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和宮様御留 feat.花びら餅

本日は読書タイムの前に、
まま、お茶でも。

お正月らしいお菓子をご用意しましたよ。

「花びら餅」です。

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手前が “花びら餅 ”

古くから宮中の慶賀行事のお菓子として用いられ、
現在は、一般に新春を祝う
お正月ならではのお菓子となった花びら餅は、
薄く丸くのばした白いお餅にはさんだ
菱形の紅餅または紅色の味噌餡が
うっすらピンク色に透ける
とてもきれいなお菓子です。
甘く煮るかシロップ漬けにした
ゴボウがはさまっているのも特徴のひとつ。

はじめて食べます!ワーイ!

お餅がすごく柔らかい!すごいのびる!
気になるゴボウは、
きちんとゴボウを主張しつつも
全体の調和を乱すことなく上品にまとまり、
お餅の柔らかさとゴボウの
歯ごたえがおもしろくて、
あまじょっぱくておいしいです。私は好き♪

そして
何気に横に添えられている本。

実はこのお菓子つながりから、
今回ご紹介する本に決めました。
(どういうつながりかは後ほど)


有吉佐和子「和宮様御留」です。

かずのみやさまおとめ、と読みます。


黒船来航に伴う混乱期であった時代、
開国路線の幕府では、尊皇攘夷派
(天皇を尊び外国を退けようとする思想)
の力を殺ぎ、
失墜した幕府の権力を回復するため、
朝廷との歩みよりをはかる
「公武一和(合体)」
それには朝廷と将軍家との政略結婚が
不可欠と考えられ、
そこで持ちあがったのが、
皇妹和宮親子(ちかこ)内親王と
第14代将軍徳川家茂(いえもち)との縁組です。

歩みよりといえば綺麗に聞こえますが、
開国と攘夷とで真っ二つに割れているものが
結局は相容れようはずもないのは見えており、
本音は双方とも和宮を抱え込むことで
相手を押さえこみ、こちらの主張を
押し通すことが狙いです。

このそもそもの成り立ちや、
縁組がまとまるまでのごたごたが
醸し出す不穏な空気からか、
この御降嫁に関しては、
“和宮替え玉説”というものが
まことしやかに語られており、
本作は、この“替え玉説”をベースに
展開されていく時代小説です。

発端は、著者が
高田村の名主・新倉家ゆかりの人から聞いた

「増上寺のお墓に納まっているのは
    和宮様ではありません。
    御身代りに立ったのは私の大伯母でした。
    板橋本陣で入れかわったのです…」

という証言から。

“替え玉説”の根拠として語られるのは、

◎足が不自由であったという
京都時代の記録と矛盾する逸話が多数残っている。
◎また遺骸からは、
和宮の足に異常がないのに対し、左手首が発見されなかった。
肖像画はいずれも左手首を描いていないので、手首がなかった可能性は高いが、それでは京都でやったことになっている茶道の稽古もできないはずである。
◎和宮の遺骸の遺髪と、家茂の内棺に納められた遺髪が一致しない。           (以上、Wikipediaなどから抜粋)

などがあります。


本作で “ 替え玉 ” が発生する発端も、
本物の和宮が、
足が不自由であることをいちばんの理由に
降嫁を泣いて嫌がるので、
実母の観行院が娘かわいさと親心から
乳母・藤と共謀して独断で決行してしまいます。

選ばれたのは、
観行院の実家の公家・橋本家の
下働きであった少女・フキ。

和宮との共通点は、年齢と黒髪であることだけ。

この人選からだけでも、
自分たちの属する世界以外のもの、
ひいては関東に対する見方がよく伝わってきます。

正直、計画も相当ずさんで
行き当たりばったりであるうえに、
計画の責任者ともいうべき観行院自身に、
トラブルを乗り切る機転もありません。
ただただ和宮をまもりたい
気持ちからくる度胸だけです。

フキは道具にすぎず
ただいればいいだけなので、
どこまで事態が差し迫っても
何の説明もされません。


ある日突然
和宮のおわす御所へ召されたフキは、
観行院と藤の言われるがままに
人知れず宮の影のようにして付き従い、
御所の奥深くで生活することになります。

宮はもともと寝起きする部屋と、
謁見などする居間の二部屋から
出ることなく生活しており、
時おり外部の人間と謁見する場合でも
たいていは几帳(カーテンみたいなもの)越し、
対応は観行院がするので直答もなし。
よってその姿を見るのも声を聞くのも
ほとんど母と乳母の二人だけであるため、
なんと御所での生活は、
特に怪しまれることもなく乗りきれてしまいます。

しかしそれも、ただいるだけならの話。
ただ宮と生活をともにするだけで
読み書きや礼儀作法が身につくはずはありません。

そうなると、
身近にいる二人がフォローするより他になく、
必然的に、いちばん長く傍につくことになる
乳母の手腕にかかってきます。

完全に入れ替わったのちは、
本物の和宮と乳母・藤は寺へ行くことに
なっているため、
乳母の替え玉となるのは、
藤の実の妹・少進という人物。

この少進が、
たまたま藤に顔が似ていて、
かつたいへん有能なのです。

藤は世界じゅうで宮だけがかわいいので
そこからだけでも当然とはいえ、
フキをけっこうぞんざいに扱います。
しかし少進は、
まだ本物の宮が目の前にいる頃から
フキを宮として大切に扱ってくれます。

この少進がまた謎めいていておもしろい。

というのは、
それがやさしさからくるものか、
徹底されたプロ意識からくるものか
ちょっとわからないんですよね。

どちらかというと後者かなという感じが
しますが、それだけではちょっと説明の
つかないふるまいもあり、興味深い人物です。

一人で百人力くらいの頼もしさとはいえ、
観行院にとっても、フキにとっても、
頼みの綱は少進だけという心許なさ。

そんなふうにして
一年ほどの期間を過ごし、
輿入れの半年ほど前、
和宮の生まれ育った橋本家に里帰りと称して赴き、
その時そこで本格的に入れ替わるのですが、

その際本物の和宮たちが
橋本家での祝いの宴に出ている間、
別室で入れ替わりの待機をしている
フキと少進のところへ
藤がこっそり持ってきてくれるのが…

花びら餅なのです!
(やっと出てきた!(笑))

藤は

「道喜が献上したおあつあつえ。おあがり」

と、お盆に山盛り持ってきてくれます。

この時はお正月ではないので、
おめでたいお菓子としてなんですね。

つきたてのお餅だから “ おあつあつ ”の
ようです。

この名前のほうが美味しそう!

ちなみにふと、
「この道喜ってもしや…今でもあるんじゃないの?」
と思ってちょっと調べてみたら…

うっわ、
あるうぅ…

川端 道喜(かわばた どうき)というお店で
今もありました。
みちのぶ、じゃなくてまんま読み、
どうきでいいんですね。

今で創業500年くらいだそうなので、
この当時の時点でも300年くらいの
超老舗っすね…

少進も、

「流石に道喜や、おいしおすな」

と言ってるので、
この頃から老舗の有名店なんでしょうね。


このシーンは、
フキが替え玉としてあがってから
はじめてお腹いっぱい、
美味しいものを美味しく食べることのできた
最初で最後のときであるとともに、
作中唯一といっていいほど
ほのぼのとした場面です。


もう、非常にやるせないお話なので…


冒頭のフキの人となりがよくわかる
まぶしい夏の井戸端のシーンでさえも、
ラストの悲劇への伏線になっていたときの
絶望感がまた…


勘のいい方は、
お気づきになられたかもしれません。


京都ですでに入れ替わっているはずの
和宮なのに、新倉家の人が

「板橋本陣で入れ替わったのです」

と言ったことの矛盾に。


もう「ぅおぉお…」ってなりますけど、
本当におもしろいです。

興味があったらぜひ読んでみてください。


最後にもうひとつだけ!

本作の魅力は、作中の人物たちの
“ 御所ことば ” にもあります。

すごく伝染ります。
しばらく脳内御所ことばになります(笑)

たとえば…

“ お冷やのおずる ”って
何だと思いますか?

答えは “ そうめん ” です!

「嫌で泣いちゃった」
とかなら、

「お嫌さんでお泣り(むつかり)遊ばされた」
になるのです。

なんちゅう雅!なんちゅうはんなり!(笑)

あんまりこの御所ことばが
自分的におもしろくなってしまったすえに、
御所ことばの本を入手してしまうという…

ちょうどその頃に
「誕生日プレゼント何がいい?」
と聞かれたので、買ってもらいました(笑)

御所ことば中毒症状が出てしまった方には、
こちらの本⬇️もおすすめです!

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長くなってしまいました💦💦

読んでくださって、
まことにおめでとう忝うありがとう
存じ上げ奉ります。

ご機嫌よう


和宮様御留
有吉佐和子 / 講談社文庫

生活文化史選書「御所ことば」
井ノ口有一 / 堀井令以知 著 雄山閣

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