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【小説】 立ちはだかる禁止


 学生の恋愛だからって、親が、社会が、二人の関係を引き裂いて良いわけがない。
 僕らは愛し合っている。例え、僕らが愛を交わすことのできる時間が、1日たったの1時間と決められていたとしても。僕らが迎えるのは、ハッピーエンドと決まっているのだから。

「弘樹。スマホばっかり見るのはやめなさい」
 夕飯後、母の叱責を背中で聞きながら、僕はこたつに潜り彼女とのやり取りに没頭する。

「このあいだのデート、楽しかったね」
「楽しんでもらえて良かったよ。…あの時のキス、覚えてる?」
「やだもう、弘樹くんったら。恥ずかしい」

 照れる彼女が可愛くて、僕は思わずニヤけてしまう。
 そう、先週僕はついに、彼女と初めてのキスをすることに成功したのだ。直前に、ネックレスをプレゼントしたのが功を奏したらしい。彼女はとても喜んでくれた。

 今度は何をあげよう。僕は舞い上がっていた。彼女と、キスの先に進みたい。あんなことやこんなことをしてみたい。彼女の恥じらう姿がもっと見たい。そんなことを考えだしたらドキドキが止まらなくて、つい、彼女への贈り物を物色してしまうのだった。

「弘樹!もう1時間になるわよ!いつまでやってんの!」

 母の叱責に、あーい、と適当に返事をして、購入ボタンをポチリと押す。ネックレスの次は、指輪だ。値段はネックレスの倍以上だったが、それでも、それが僕の愛情の大きさを証明するみたいで、僕はとても満足だった。彼女はいつだって僕の贈りものを喜んでくれた。この指輪も、きっと喜んでくれるに違いない。

「弘樹!」

 スマホの向こうに、母の鬼の形相があった。

「はいはい。分かってるよ。うっせーな」

 そう言ってスマホをポケットに入れ、2階の自室へ上がる。子どもの恋愛に対して、どうして大人たちはこうも厳しいのだろう。少しは信頼してくれたっていいじゃないか。子どもという身分は、本当に自由がない。

 僕は自分の部屋にたどり着くと、すぐにスマホを取り出し彼女との会話を再開した。
「そういえば今日、前髪切った?」
「そうなの、ほんの少しだけ。気づいてくれて嬉しい。弘樹くん、私のことよく見てくれてるんだね」
 そう言って照れ笑いをする彼女が、まるで、僕の座るベッドのすぐ隣にいるかのようだった。

「きみに指輪を買ったんだけど。受け取ってもらえないかな…?」
「えっ、うそ、私に?高かったんじゃないの?」
「大したことないよ。きみに喜んで貰えるなら」
「ありがとう、嬉しい…!」
 彼女はとても喜んでくれているみたいだった。
 ああ、触れたい。彼女の柔らかな髪と、すべすべの肌に、僕の全てをぶつけたい。

 僕の気持ちは、もう止まらなかった。
 スマホ画面で微笑む彼女を、激しくタップする。

 と、そのとき、階段下から母の声がした。
「弘樹ー!ゲームは1時間までだからね!ちゃんと約束、守りなさいよ!」

 うるさいな。僕はそんな約束、した覚えないんだよ。大人たちが勝手に言ってるだけだろ?ゲームは一日一時間まで?そんな馬鹿げた条例、いったいどこの誰が考えたんだ?

 今、ここが僕の勝負時だ。大人の作る禁止条例なんかに、僕の熱い想いは止められない。

「ちょっ…と、どうしたの?弘樹くん」
 彼女が胸を押さえて、困惑しながらも上気した顔で僕を見つめてくる。
 僕は無言で、猛然とタップを続ける。間違いない、僕は攻略サイトを読み尽くした。このあと、彼女は僕に身も心も預ける。僕らが迎えるのは、ハッピーエンドと決まってるんだ。

 彼女の顔がぐっと近くなり、そしてゆっくりと、ベッドに横に倒れていく。「ダメだよ…」と、上気し潤んだ瞳で僕を見つめる彼女。そう、これだ。僕が見たかった、彼女の表情。もっと、もっとその先を、僕に見せて。

 興奮で震える指で、彼女の胸元をタップする。ついに…ついに、そのときが来た。彼女と積み重ねてきた、これまでの日々の先に、僕にだけ見える景色――――。

「ここから先は、十八歳未満の閲覧を禁止します」

 彼女を覆い隠すように、テロップが表示された。
 「えっ、えっ」
 焦った僕が何度画面をタップしても、ゲームはそれ以上、うんともすんともいわない。

 僕は頭が真っ白になった。
 まさか。彼女と僕のストーリーは、ここで終わりだとでもいうのか?何のために…いったい何のために、毎日毎日、彼女の好感度を上げて、プレゼントのために、安くない課金を重ねてきたと思っているんだ。

「くそっ!何でもかんでも禁止しやがって!ふざけるな!ふざけるなーっ」
 行き場を失ったエネルギーが体の中で荒れ狂い、僕はスマホを壁に叩きつけた。

 ゴトン!

 下階から、「静かにしなさい!」と母の叫ぶ声が聞こえた。


(了)


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 この作品は、はつみさんに頂いたプロットを元に作成したものです。

 同一のプロットを、別の人が書いたらどうなるかという試みをしてみませんか、という話がもちあがり、手を挙げたのが私と鵠矢さん。

 書く人によって、重視するもの、表現、展開が違ってくるはずだから、それを浮き彫りにしてみましょうというワクワク企画。

 鵠矢さんは先に完成されたようです。

 こちら。
 この記事を投稿し終えたら、見比べに行こうかと思っております。そして苦労した点をおしゃべりしに行こうかと思っております。

 皆様も、ぜひ違いを検証してみてくださいね。
 考察なんかもウェルカムです。

 はつみさん、大切なプロットを提供していただきありがとうございました。プロットがなかなかモノにならない私としては、とても勉強になる企画でした。「思っていたものとちがーーう!」と思っても、どうか大目に見てくださいまし。

 鵠矢さん。YouTubeの履歴から、ギャルゲー実況動画だけ消し去りたいんですけど、どうしたらいいですか。


【追記】はつみさんの比較・分析記事がアップされました。面白いうえに勉強になるし、何より私と鵠矢さんがムチで優しくしばかれてるので、ご興味ある方はぜひ。


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【お二人の私的おすすめ記事】

 含蓄と世界の美しさのバランスが最高なのです。
 私はこのくらいの感じが一番好きです。 

 いますよね、クラスにこういうタイプ。そして私は面白くてつい絡んじゃうタイプ。


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いつもありがとうのかたも、はじめましてのかたも、お読みいただきありがとうございます。 数多の情報の中で、大切な時間を割いて読んでくださったこと、とてもとても嬉しいです。 あなたの今日が良い日でありますように!!

パプリカポーズが得意な娘
51
育児かけだしの主婦。「ちょっと変なもの」を見ると、ふっと心が緩む。そういうものが提供できたらいいな。とんでもなく振れ幅が大きいタイプなので、マガジンにてジャンル分けしています。みんなでポエム書いてみた」でだいすーけ賞いただきました。

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小説のみのマガジン。

コメント (6)
甘酸っぱいなー、と読んでて、18歳未満のとこで事情がわかって、めちゃ受けました!
はつみさんのプロットなんですねー。
面白い試みですね!
note上だとアイデアさえあれば、たくさんの人と色んなこと試せるのがいいですよね☺
あさきさん
青少年の香りですwwどうぞw
そうなんです、はつみさんのです。
ひー恐れ多い。いやでも、それぞれの趣味嗜好が出るのは、やっていて面白いです。
noteは個人企画も多くて飽きませんよね。
いつもありがとうございます。
鵠矢さんとはつみさんのとこを読んでから来ました!

あ~、こういうのもいいですね~
確かに甘酸っぱい!
「青春してる!」って感じがします。

最後はやっぱりそうなっちゃうんですねw
ヘイヨーさん
いらっしゃいませ!
ご訪問ありがとうございます。
鼻息荒い系の青春です笑
最後はこの落ちに向かって書いているので、みんなそうなります。笑
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