分
桜始開 ~さくら、はじめてひらく~  十一皿目~


全国各地から開花の便りが届くころ。
ぽかぽかと暖かさを感じる日も増え、いよいよ本格的な春の到来。
桜の花が芽吹き、咲き始めるのをこんなにも日本中が待ち焦がれる時期はないであろう。

春は、一気に目に触れる「色」が今までの冬色から彩りをあたえてくれる季節でもある。
日本の美しい色を表現する言葉は、その情景が感じられ想像力を掻きたてられる。

色彩辞典などを調べてみると、伝統的な色を表現する無数の美しい言葉に心躍る。

木の枝から小さな葉が芽吹き出す頃は
きっと『萌黄(もえぎ)』だろう。

春の頃、木々が萌え出す時期の強い黄緑色。「萌木」とも表記されるそうだ。

それから幾分、春のふくよかさを満たしてきた見えない空気の色は
『裏葉柳(うらばやなぎ)』と妄想してみる。

柳の葉の裏のようなごく薄い黄みの緑色。
「裏柳(うらやなぎ)」「裏葉色(うらばいろ)」ともいうようだ。

桜がまだ蕾のほころんでくる直前の色は
きっと『撫子色(なでしこいろ)』。

撫子(なでしこ)の花のような明るいピンクでピンク系の中では少し紫みのある色。
撫子は万葉集にも登場する花で、色名としての歴史も長く、また平安時代の「襲(かさね)の色目」として女房装束の衣として用いられた色としても有名だ。

そしていよいよ花びらが開いてくるこの頃は
『桜色(さくらいろ)』。

文字通り、桜の花のようなごく薄い紫みの赤のこと。
紅染めの最も淡い色でもあり、
ほんのり赤みを帯びた顔や肌などを表現するときにも使われる色。
比喩される言葉の中でもどうしても純粋無垢な乙女が、勝手に浮かんでくる。

開いた桜の花びらは限りなく白に近い淡い色だが、背景を織り成す撫子色とのコントラストでやわらかなピンクのグラデーションが交わる。
遠目で見た時の桜の木々の感動的な色はそのおかげかもしれない。

日本人はなぜこんなにも桜を愛でるのか。

仏教には「無常観」という言葉がある。
この世界のありとあらゆる存在は変化し、移り変わってゆくものであり
儚さも生じるものである。

桜の花がいずれは散りゆく情景に、
日本人の繊細な感受性に「桜」という花の移ろう様を、それぞれの想いにのせて馳せているのであるまいか。

暦などない時代、桜が咲くころの指針で田植えをし、農作物を育てている先祖。
桜が季節の目印とされていた。
散りゆく儚い面もあるけどれ、緑豊かな生き生きとした活力に満ちた頃も感じられる桜。

そんな桜を愛おしく想い、愛でるこの季節が一番好きだ。

永く受け継がれている
この色とりどりの日本の美意識をしみじみ想い、
咲き誇る河川敷を散歩しに繰り出してみよう。



『三色団子』約6本分

材料:上新粉 170g 白玉粉 30g グラニュー糖 40g 水 200㏄ 
   よもぎパウダー 2g 紅麹パウダー 1.5g 

作り方

・よもぎパウダー熱湯10ml(分量外)を入れてふやかしおく

・ボウルに白玉粉入れて水を少しずつ入れて溶きのばしていく

・別のボウルに上新粉とグラニュー糖を入れておき、溶かした白玉粉を加えていく

・生地を三等分にし、ひとつにはよもぎを入れ、もうひとつには紅麹パウダーを加え、それぞれ色がきれいに均一になるように練っていく

・白、緑、赤の三色にできあがったら、生地を約12gずつに丸める

・沸騰したお湯に入れ茹でていく

・上に浮いてきたら引き上げて冷水につけておく

・三色に串にさす

餅米: 食味/甘  食性/温  帰経/脾・胃・肺(上新粉と白玉粉は餅米が原料)
砂糖: 食味/甘  食性/涼  帰経/脾・胃・肺
紅麹: 食味/甘  食性/温  帰経/脾・胃・肝・大腸
よもぎ:食味/苦 辛  食性/寒  帰経/肝・脾・腎

●食味:酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味([かんみ]塩からい味)を五つに分けたもの(五味ともいう)
●食性:熱性・温性・平性・涼性・寒性と食物の性質を五つに分類したもの(五性ともいう)
●帰経:生薬や食材が身体のどの部分に影響があるかを示したもの。ここでいう五臓は「肝・心・脾・肺・腎」の事だが、単に臓器の働きにとどまらず精神的な要素も含まれ、ひとつひとつの意味は広義にわたる。

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