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栽培植物のリスト 「ヒマワリ」の歴史

さて、今回からは油脂作物について少し取り上げたいと思います。
その中でも夏と言えば…という部分もあり、ヒマワリについて取り上げたい
と思います。ヒマワリはキク科の植物です。確かに、大きさはともかくキクに印象は似ていますね。

ヒマワリの生まれ故郷はどこか

ヒマワリの原産は北アメリカ大陸西岸
気候で言えばカリフォルニアなど、比較的乾燥した地域と考えられています。
北アメリカから中央アメリカの先住民の間では、古くから食糧とされていました。すりつぶしたものを食すだけではなく、油を搾って調理に使っていた可能性も指摘されています。
また、栄養価が高いため薬扱いされていたとも言われており、この地域の先住民文化にはなくてはならないものでした。
栽培の歴史を見ると、今から2000年前くらいには既に栽培されていたようです。

ちなみに、花言葉のうち「偽の金貨」「偽りの富」は、ペルー出身の言葉。
古代インカ帝国ではヒマワリは太陽神「インティ」

Wikipediaより

のシンボルでした。
帝国ではヒマワリをモチーフにした黄金の冠があったのですが、スペインの侵略により略奪されてしまったと言われています。
その歴史からきた言葉で、かなりネガティブな意味です。

食品としても油脂作物としても優れているのですが、日本ではあまり利用する習慣はありませんね。

ヒマワリ、ヨーロッパへ渡る


ヒマワリは、まずはヨーロッパに伝播します。
1510年にスペインの探検隊が種子をヨーロッパに持ち帰りました。この際に前述の花言葉も生まれたと考えると複雑ですね。
この伝播には、ジャガイモなどの話と共通項があります。
また、新大陸系の植物に比較的共通する話として、当初は珍奇な植物として観賞用とされていました。

ちなみに、ギリシャ神話でヒマワリに関する話として有名な水の精クリュティエの神話

Wikipediaより

ですが、ヒマワリの伝播の時期を考えれば別の植物だろうと推測するのが妥当です。これは、恐らくヒマワリと同じ特性(向日性)を持つマリーゴールドなどではないかと考えられます。

ヒマワリとクリュティエの神話
海の神の娘である水の精クリュティエは、ある日太陽神アポロンに恋をしました。
しかし、アポロンは別の女性に恋をしていたためその恋はかなわず、クリュティエは毎日アポロンが天の道を黄金の馬車で駆けていく様子を涙しながら眺めていました。
9日間ずっと地上から天空を見上げ、空で黄金の馬車に乗るアポロンを見続けました。そして彼女の足は地面に根付き、ヒマワリになりました。
このクリュティエの恋焦がれる様子と、太陽が東から西に移動するヒマワリの姿が合わさって、「あなただけ見つめてる」など情熱的な花言葉が生まれました。

なお、ヒマワリは17世紀にフランス、19世紀にロシアに伝わりましたが、やはり当初は鑑賞用でした。

珍奇な観葉植物からの脱却

長らく鑑賞用の植物でしたが、徐々に種子を菓子のトッピングにしたり、煎ってコーヒーの代用品として使うようになっていきます。
そして、ヒマワリの種を最も重宝したのはロシアでした。

これには宗教的な理由が関わっています。
食物禁忌の話では、ユダヤ教やイスラーム、ヒンドゥー教のものが有名ですが、正教会もかなり厳しい食物禁忌である「斎戒」があります。

その中でも特筆すべきものが、オリーブ油の禁止
そのため、その代用としてヒマワリを用いるようになり、19世紀半ばごろからロシアでの栽培は大きく増加していきます。
現在もロシア、そしてウクライナでのヒマワリ栽培は盛んで、両国で世界生産の6割近くを誇ります。
ヒマワリ油に限定すると、ウクライナが世界のヒマワリ油のおよそ半分、ロシアと合わせるとシェアは75%。それらの多くはヨーロッパ向けに輸出されています。
現在のロシアによるウクライナ侵攻が、ヨーロッパを中心に世界の油脂市場に大きな影響を与えていることが伺えます。

ロシアなどでは、採油作物としてだけではなく、日常的におやつとしても食されています。映画館で、日本で言うポップコーンのように食したりもしています。
ちなみに、カロリーはアーモンドやクルミと同等かそれ以上。抗酸化作用などメリットも多いですが食べ過ぎには注意。

また、ウクライナ侵攻後、1970年にウクライナ(当時はソ連)のヘルソンで撮影されたとされる映画「ひまわり」が、上映されたりしました。

また、先日環境保護団体の過激派にトマトスープをかけられたゴッホの名画も「ひまわり」でした。

Wikipediaより

日本への伝来は?

日本への伝来は江戸時代前期(17世紀)。
欧州系の作物は明治期に入ってから伝来したものが多いことを考えると、意外に早いですね。
寛文年間の図鑑、『訓蒙図彙(さんもうずい)』に「丈菊、俗に言ふ天蓋花、一名迎陽花」と書かれており、記録上はこれ(丈菊)が最初のヒマワリに関する記載と言われています。
一丈は約3mなので、ちょっと盛りすぎ…?

当初は菊に似ている背の高い植物なので丈菊と呼ばれていたようですが、その後、ヒマワリと呼ばれるようになります。
名前の由来は、太陽を追って花が回ることから来ています。
漢字(向日葵)は漢字名に由来します。そのため、音と合わないですね。

ちなみに、花が回る理由は、茎の部分の成長が、日向部分と日陰部分で差がある(日陰部分の方が早く成長する)から
なお、花が咲くと茎の成長が止まるため、太陽を追うように回ることは無くなります。

日本への伝来後は、油脂の採取などのため、栽培化されて現在に至ります。ただ、まだ日本ではメジャーな作物…とは言えませんね。
どちらかというと観光用という印象が強いかもしれません。

Wikipediaより

というわけで、ヒマワリに関するお話でした。
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