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レベッカと東京

新入社員の男の子に「早稲田の政経でたのに何でゼネコンの事務やってんの?」
「大学卒業して何かやりたい目標を持っている奴なんて殆どいないですよ〜」
「大手だと福利厚生と有給がしっかりして休みが取りやすいので、お金貯めて色々な場所に旅行に行くんです。」
「好きな事を仕事にすると嫌いになるし、仕事だけの人生は嫌じゃないですか?」

友達の子供が「僕、このまま大学にいてもやりたい事が見つからないからないし、何も価値を見出せないので学校を辞める。」と、告げて大学を中退してしまったけど1年経っても彼は仕事についていない。部屋の中で自分探しの旅を続けている。
考え方や行動の軸を少し変えるだけで、適度な波に乗れる筈なのに乗り方をどこで間違えるのだろう?

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レベッカは高校卒業後、地元で老舗の会社に事務で入社した。地元で就職するには公務員や銀行の次に悪くはない内容だ。実家から通っているのもあり、順調にいけば結構な貯金はできたと思う。家を出てイーニド1人の家に世話になっていたけど、彼女はお金を殆ど持っていなかった。憶測でしかないけど、働かない父と病気がちの母の為に家にお金を入れていたのかもしれない。まさかそこまで、お金がないとは知らず「気分転換に東京に出てバイトでもしてみたら?」の、私の気軽な発言により逃げる先を決めた。
「東京に出たいけど、お金がないから30万ほど貸して欲しい。」
私の勝手な見解だけど乙女座AB型は情に弱すぎる。恩に期待をしても何も帰ってこないのに熱く売ってしまい、しまいには失望して裏切られた気持ちになり傷つきダメージが大きい。乙女座AB型のイーニド1人は専業主婦だったが倹しく貯めていたお金を旦那さんにお願いしてレベッカに貸した。

クリエイター系の仕事についていた私は終電と朝帰りの日々だった。薄給は当たり前、生活に余裕なんかないので同じ学校を卒業した友達とルームシェアをして暮らしていた。田舎あるあるで都会、特に東京に住むと高収入で勝手にお金持ちになると勘違いしている。情報がまだTVしかない時代だったのでトレンディードラマのような暮らしになると錯覚していたのだと思う。トレンディードラマなんか見ていないと捻くれた奴らが、私が東京でトレンディードラマ並の生活をしていると勝手に期待して遊びにきた途端、勝手に失望するのはやめて欲しいと思った。その勘違いでレベッカは東京へ来たのだと思う。2021年の現在でも東京に対する田舎者の価値観は変化していないと思う。

私は東京に出てからの楽しい反面、悲しい関係は、双極性障害で病んで10分毎に切り替わる躁鬱状態を目の当たりにしたり、寂しさででカード破産に追い込まれ親に連れ戻されたり、私が転がり込んで面倒を見てくれたいた友達が車のスピードの出し過ぎで事故で亡くなったりと色々な出来事に遭遇していた。この年齢になって若かりし頃の悲しい過去を振り返るのは青春の日々と一言で終わらせたい。
レベッカは悲壮感漂わせてウチに転がり込んできた。来た日は親の件を話していたと思う程度の記憶しかない。印象は「思ったより元気だな。」なので、2〜3週間で帰るのかと思っていたら住み着いてしまった。こちらが忙しくしている中、急遽家を出たので着替えがないと買い物に出掛けた。百貨店のブランドの袋を両手に沢山抱えて帰ってきた。満面の笑みで洋服や小物を楽しそうに説明していた。ホラー映画を見たような気分になった。あれだけ泣いて悲しんで助けを求めて、イーニド1人が旦那に頭を下げてお金を借りたのに、彼女の気楽さを不思議に感じた。勿論、一か月ぐらいで「お金がないので貸して欲しい。」と言われた。残念だけど薄給の私には貸すお金はない。そのうち、私の周りの友達から同情心を煽りお金を借りるようになってしまった。アルバイトすらしないので、イラついていた私に察したのか三越の派遣の仕事に就いた。そこで借金を返すのかと思ったら、また百貨店のブランドの袋を何度となく提げて帰ってくる。借金をなぜ返さないのかと問い詰めると泣き出し言い訳しか帰ってこない。この手のタイプは論点のすり替えと号泣のドラマクイーンは常套句だ。

借金を踏み倒し逃げ回る人は今でも理解できないし共感もできない。
当人に聞いても思考を捨てて逃げる事しかしていないので、何も答えは出てこない。お金を返せないのなら借りた人のお金を稼いだ時間だけでも返すべき。フーン・・・無理だけど。

そのうち同情も共感もしない私と一緒に暮らしている事が苦痛になったのか、銀行からお金を借りたらしく他の住まいを決め、誰にもお金を返さず家を出て以降、電話連絡も住所も分からず行方不明になった。

ルームシェアしていた友達も皆結婚して部屋を出たり生活が変わり、私も会社から独立してフリーランスになり、妹が不倫でひと騒動起きたりしたので(私が相手の親から息子を返して欲しいと懇願されひたすら謝る謎案件)当時、住んでいた三軒茶屋内で引越しをしたのでたまたま電話番号が変わる事がなかった。レベッカが家を出て3年くらいは経っていたと思う。レベッカから電話がかかって来た。相変わらずか彼女の声は暗かった。そりゃーそうだ彼女はドラマクイーンだもの。平静を装い「元気だった?」とかしか聞かない「何をしているの?大丈夫?」なんて声を掛けたら罠にかかるようなものだ。「会えない?」と聞かれたような気がする。仕事が忙しいので断ったような気がする。会うことを断ってまた電話すると話したような気がする。平静を装っていただけなので脳内は大パニックだ。地元で平和に結婚生活を送っていたもう一人のレベッカと連絡を取った。「絶対にお金を貸してはダメだよ!」と言われた。そしてレベッカに深く相談に乗っていた年上の友達にも連絡をした。年上の友達はどの様な経緯か思い出せないけど、連絡先は教えていたらしい。その年上の彼女のところにもレベッカは連絡を入れていた。
「相談したい事があるので会って下さい。」

年上の友達の旦那さんは、バブル時に会社を立ち上げあっという間にバブルに飲み込まれ大きな借金を抱えてしまった人だ。結構な借金なので自己破産も十分可能な額だったが、お世話になった人に迷惑が掛かると自己破産をしなかった。借金の負い目や辛さを共感したのだと思う。レベッカに30万をあっさりと渡した。「このお金はあげます。返さなくていいから。」レベッカの言い訳は「精神的に辛くて働きに出られず、お金がないので貸して下さい。」それ以降、お礼状や年賀状すらもなく、また連絡が途絶えた。

実家の田舎は、誰が何をしたとかどうでもいい話が筒抜けになるぐらい退屈で刺激がないので、どうでもいい噂話に事欠かない。お店をやっていると自分が覚えていなくとも「○○さんところの○○でしょ?」と、すぐバレてしまうぐらい狭い町だ。母親がある日、レベッカの親戚と言う人から声を掛けられた。「レベッカって今どこにいるかわかりますか?連絡が付かなくて、娘さんと仲良かったですよね?」どうやらレベッカの母親の体調が良く無かった。元来、母親に自分の出来事をいちいち報告しないので、母親から聞かれた時も適当に誤魔化してわからないとか伝えたような気がする。それから1年ぐらいだろうか?年上の友達にレベッカからまた連絡がきた。内容は同じ「お金を貸して下さい。」

返さないのに何故「貸して下さい。」という言葉を選択するのだろう?
「お金を恵んで下さい。」対等ではないのに何故遜らないのか?

年上の友達が言った。「お金はあげます。もう二度と連絡しないでください。」また30万渡した。それからレベッカからは連絡が来る事は無かった。
連絡を入れたのかもしれないけど、年上の友達も引越しをしたので連絡しようにもできなかったのかもしれない。

私は最後にレベッカが家を出てから、二度と会う事は無かった。

続く

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