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キルナに現れた希土類

今日のニュースはロイター通信より、スウェーデンのキルナでレアアース(希土類)の大規模鉱床が見つかった、というお話。


記事によると、埋蔵量は100万トンとのこと。
これがどれくらいのインパクトなのか、そもそもレアアースとは何か、という辺りも含めて見ていきましょう。
そして、発見場所はキルナなんですね。

レアアース(希土類)とは、ランタノイド族に属する15種類の元素と、スカンジウム、イットリウムを含む17元素のこと。

Wikipediaより

レアメタル(希少金属)31種類の一部をレアアースが占めます。

ちなみに、レアアースという名前とは裏腹に存在する資源量は多く、確認埋蔵量1億tに対して年間消費量が15万t程度。

これを聞くとレアではないではないか!と感じてしまいますが、基本的に他の鉱物と一緒に産出され、その分離が非常に困難であることが特徴です。

そのため、経済的に採算が取れる鉱山は非常に限定されています。
これは資源の話のあるある。「埋蔵量」があるという話と、生産できる(採算が取れる)という話は全く別なのです。

例えば、日本の排他的経済水域を含む各地の海底には、「燃える氷」と称されるメタンハイドレート

Wikipediaより

というエネルギー資源が分布していることは1990年代からずっと言われていました。

Wikipediaより

夢の資源、日本の救世主と30年間言われ続けていますが、現状では採算が取れないため商業生産は行われていません。
一方で、アメリカのシェールガス、シェールオイルは採算が取れるようになり、近年採掘が急増しています。
将来的に、メタンハイドレート等も採掘技術の進歩で採算が取れるようになり、「夢の資源」が夢ではなくなる日が来るかもしれません。

また、日本の最東端、南鳥島沖にも、高濃度のレアアースを含むレアアース泥が存在し、探査が進んでいます。
ただ、これ深海底の海山の周辺に分布するため、採掘コストが高く、近い将来に商業生産が行える可能性は低いと言わざるを得ません。

神戸大学ウェブサイトより

さて、今回のキルナでの発見は、採掘の認可を申請する方針とありますので、分離がしやすいなど採算が取れる鉱床であると考えられます。

現在の世界の確認埋蔵量は、中国が4,400万トン、ブラジルとベトナムがが2,200万トン、ロシアが1,800万トン…等となっています。
それに比べると100万トンは多くは見えないのですが、生産量を見ると、1位の中国が年10万トン。その割合が世界生産の8割に及びます。

よって、仮に100万t全量が採掘可能な鉱山であれば、生産規模としてはかなりのインパクトを持つ可能性があります(年1万t生産でも世界生産の7%ほどになります)。
ちなみにレアアースは、強力なモーター(電気自動車(EV)に不可欠)、ニッケル水素電池や各種の電子機器、触媒などにも用いられるため、非常に重要な工業原料です。

経済産業省ウェブサイトより

特にEV化を推進、或いは高度な電子機器などを生産するヨーロッパにとっては生命線ともいえる鉱物で、これを中国に大きく依存することについては懸念する声がかねてからありました。
そういった意味でも「朗報だ」ということですね。

そして鉱床があるキルナですが、地理で言えば鉄鉱山で有名。

Wikipediaより

キルナ鉄山で産出するのはリンや硫黄が少なく、モリブデンやクロムの含有が多い磁鉄鉱。
その鉄鉱石から製錬された鉄は強く、錆びにくく、それでいて加工しやすい高品質な「スウェーデンスチール」としてヨーロッパの工業を支えてきました。
なお、キルナ鉄山は高度に機械化されていることでも有名です。


刃物や車のボディなどにも使われ、スウェーデンと言えば自動車メーカーのボルボ、斧のメーカーのグレンスフォシュ、元は銃メーカーで現在は農業機器を生産するハクスバーナなども有名です。

ついでに言えば、夏はルレオ(ボスニア湾沿岸)、冬はナルヴィク(ノルウェーの港)から積み出していたという話も定番の一つ。

Wikipediaより

これは冬になるとボスニア湾が凍結してしまうからですね。

Wikipediaより

北大西洋海流の温暖さの話と合わせての定番ネタです。
但し、現在は砕氷船がありますので、ルレオから通年運び出されているそうです。

というわけで、世界のレアアース供給地図にインパクトを与える可能性があるスウェーデンのお話でした。
ついでに、キルナのお話や、レアアースの特性などについても知っておくと何かに役立つかもしれませんね。
今回はこれくらいで。

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