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#21 はじめての海外文学フェアからの読書週間 カレル・チャペック『白い病』

11月に入ってたくさんの翻訳家さんたちが、海外文学初心者におすすめする一冊を紹介する、『はじめての海外文学フェア』が始まりました。

リストはこちら。

大人向けと子供向けに分かれてたくさんの本が紹介されています。

海外文学ってとっつきにくい……とかなんだか苦手と思っている人にこそ手に取ってほしい本たちがたくさん選ばれています。

先日、オンラインイベント『はじめての海外文学』が開催されました。有志の翻訳家さんたちが1人ずつ自身のおすすめをPRするという内容で、どの方もとっても白熱しておすすめされていて、思わずどれも読んでみたい!と思ってしまいました。

わたしも海外文学が大好きでずっと読んできて、本当にたくさん素晴らしい作品があるのでぜひ少しでも多くの人に興味を持ってもらいたいなと思っています。

なぜならば買う人がいなければ出版されなくなっていくからです。
幸い今のところはたくさんの本が翻訳されて出版されていますが、残念なことにその中のかなり多くの本たちが重版されないまま消えていってしまっているのがかなしい現状でこの流れを断ち切って海外文学を、そして文芸書全体をつなげてゆくために、本当に微力で超ささやかですが、フェアを盛り上げていけたらと思います。

リストの中から個人的に特に気になったものをピックアップして読んで、これから3回か4回に分けてその感想をあげたいと思いますのでよろしかったらぜひお付き合いくださいね!(といいつつまだ2作目も読めていないので毎週できるかどうかあやしいですが!)


まず一冊めは、『白い病』カレル・チャペック/阿部賢一訳 岩波文庫

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カレル・チャペックといえば ”ロボット” という言葉の生みの親。『山椒魚戦争』などのSF作品を書いた作家として知られていますが、(いや紅茶屋じゃないの?って人もいるかも?)1900年代初等のチェコの作家、劇作家でたくさんの作品が現在も翻訳され残っている人です。

この『白い病』は激動の2020年、世界が新しいウィルスへの恐怖で支配されたこの年に改めて翻訳されて出版されたものですが、内容が非常に今のこの世界の状況を予期していたという部分があって、少しゾッとします。

でも考えてみればこのウィルスに怯えて生きるという図は昔から繰り返されてきたことにすぎず、きっと前代未聞でもなんでもなかったんだろうなとも思います。

物語は第一次世界大戦が終わり、スペイン風邪流行後、たくさんの人が死んだ後のヨーロッパが舞台です。

そんな疲弊しきったヨーロッパをまた謎の病が襲います。
<白い病>と言われ人々を恐怖のどん底に陥れたそれは、皮膚が白く石化したようになり、体が内側から腐っていくというなんとも恐ろしい病状で想像するだにやだやだやだやだ無理無理無理無理絶対にかかりたくない!!!!!というタイプの病です。

若い人には移らず、50歳前後から急激に感染率も死亡率も上がるというところは特に新型コロナウィルスを連想させるなと思いました。

まだ誰も特効薬も予防薬も開発できていなくて、国中がパンデミックに怯え始めていた時、とある病院の助手が自分は治す方法を見つけたと言ってきます。

すぐにでも方法を教えるようにとせまる大学病院の権威の教授に、もしももう二度と戦争をしないという約束ができるなら、その約束をした国から薬を与えると条件を与えます。

それを聞いて何をバカなことを!と憤る各国の権威たち。
お前は医者としての自覚はないのか!と詰め寄られます。医者なら全ての患者を分け隔てなく治すべきじゃないのかと。

でもそれに対し彼は、ではその助けた患者たちが鉛の玉やガス室で死んでいくのはいいというのかと問うのです。医師としてどうしても見過ごすわけにはいかないのだと訥々と説明するのです。

それを聞いてもそんなことはできるはずがない!もう動き出してしまっているんだ!と怒り狂っているのは戦争で儲かる権力者ばかりで、国民は誰ひとり戦争など望んでいません。

彼は繰り返し、ただやめればいいのだと訴えます。
そして絶対に約束なしでは薬を渡そうとはしないのです。

ラストは現にいまだに争いをやめていない人類を嘲笑うかのように皮肉な終わり方で締め括られます。

短い物語で戯曲形式なのですぐに読めますが、内容はとても深く100年前から人類はなんの進歩もしていないということがありありと見えて、否が応でも考えさせられます。

私たちは100年前、いやきっと人類が誕生した時から何にも変わらず憎しみあい、殺しあいながら新型ウィルスに怯えて生きていくというバーカみたいなことをこれからもずっと繰り返していくんだろうなと思えてうんざりしてしまうんですが、恐ろしいほどの情報に囲まれて全く必要ない知識ばかりが増えていくこの現代社会で、こういう本は本当に必要なことを届けてくれるものなんじゃないかなと思えました。

コロナと向き合い、おうち時間が増えた今、ぜひ読んでじっくり考えたい一冊だなと思います。


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