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あの「おばあちゃん」は意外に正しかった?

クリスマスが近づいていますね。

クリスマスと言えば、キリスト教の開祖、「イエス・キリスト」の誕生を祝うお祭りですね。
教会暦ではクリスマスは「12月24日の日没から12月25日の日没まで」です。
一般暦でいう24日日没から25日午前0時までが「クリスマス・イブ」にあたります。

ところで、皆さんはイエス・キリストというとどのような外見を思い浮かべるでしょうか?

多くの方が、ヨーロッパで描かれた肖像画に多い

こんな感じの外見を想像されると思います。
特徴としては

①白人(青い目で描かれることも)
②長髪に髭
③長袖のゆったりした服と外衣

という感じです。

この姿が本当に正しいのか?というと、かなり疑問があります。
というわけで、その辺りを検証してみたいと思います。

①イエス・キリストは白人なのか?

結論から言うと「No」です。
イエス・キリストは古代ヘブライ人です。
北方セム系と呼ばれる民族の1系統で、人種でいうとアジア系の血も含まれています。
つまり、有色人種である、ということになります。

見た目でいうと、現在のエジプトに多く住んでいる人々

を想像した方が近いと思われます。

つまり、肌は褐色で、髪は縮れ毛ということですね。
顔だちも、北方アジア系に近く、もう少し彫りが浅めだと考えられます。


②長髪に髭だったのか?

これも、結論から言えば疑わしいです。
恐らくこの長髪と髭、

各地を布教して回り、人々に尽くし続けた=自分の身なりなど構っている暇はなかった

という発想から生まれたものと思われます。

しかしそれは想像に過ぎません。
というわけで、当時の男性でこのようなスタイルをしていた人は本当にいたのか(マナーとしてアリなのか)という点から考えてみます。

まず、この時代において長髪と長い髭は特別なものでした。
この特徴を持つ人々で挙げられるのは、「ナジル人」と呼ばれる人々です。

彼らは聖書に登場する、自ら志願、あるいは神の任命を受けることによって、特別な誓約を神に捧げた者のことです。
その制約は以下、Wikipediaによるまとめ(一部改)です。

ナジル人の誓約
「民数記」6章にその規定が存在する。ありとあらゆる葡萄の木の産物を口にすることを禁止される。
・葡萄酒
・葡萄酢(ワイン・ビネガー)
・生のまま、干したもの(レーズン)、まだ熟していないもの、皮
・髪を切ってはいけない。
・死者に近づいてはいけない。たとえそれが自分の父母であっても例外は存在しない。

では、イエス・キリストはナジル人だったのか…というと、これはおそらくあり得ません。

何故なら、最後の晩餐

でもはっきり描かれている通り、イエスは葡萄酒を飲んでいます
また、聖書にもたびたびイエスが葡萄酒を飲んでいること、他の記録にもむしろ「大酒飲み」だったことが書かれていますので、イエスが「ナジルの誓約」に従っていたとは考えられません。

当時の一般人は、髪は短髪、ヒゲも短く刈り揃えるのがマナーでした。
イエスがナジル人と同じ長髪で長いひげをたくわえていたらおそらく問題になったでしょう。
これらのことから、イエスは短髪、短い髭だったと推測されます。


③長袖のゆったりした服を着ていたのか?

これについては、半分正解、半分間違いといったところでしょうか。

当時の一般的な服装は「キトン」と呼ばれるものでした。
男性は膝丈

女性はくるぶしまで(左の絵)

の丈の物を着ていたようです。
イエスは男性ですから、膝丈のキトンを着ていたはずです。
肖像画では長いキトンを着ているケースがあるので、この点は誤りですね。

そして、その上にヒマティオンという一枚布の上着を着ていました。
上の絵の中央と右は、ヒマティオンも身に着けている状態です。

古代ギリシャでもよく見られる服装で、貧困層や哲学者などは、下に何も着ないでヒマティオンだけまとっているケースもありました。
旅人など動きやすさを重視する人は、クラミスというヒマティオンより丈の短いものをまとっていました。
イエスが旅を続けていたなら、やはりクラミスを着ていたのでは?と思うのですが、この辺りも微妙なところです。

多くの絵画では、イエスは丈の長いヒマティオンを身に着けており、中には

このようにヒマティオンだけ、というものもあります。
(これで旅をしているとは、現実的には考えづらいですが…)

服装としては、キトンの丈以外の部分では大きな間違いはなさそうです。
ちなみに、聖書にある「イエスの処刑後に分けられた服」というのは、このヒマティオンのことだと思われます。


さて、実はこれらのことを検証し、当時のイスラエルに住んでいた人々の頭蓋骨を調査し、法医学的に当時の男性の顔を復元した人たちがいました。

イギリスの復顔専門家リチャード・ニーブ氏とイスラエルのチームです。
そして、その結果は2001年、イギリスのBBCで『Son of God / 神の子』という番組

が放映された際、公にされました(上の動画はその一部)。

それがこちら。

…!!!???
と思った方も多いと思います。

そして、推定されたイエスの身長体重は
・身長152㎝
・体重45kg

くらいだそうです。意外に小柄…。
イエスの身長や体格について特に触れている記録がないため、恐らく平均的だっただろう、という推測に基づいています。

この番組、放映時には全世界で大いに話題になりました。


ところで、2012年8月に起きたある事件をご記憶でしょうか。

2012年8月、スペイン北東部ボルハの教会で事件が起きました。
教会にあった19世紀の画家エリアス・ガルシア・マルティネスの作品。
いばらの冠を身に着けたイエス・キリストの肖像が描かれていたのですが、湿気によりボロボロの状態になっていました。

そこで、教会員セシリア・ヒメネスさん

が「修復」を手掛けた結果…

左が元々、中央が湿気で損傷した状態、そして右が修復後です。

この衝撃的な「修復」は世界中で報道されました。
ちなみに、今ではこの修復、話題になったことから見学に訪れる人も多く、結局元に戻さずそのままになっているとか。
そしてセシリア・ヒメネスさんも「画家」として個展を開くまでになったそうです。

ところで…よく見ると、

彫りは浅くなっていますし、髪と髭は短くなっているので、(絵画としての完成度はともかく)姿かたちとしてはむしろ「正しい」方向に修正されたように…見えませんか?(笑)


というわけで、今回はイエス・キリストについて少し語ってみました。
皆さん、良いクリスマスを!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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