【木曜日】　ズクズクのトラウマ

　一週間で一番しんどいのって、何曜日ですか。
　私は木曜日です。今日です。
　というわけで、本日の木曜日スコアを計算します。

１．寝起き

　さむい、ねむい、だるい。マイナス２０ポイント。ちなみにここがプラスになるのは、年に５日くらい。
　寝起きからハイな娘の蹴りを何度もくらって痛かったけど、ご褒美なのでむしろプラス１０。

２．夕飯の支度

　１品目。だるいので冷凍の調理済み魚。冷凍室から冷蔵室にドーン。調理時間１秒。最高。プラス３。
　２品目。だるいけど冷蔵庫を片していきたいので、きのこ豆腐あんかけを作る。フライパンに舞茸どーん、えのきもどーん。水に浸したシイタケはレンジでちーん。きのこが汗かいて、きのこ臭を放つ。頭からっぽにして、無の心で醤油とめんつゆを入れて、記憶を消す。シイタケと戻し汁をジャーっと追加。にんにくチューブ、ビュッ。ウェイパー、ポイッ。ウスターソースもちょびっと追加。はいそして豆腐様ご入場〜。はい押し合わないで〜、潰れないで〜。テンション下がるから潰れないで〜。残った戻し汁に片栗粉溶いて、フライパンにじゃぼーん。完成〜。スムーズに出来たのでプラス５００ポイント。
　さて、肝心の味見。…ええ感じやーん。これはもう、夫に褒められちゃうな。間違いない。勝確。汁も、昨晩作った、溶け残りたくさん☆生姜ぶっこみ☆粕汁やから、それも含めて褒められちゃうな。はい最高。プラス１０００。

　ちなみに、なぜこれでここまで点数が伸びるかというと、つい先日のトラウマがあるから。

＊

　その日は、張り切って娘の離乳食の仕込みをしていた。
　そしたら結構時間が掛かっちゃって、その間ずっと娘はテレビの前で『おかあさんといっしょ』にかぶりつき。
　やばい。ごめんよ娘〜。
　と思いながら、でも野菜室を軽くしたかったので、オムキャベツみたいな何かを作ることに。おらおらおらっと中身を作って、あとは外に巻く卵を作るのみ。卵はさすがに夕方やればいいんでない？と一瞬ためらうも、「夕方また台所立つのメンドイよハニー」と花輪くんの声が聞こえたので、作りきることにする。

　ほら、卵焼きってさ、水加えるとふっくらするやん？しますやん？するねん。だから、おらおらおらっの勢いで、急いで水を入れたわけ。そしたら入れ過ぎたの。水に卵入れたっていうか、ただのオレンジジュースみたいなのが出来上がって、あーこれ新しいなー、見たことないなー、って思いながらフライパンに入れたら、やっぱり見たことのない、びしょびしょのズクズクの黄色いもんが出来上がって、でも負けを認めたくないからしばらく粘ってたけど、ズクズクなもんはずっとズクズクで、観念して念仏唱えながらそれを捨てた。

　気を取り直して、新しい卵を取り出す。娘よ待ってろ。これを焼き終えたら、ママは君のもとに馳せ参じて、耳の匂いを嗅いで、お腹をさすって、おしりを撫でる。そしてテレビを消して、かくれんぼしよう。
　そんなことを考えながら２つ目の卵を割って、浄水を入れる。なぜか入れすぎる。あれ、おかしいな？デジャブ？私の時間、戻ってる？私たち、入れ替わってる？
　絶望しながらその黄色みずをフライパンに流し込む。ズクズク。再現性の確認、完了。見て小保方さん。私の黄色みず、再現性すごく高いよ。
　もう無理そうな気配はすでに漂っていたけれど、それでも、さっきよりもちょっとばかし水分が少ない気がするから、水分蒸発させちゃえばいけるかも…！と、まだ粘る私。永遠にズクズクしてる黄色。私、もしやずっとこのズクズクを作り続ける世界線に入っちゃったのかな。それともこれが、死ぬまでずっとズクズクを作り続ける呪いというやつなのかな。無理…。むりむりむり。何が一番無理って、私の身体は卵をあまり受け付けないという点。無理。せめてエビチリにしてお願い。

　そんなわけで、またもやズクズクにさよなら…しようかと思ったが、さすがに２個目で胸が痛むので、そのまま、スクランブルエッグのなり損ないを生成してタッパーに詰める。なんだろう、これ。処遇は後ほど考えよう。
　ああ。娘を待たせておきながら、ぐちゃぐちゃの卵しか作れなかった、この不甲斐なさ。どうにかリベンジして気持ちよく終わりたいが、３つめの卵にトライする気力は、もう私にはない。そこで私は、オムキャベツという目標を、いったん無かったことにした。目標は目標であって、義務ではない。そんなもんに拘ったって１円にもならない。さようなら。
　そうは言っても、キャベツがシナシナになっただけの何かでは、夫のテンションが上がらないことも、これまた自明。仕方ない。妥協点を模索し、私の行き着いた結論は、「ノンフライヤーに卵をぶっこんで勝手に温泉卵を作ってもらう」ことだった。シナシナのキャベツでも、温泉卵さえ添えときゃ何とかなる。アレは信頼出来る。iPS細胞くらい信頼できる。

　かくして私はノンフライヤーに卵を託し、心ゆくまで娘のほっぺを吸い、そして出来上がった卵をノンフライヤーから取り出し忘れた。

＊

　あの日に比べたら、今日は上出来。１０００ポイントで足りるかむしろ心配なくらい。

３．午前の活動

　最低限の洗濯物をし、ルンバとブラーバをかけて、あとはソファで涅槃像になりながら娘を眺め愛でる。
　娘ともっとアクティブに遊んであげたいとは思いつつ、午前は私の活動時間じゃないので仕方ない。it's not my time. いつもどおり。プラマイゼロ。
　テレビが『おかあさんといっしょ』ばかりだと娘がかぶりつきになってしまうので、ママも本当はエンドレスループの『おかあさんといっしょ』を見ていたかったけど、泣く泣く、仕方なく、ナイトスクープに変える。おばちゃんがオムライスを食べ続ける映像がつまらなかったのか、娘はぐずぐず。

４．昼ごはん

　昨日の深夜に沸き起こった、「カップ麺食べたい欲求」を、ようやくここで開放する。うまい。しょっぱい。身にならない。欲は満たせたけど栄養はないので、ここもプラマイゼロ。

５．午後の活動

　なんとここにきて、洗面所とトイレ掃除をしちゃうファインプレー。うちはこの２箇所、毎日はやらないのだけど、毎日やらないものって、やるタイミング逃しがちじゃないですか。なのに、一番だるい木曜日にやっちゃう私。プライスレス。プラス１０００ポイント。今回もトイレのお手拭きタオルを変えるのは忘れたけど、どうせ使ってないしそんなのいつもどおりなので、プラマイゼロ。
　そして娘の昼寝の寝かしつけも、早い時間にミッションコンプリートする。うれピヨ。プラス５００。
　と思ったら３０分後くらいに、配達のピンポンが鳴る。娘氏、泣く。呼び出し音を消し忘れた自分にイラつく。マイナス５００。
　外の風の音がうるさくて世紀末かよと思うものの、娘が２時間も寝てくれたうえに書き物が楽しかったので、プラス３００。

６．夕飯

　予想通り、きのこ豆腐あんかけは夫の好評をいただく。しかし粕汁は生姜が予想外だったようで、イマイチ。仕方ない。生姜は私も入れるつもりじゃなかったのに、右腕が勝手に入れたの。それ見ながら私も、何で入れるのかなー？普通の粕汁作ろうよー？って、思ってたよ。でも、私は美味しいと思うから。セーフ。セーフです。なのでプラス２００。
　解凍しておいた魚を出し忘れる。別に要らなさそうなので記憶から消す。プラマイゼロ。

７．結果

　しめて今日のスコアは、プラス２９９３。
　木曜なのに…！マイナスになっていないどころか、３０００近くもプラスしてる…！チョコパイ５個に相当する…！えらい…えらすぎる！
　この嬉しさとチョコパイで、明日の金曜を乗り切ります。

　みなさんも、魔の木曜日、お疲れ様でした。

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【連載】魔の木曜日｜坂 るいす｜note