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好みのコーヒー豆を見つけよう! その6

前回の記事では、コーヒー豆の精製方法のうち、ウォッシュド(水洗式)について解説しました。

今回の記事ではその他の精製方法について解説しつつ、コーヒーのうまみについて、精製のプロセスを通して掘り下げていきたいと思います。

というわけで、今回のテーマは

精製方法と発酵の関係について

です。
まずは、精製方法について説明を続けたいと思います。

②ナチュラル(乾式)

ナチュラルは、最も古い時期から用いられている精製方法です。

まず、コーヒーチェリーを広い場所に広げ、そのまま乾燥します。
その後に脱穀し、生豆を取り出します。

つまり、精製の順番は

コーヒーチェリーをそのまま乾燥する

寝かせて熟成

脱殻機にかける

という、ウォッシュドに比べるとかなりシンプルなものです。
乾燥させて熟成させると、果皮・果肉・ミューシレージ・パーチメントが全てくっついて「ハスク」という分厚い殻状になります。
脱穀機ではこれを脱穀してコーヒー豆(種)を取り出すのです。

この方法では
大量の水を使用しないため、環境に優しい
という利点があります。

さらに、
果皮・果肉・ミューシレージがずっと残った状態なので、独特の甘み風味が出やすい
という特徴もあります。
この点を、「味のクリーンさに欠ける」と評する人と、「独特な風味が素晴らしい」という人がいます。
ちなみに私は後者です…(笑)
ウォッシュドとナチュラルは、飲み比べるとすぐに違いがわかります。

ちなみに、オールドクロップ(年単位の長期間冷蔵保存して熟成させた豆)ですと、ウォッシュドは微妙な「加齢臭」がするケースがある(それはそれで面白い)のですが、ナチュラルは比較的それが少なく、水分が抜けた分、風味が凝縮されます。
ナチュラルのオールドクロップは、熟成したワインのような独特の風味を持ちます。濃い目に淹れると最高に美味しいのです。
オールドクロップの魅力についてもまたいずれ…。


欠点を挙げると、
気候に左右されやすい(雨が降ると傷んでしまうことも)
ため、湿潤な地域にはこの方法は不向きだったり、

異物や欠点豆の除去は、目視とハンドピックのみなので、
異物が混入しやすい
欠点豆が増えやすい
豆が均一になりづらい

という欠点もあります。
そうなると、商品価値が上がらないというケースも出てきます。

豆が均一でないので、焙煎が難しい(火の通りが均一にならない)上に、ハンドピックで量が減ってしまうので敬遠されるのです。
中には、丁寧にハンドピックすると3割近く欠点豆で弾かれてしまうケースもあります…。

ナチュラルが多い国は、エチオピア、イエメンのような比較的古くからコーヒー生産を行っていた地域と、ブラジルです。

コーヒーの風味を生みだすものとは何か

ここで少し話を変えて、ナチュラルの「独特な風味」とは一体何なのだろう、と考えてみたいと思います。

「独特な風味」が最も強くあらわれるのが、「イエメン・モカ」です。
イエメン・モカは、独特の甘い香りと、濃厚で複雑なコクがあることで有名です。

一方で、ブラジルのナチュラルはそれに比べると比較的スッキリとした味わいです。
同じナチュラルでなぜこのような差が出るのか…と考えた時、両者の精製方法の違いに行き当たります。

イエメンは、部族ごとの小規模生産が多く、収穫したコーヒーチェリーは集落の「屋根の上」での乾燥(1~2週間程度)を行います。
そして、乾燥した果実はそのまま保管し、出荷する際に脱穀します。
かなり脱穀までに長期間が経過します。
お米でいうと、モミ付きのまま保管しているイメージでしょうか。

一方、ブラジルは大規模農園が多く、収穫したコーヒーチェリーは広い場所に薄く広げ、何度も天地返しをして、数日で乾燥させます。

この両者を比較すると、イエメンの方が独特の風味が強い…ということは、長期間かけて乾燥させることに風味を出す原因がありそうです。

実は、コーヒー豆の風味を生み出すのは「発酵」なのです。
ナチュラルの場合、乾燥の過程でいくつかの発酵が同時進行しています。

・果実内にある酵素による発酵
 (酵素ジュースの作成などと同じ原理)
・細菌による発酵
 (乳酸菌など)
・酵母による発酵
 (パンなどで使われますね)
・カビ類による発酵
 (ブルーチーズなどで見られる発酵の形)

です。
これらは、発酵のスピードが異なります。
例えば酵素・酵母・細菌は、乾燥させると急速に活動が低下しますが、カビ類は乾燥に比較的強い特徴があります。
特に酵母や細菌は、発酵の過程で独特の発酵臭を作り出します。
(パン生地や納豆などでは、独特のにおいがありますよね)
この話を組み合わせると、
ゆっくり乾燥させた方が発酵臭は強くなる
ということになります。
イエメンはブラジルより独特の香りが強い、というのはこの辺りに理由がありそうです。

また、細菌類による発酵は、乾燥した状態でも比較的長期間継続します。
乾燥した果実の状態で長期間貯蔵すれば、その間カビ類による発酵はゆっくり進行することになります。

また、イエメンの場合、屋根の上での乾燥という点がポイントになります。
ブラジルのように薄く広げないため、乾燥ムラが発生しやすくなります。乾燥ムラが起きるということは、発酵の進みも違ってくるはずですね。
この「ムラ」が複雑な風味を生み出しているとも言えます。

一方でウォッシュドは、発酵の主役は水槽内の常在菌です。
この常在菌がミューシレージを分解し、乳酸菌が増殖します。
しかし、乳酸菌が生み出した発酵成分は水で薄まるため、ナチュラルのように果実に風味が凝縮されず、クリアで爽やかな風味づけがされるのです。
もちろん、ミューシレージが除去された後、発酵が進むこともありません。

というわけで…コーヒーの風味は、品種ごとの特徴ももちろんなのですが、実は精製方法でもかなりの差が出る、ということがお分かりいただけるのではないかな、と思います。
そしてその原因は「発酵」にある、ということです。

個人的には、まずはウォッシュドとナチュラルを飲み比べていただきたいな、と思います。
その違いに驚くと思います。
そして、選択の幅がさらに広がるのではないでしょうか。
(どちらが好みかは人それぞれですが…💦)

その後、まだまだ続くコーヒーの発酵の世界に足を踏み入れていただければ…と思います。
意外にディープで、面白いです…。
次回以降は、ハニー、ワイニー、スマトラ、さらに動物経由など、また違ったコーヒー発酵(精製)の世界をご紹介します!


ちょっと長くなってきましたので、今日はここまで…ということで。

皆さんのおうちカフェが充実したものになりますように!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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