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「抱っこして5分間歩いて座って待つ」理研の寝かしつけの科学で報道されないこと<前編>

2022年9月14日に理化学研究所(以下、理研)が発表した赤ちゃんの寝かしつけに関する研究について、睡眠コンサルタントの視点から2回に分けて書きます。
今回は前編です。後編についてはこちらをご覧ください。

■ 赤ちゃんの睡眠の研究について

この研究結果をご覧になったとき、みなさんはどう思いましたか?
経験上、抱っこして歩けば赤ちゃんが寝ることを知っている方にとっては「なんだ」という感じだったでしょうか。
一方で、なかなか寝ない赤ちゃんがいるご家庭にとっては朗報だったかもしれません。

私自身は前者で、目新しいことはないなというのが正直な印象です。
でも、知っていただきたいことがあります。
睡眠というのは文化や習慣によって異なることもあるので、日本で研究をしたことに意義があるということです。
(この研究は日本とイタリアで行われているので、日本だけではないのですが。。。)
赤ちゃんの睡眠研究は世界的に見ても数は少なく、日本での研究となると本当に数が限られているというのが現状です。

もっとママやパパに赤ちゃんのねんねについて正しい知識を知ってもらうためにも、日本での赤ちゃんの睡眠研究が増えてほしいと個人的に願っています。

■ 抱っこで5分歩けばみんな寝てくれるの?

今回の研究結果はおうちで再現できるのでしょうか。
そして、赤ちゃんは絶対に寝てくれるのでしょうか。

1.今回の研究結果の概要

まずは、今回の研究結果について簡単に確認してみましょう。

「赤ちゃんが泣いているときには、抱っこしてできるだけ一定のペースで5分間歩き、その後赤ちゃんが寝ついてもそのままベッドに置くのではなく、抱っこしたまま座って5~8分程度待ってからベッドに置くと、赤ちゃんが起きずにさらに深く眠れる可能性が高いことが分かりました。」

理化学研究所プレスリリース(2022年9月14日発表)より

ポイントは、赤ちゃんが泣いているときに落ち着かせ、いわゆる背中スイッチを押すことなくベッドに寝かせるためには、以下の手順を行うと良いそうです。
 ①抱っこして一定のペースで5分間歩く
 ②抱っこしたまま座って5~8分待つ
 ③ベッドに赤ちゃんを置く
(頭からお尻にかけて順番に)

2.被験者と環境

研究では被験者を知ることも重要です。
今回は健康な0~7ヵ月の赤ちゃん21人(女児10人、男児11人)と生物学上の母親が参加しています。

つまり、この方法で効果を発揮するのはだいたい生後0ヵ月~7ヵ月までの赤ちゃんということになります。
高月齢の赤ちゃんについては、今回の研究ではわからないですね。

次に、研究が行われた環境について確認しましょう。
環境は結果を左右することもあるので、研究結果を再現するには環境を明確にすることも重要です。

今回は母親の希望で32のセッションのうち17セッションは被験者の家で行い、残りの15セッションは研究所で行われています。
なお、各セッションにおける睡眠環境を含む睡眠の土台が整っているのかは不明です。
(遮光されているのか?室温は?ねんねルーティンは?など)

また、測定のために赤ちゃんに機器をつけているので、赤ちゃんにとっては確実にいつもとは違う環境、かつ、みなさんが再現できない環境で寝かせられています。

3.結論 ~寝てくれるとは限らない!~

以上の観点から研究で証明されたからといって、お子さまを抱っこして5分間歩いて座って待っても、確実に泣きやんで寝てくれるとは限りません。
(当たり前と言えば当たり前ですが、、、)

では、この研究は机上の空論なのでしょうか。
もちろんそんなことはなく、数値化して証明したことに意義があると思います。
日経新聞によれば「今後、乳児の心拍から睡眠の様子を分析して育児をサポートできるウエアラブル端末を用いたアプリを企業と共同開発したいとしている。」ということなので、実践への応用については今後に期待という感じでしょうか。

また、科学全般に言えることですが、研究で証明されたことは正しくてもそれが自分に合うかは別の話です。
私自身も睡眠コンサルタントして科学的根拠に基づいてアドバイスを行っていますが、科学を押し付けても効果がでるとは限りません。

この方法を試したいのか、この方法を周りの方におすすめしたいのか、後編で紹介する「報道されないけど知ってほしいこと」を読んで考えてみてください。

■ 報道されないけど知ってほしいこと

こちらについては後編でお伝えします。


今日のぐっすりねんねポイント<前編>
 研究で証明されたことは正しいですが、それが自分に合うとは限りません。


参考文献

 『ママと赤ちゃんのぐっすり本』 愛波 文 著
 Nami Ohmura, Lana Okuma, Anna Truzzi, Kazutaka Shinozuka, Atsuko Saito, Susumu Yokota, Andrea Bizzego, Eri Miyazawa, Masaki Shimizu, Gianluca Esposito, Kumi O. Kuroda, "A method to soothe and promote sleep in crying infants utilizing the Transport Response", Current Biology, 10.1016/j.cub.2022.08.041
 理化学研究所プレスリリース「赤ちゃんの泣きやみと寝かしつけの科学」(2022年9月14日発表)
 日本経済新聞「『抱っこ歩き5分』で赤ちゃん寝付きやすく 理研など」(2022年9月14日電子版)


  • 赤ちゃん及び保育者(ママ、パパ)に関して不安や心配がある場合は、医師等の専門家に相談しましょう。

  • 本記事の内容については注意を払って記載していますが、アドバイスを実行する際は読者の方の判断で行ってください。

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