年に2回だけ連絡をする彼。
お互いの誕生日に毎年連絡をする彼がいる。
私は6月
彼は8月
連絡を取り合うのは、一年の内この2回だけだ。
彼との出会いは、中学3年生のときだった。
中学2年生のクラスが楽しくて、クラス替えが憂鬱だった。
最初は名前順で席に座り、私は彼の後ろだった。
プリントを配るとき、初めて顔をみた。
目がぱっちりで、鼻がしっかりしていて、背が高い。
私とは正反対のタイプだ。
どういうきっかけで仲良くなったのかは忘れたけど、(たぶん、彼はきっかけを覚えている)自然と2人でいることが多くなった。
彼と図書室に行くことが日課だった。
彼は司書のみゆきちゃんに憧れていた。
この時に、彼の将来の夢は司書に決まったのだった。
私と彼は、3日に1回は本を借りた。
私は江國香織が好きで、
彼は山田詠美が好きだった。
この頃が人生で一番本を読んだ時期だった。
私たちが、何をしても笑うから、
先生は
「箸が転んでもおかしい年頃ね」
と言った。
「箸が転んでもおかしい年頃?」
その言葉でもう一度笑った。
彼のことが好きだな、と思ったきっかけは、マラソン大会だ。
彼は運動が得意だが、私は不得意だ。
練習の時は、いつも併走した。
ゴール間近になると、彼がすっと後ろになり、私が必ず先にゴールするようにした。
マラソン大会当日。
本番も彼と併走をした。
校庭を走るのとは違い、コンクリートの道を走るのは大変だった。
私は力が尽きそうだった。それでもなんとかゴールが見えてきた。
「今日は先にゴールしなよ」
と私は伝えた。
いつも練習では私を先にしてくれた優しい彼だから、
本番でも彼は気を遣うだろう。
彼がゴールテープを先に切った。
続いて私もゴールテープを切った。
こんな誠実な人、前にも後にも、彼しかいないだろう。
そんな彼からもうそろそろ連絡がくる頃だ。
「お誕生日おめでとう。最近はどうですか。私は元気です」
とたいてい始まるのだが、
今年は、「私も元気です」と返信できるだろうか。
あーあ、嫌だな、また自分のことばかり気にしてる。
彼がどんどん先にいってしまうのが怖いのだ。
彼が私にしてくれたように、「先にどうぞ」と思えたらいいのに。
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