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蜂蜜(はちみつ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

蜂蜜はちみつ
一名 百花精ひやくくわせい 百花蕊ひやくくわずい

およそみつかもするところ諸国しよこくみなありなかにも 紀州きしう熊野くまの第一だいいちとす。蓺州げいしう これぐ。そのほか勢州せいしう州、州、せき州、筑前ちくぜん伊豫いよ丹波たんば丹後たんご出雲いづもなどに むかしよりいだせり。また舶来はくらいみつあり。下品げひんなり。これ砂糖さとう、又、しろ砂糖さとうにてせいす。これこゝろみ和産わさんものせんずれば、はちおのづからあつま舶来はくらいものあつまることなく、これをもつてる。

※ 「紀州きしう」は、紀伊国きいのくに
※ 「蓺州げいしう」は、安芸国あきのくに
※ 「勢州せいしう」は、伊勢国いせのくに
※ 「州」は、尾張国おわりのくに
※ 「州」は、土佐国とさのくに
※ 「せき州」は、石見国いわみのくに

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

みつは、夏月なつ 蜂□はちのすうちたくはへて、おの冬籠ふゆこもり りの 食物しよくもつ とせんがためなり。一種いつしゆ人家じんか自然しぜんむすび、そのなかたくはふもの山蜜やまみつ といふ。また大樹たいじゆ洞中だうちうむすたくはふを 木蜜きみつといふ。以上いじやう熊野くまのにては山蜜といひて 上品じやうひん とす。

又、巖石間中いはほのうちたくはふもの石蜜せきみつと云。又、いへかうみつは、毎年まひねんゆへ氣味きみうすく、これ家蜜かみつといふ。炎天ゑんてんかわかし、したうつは [羊+水] けて、ながるゝものを たれみつといひて 上品じやうひん なり。漢名かんめう 生蜜せうみつ一法いつはうをけれてもつきてとるなり。但し、火氣くわき文武ぶんぶ毫厘がうりあいだうかゞふこと大事だいじあり)。

又、ついやし、はちともに研水すりみづせんじてしぼとるしぼり といふ(漢名 熟蜜)。およそみつさだまいろなし。みな 方角はうかくはなせいによりて数色すしよくへんず。

※ □は、月+日+斗という漢字のように見えます。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]


畜家蜂いへにやしのふはち
漢名 花賊くはぞく 蜜宦みつくはん 王腰奴わうようと 花媒くはばい

いへやしなはんとほつすれば、まづ をけにてもはこにてもつくり、そのなかさけ砂糖水さとうみづなどをそゞぎ、ふたあなおゝくあけて、大樹たいじゆ洞中どうちうむすびしかたはらおけば、はち おのづからそのなかうつるをもちかへりて、ふたあらためて簷端のき、或は、牗下まと懸寘かけおくなり。

※ 「簷端のき」は、軒端のきばのこと。簷端えんたん
※ 「牗下まと」の「牗」という漢字は、壁に穴をあけ、格子をとりつけた窓という意味。訓読み まど、みちび(く)。

この 箱桶はこおけおほきさに規矩きくあり。されども諸州しよしうひとしからず。まづ九州きうしうへん一家いつかはうくに、はこなれば九寸四方、たて弐尺九寸にして、これたてかくるなり。あるひは斜横なゝめよこ と  畜家やしなふいへかんがへ あり。

その はこのあるものを忌みて、かならず まつの古ぼくもちひ、これまたのこぎりのみにて、かんなけづることをむ。いたあつさ四歩斗、両方りやうはうみゝ䢫分ずいぶんかたくつくり、つよくなはをかけざれば、のちにははなはだおもくなりて、おのづからおちそんずることあり。うへした二枚にして、したの上に●●八りんよこ四寸斗の隙穴ひまあなを開きて、はち出入でいりくちとす。

もし 一二りんひろあくれば、山蜂やまばち ●●ひまよりうかゞひて、おほきに蜜蜂みつばち擾乱ぜうらんす。

又、大王のいづるにも、このあなよりして、およそちいさもの也。はこかずいへごとに三四をかぎりて、その隣家りんかのき往ゝところ/\かりやしなふ

※ 「規矩きく」は、規準とするもの、規則・手本など。
※ 「四寸斗」は、四寸ばかり。
※ 「山蜂やまばち」は、スズメバチのこと。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

造 □すをつくる
尋常よのつねの  つくりもの  のごとものにあらず。あなしたむかふことなく、たゞはこいつはゐにつくり、あなよこむかふて 人家じんかはといへごとし。

まづはこうちうへより半月はんげつのごときものつくりはじめ、ついした一はひ 両脇りやうわき ともみたしむ。その あつさ およそ 一寸八歩、あるひは、二寸ばかり両面りやうめん より六角ろくかくあな数多あまたひらき、柘榴ざくろまくて、あなふかさ 八九歩、かくのごときもの幾重いくえつくりて、そのとのあいだ●●●ひとゆびとをほどつゝひまあり。はちその ひまるは、したよりくゝるなり。全体ぜんたいしたまでみたさずあればなり。

かたちあるひは、正面せうめん、或は 横斜よこなゝめなどにて大抵たいていおなじ。その あなには子をみ、またみつたくはへ、又、食物しよくもつはなたくはふ。又、子成育せいいくしてとん出入でいりするにおよべば、その あとあなへも また みつたくはふ。およそみつ はじめは はなはだ あはしきつゆなり。はきんでれば、甘芳かんはう 日毎ひごとすゝむことまことに人のさけかもするにひとし。すでに、つゆあなみあつときは、その おもてとぢて、一滴いつてき一気いつきもらすことなく、はちかずおゝければ気味きみあつし。

はち
はちせうなり。おほきさ ばかり、マルハチに似て、黒色こくしよくおぶおほあつまりはなをとるものは、つくらず。

つくるものは、はならず。時ゝとき/\入替いりかわりて その やくをあらたむ。それなかに、蜂王だいわうといひておほきなるはち一ツひとつあり。そのわう居所いどころは、くろはちした一臺いつたいをかまふ。これを うてな といふ。

その わうは、世ゝよゝつぎわうとなりて、もとよりはなることなく、毎日まいにち 群蜂ぐんほう 輪値か●りはんはなりてわうくうす。これ一桶ひとおけ一介ひとつのみなるにむこと、雌雄しゆうあるものおな道理どうりにおいては 希異きいなり。群蜂ぐんはうこれ従侍じうじすること、まこと玉體ぎよくたいむかふがごとし。

また黒蜂くろはちばかりありて、これ細工さいくにん孔口あなくちを守りて、衆蜂しうはう出入でいりあらため、もし はなたずして あならんとするものあれば、その 懈怠けだいせめて、あへることをゆるさず。もし再三さいさんおこたものつゐさしころして軍令ぐんれいを行なふにことならず。およそいへにあるも にあることにおゐては同じ。

※ 「マルハチ」は、マルハナバチのことでしょうか。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

頒 □すわかれ
大王だいわう成育せいいくいたればんであないづるに、群蜂ぐんはうなかばしたがふて、あたか天子てんし行幸みゆきのごとく 擁衛ようゑい  はなはだ  嚴重げんぢうなり。その 飛行とびゆくこと、大抵たいてい五間ごけんより十間じつけんほどにして、えだ取附とりつけは、その そのはらかさなとゞまりて ゑだわ●たれたるごとく、一團いちだんこり あつま り、大王だいわう そのなかたねのごとくつゝまる。

畜人やしなふひと 、是を●●ふくろ群蜂ぐんはうの下に [羊+水] けて、はばきもてえだの下をはくがごとくにきりおとせば、一團いちだんのまゝにてその袋中たいちうへおつる。その おと いたつおもきがごとし(いまふくろかごにてつくりて 衆蜂しゆうはうもらさしむことなくては、はちしすること多し)。

これ用意ようゐはこうつやしなふを わかれといふて、人の分家するにひとし。もしその一團いちだんふくろおつるにはやとびはなものありて、大王だいわう従行じうぎやうれて、そのいたところらず。

またもとの巣すへとびかへときは、衆蜂しうはうあへあなることを不許うゆるさずあらそおこつて、これさしころし、その 不忠ふちうたゞすにたり。ひと慙愧ざんぎして歎涙かんるいながせり。

又、八ツさはぎ とて、ひる八つときには衆蜂しうはう不残のこさずおけそとあらはれて、やゝ羽根はねならすことあり。

三月ころはち分散ぶんさんするときかのわう一群いちぐんごとのなかかならず一ツあり。巣中すちうわう三ツある時は、群飛ぐんひみつにわかる。そのとき やしなふ人、みずそゝぎて、その つばさ湿うるほせば、はちほか分散ぶんさんせず。みな もと器中きちうかへゆへに、年ゝとし/\やしなふといへり。


割 □ 取蜜すをきりてみつをとる
これるには、蕎麦そばはなしぼときを十ぶん甘芳かんはう成熟せいじゆく とす。らんとほつするときは、まづ ふたをホト/\たゝけば、はち みなうしろうつるそのときの三分の二をきりとり、三分が一をのこせば、ふたゝび  そのおぎなひもとのごとし。かくとること幾度いくたびといふことなし。ふゆいたれ ともにせんじてし●りみつとす。

一種いつしゆ 土蜂つちはちいうて、おゝきさ五分ばかりつちふか穿うがちその なかむすぶ。これにもみつあり。南部なんぶこれをテツチスガリといふ。但し、スガリは はち古訓こくんなり。

古今集こきんしう離別りべつ
 すがるなくあき萩原はぎはらあさたちて
    たびゆくひとをいつとかまたん

また深山みやま崖石がいせき じやう自然しぜんのもの数歳すさいて、●●に じゆく する物あれば、土人どじんなが竿さほをもつてさしみつながる。あるひは、としざるものも板縁ふちの●●●●。およそ はこやしなふものしぼり、みつともに二十きん(百六十目一斤)、蜜蝋みつらう二斤をるなり。此 二きんのあたひをもつ桶箱おけはこ修造しゆざう費用ひようあて れりとす。



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