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好みのコーヒー豆を見つけよう! その9 「エイジングコーヒー」

前回までの記事では、コーヒー豆の精製プロセスについて書いてきました。

そこでは、コーヒー豆の精製は単にコーヒーチェリーから豆(種)を取り出すだけではなく、

・ウォッシュド … 乳酸菌
・ナチュラル、ワイニー … 酵素・酵母・カビ
・ハニー … 乳酸菌・酵素・酵母
・スマトラ式 … 乳酸菌・カビ

という、チーズやワインのような「発酵」のプロセスを経ているのだ、という点に触れました。

よく考えると、チーズやワインも、発酵の浅い「フレッシュ」なものから、数年~長いものでは数十年の長い「熟成(エイジング)」期間を経たものまでありますよね。

そう考えると、コーヒー豆も同じように「エイジング」したらどうなるのでしょうか?

最近、色々な食材を熟成させることも流行りになっているようですので、コーヒーのエイジングついてもちょっと取り上げてみたいともいます。

というわけで、今回のテーマは


「エイジングコーヒー」って美味しいの?

です。

実は、エイジングコーヒーは、比較的古い時代から存在しています。
よく考えると、発酵や熟成というプロセスは、元々は「食物の保存」のための手段なので、むしろ冷蔵庫などない時代から存在しているはずです。
現代では、保存性よりはエイジングによる「うまみ(アミノ酸など」の増加が好まれて流行しているのですね。

コーヒー豆には、収穫から経た期間によって呼び名の分類があります。

①ニュークロップ
収穫して1年以内。

豆の水分量が多く残っています。
色は緑色が強めです。

酸味や豆の個性が出やすい状態で、豆ごとの水分含有量にもばらつきがあります。
そのため、均等に焙煎することが難しく、焙煎士の技量によって風味の出方が大きく左右されます。ここは腕の見せ所です。


②パーストクロップ
昨年度に収穫されたもの。
やや水分が抜け、緑色が薄くなります。

ニュークロップに比べて水分含有量が減少、平均化しており、フレッシュな強い風味が「丸く」なってきています。
個性はやや出づらいですが、その分失敗も少なく、ニュークロップよりは焙煎がしやすい傾向があります。
そういった意味では、「焙煎しやすい、飲みやすい」コーヒーになりやすいとも言えます。


③オールドクロップ
収穫してから2年以上たったもの。

色はやや黄色がかってきます。

かなり水分が抜けており、豆ごとの強烈な個性はかかり丸くなっています。

豆の個性は平均化してきているものの、水分が抜けている状態なのでかえって焙煎がやや難しく、焦がしてしまいやすくなります。
また、オールドクロップならではの発酵臭が出てくることもあり、好みがやや分かれてきます。


一般的に「スペシャリティーコーヒー」としてカフェで供されているものは、ほとんどの場合ニュークロップです。
コーヒーの収穫時期は10月くらいですので、「新米」と同じ感覚でより「新しいコーヒー」を味わいたければ、年末までにカフェに足を運ぶと収穫してより日の浅いニュークロップに出会うことができます。


では、オールドクロップはというと…。
一口に「オールド」とは言っても、単に「古い」ものと、「適切にエイジングされたもの」では全く別物になります。
ここでは、後者の豆について考えていきます。

コーヒー豆に限らず、エイジングは適切な温度や湿度の管理が不可欠です。
一般的には年間を通して低温・乾燥した環境になります。

例えば、ワインやチーズはヨーロッパ(元々気候的に年間変化が少なめで乾燥傾向)の地下室(年間を通して温度・湿度が一定。一般的に低温乾燥)で熟成されます。
つまり、このエイジング、適切な環境と、熟練の職人による長期間の繊細な管理が必要なのです。
商売としてはコストもかさみますし、割に合いませんね。

また、日本の場合には適切な環境は少ない(標高高めの内陸では条件を満たすかもしれません)という点もエイジングが広がらない原因かもしれません。

さて、このエイジングではどのような化学変化が起きているのか、というと…。

まずはタンパク質分解酵素の働き。
タンパク質を分解し、 アミノ酸を増加させます。一般的に「うまみ」を増す働きです。

次に、水分活性の変化。
水分が抜け、「枯れ」ていく過程で、うまみなどが凝縮されると同時に、放出される水分(自由水)が酵素や微生物の働きを強めます。
この酵素や微生物により、タンパク質分解酵素がさらに生成され、独特の熟成香(甘い)が発生する…といいのですが、雑菌が入ると香りが悪くなります。
ここが難しいところで、エイジングには職人技が必要な所以です。


ところが、エイジングコーヒーについては、ここでちょっと難しい問題に行き当たります。
それは「コーヒーの香りもアミノ酸からできている」点です。
コーヒーの香りは1000種類とも言われる成分から成り立っているのですが、その代表的な成分が「フルフリルルチオール」です。
これは「含硫化合物」の一種で、コーヒーの場合は「含硫アミノ酸」と「糖」を加熱した際に発生します。
つまり、コーヒーを焙煎した時に感じる「コーヒーの香り」の正体です。

コーヒー豆は、他の食品に比べてこの「含硫アミノ酸」が多いため「コーヒーらしい」香りがするのですが、エイジングをする過程でこの含硫アミノ酸の割合が相対的に低下していくため、「コーヒーらしい」香りが薄らいでいくのです。
そのため、エイジングコーヒーの香りが「コーヒーらしくない」として敬遠する人も少なくありません。

また、エイジングの過程で熟成香とは違う独特の「加齢臭」のようなものがつくことがあり、これはかなり好みが分かれます。
(表現が難しいのですが、「おじいちゃんやおばあちゃんの匂い」です(笑)私の印象は、不快なのではなく、本当におじいちゃんやおばあちゃんの匂いなのです)
個人的には、この匂いは「ウォッシュド」や「ハニー」に多く感じるので、乳酸発酵も何か影響しているのかな?と思います。
逆に「ナチュラル」や「ワイニー」ではこの匂いが少なめな傾向があるので、この匂いがお好みでなければこれらの豆のエイジングコーヒーをお勧めします。

ただ、エイジングを経ることでアミノ酸の作用で甘みは濃厚になりますし、タンニンは抜けてしまいますので「渋み」を感じることはありません。
これが、エイジングコーヒーの「丸い」そして濃厚な味わいを生み出します。

この辺りはワインの熟成に似ていますね。
コーヒーとワインには、実は生産段階での共通点が多いように思います。


というわけで、今回はオールドクロップ、そしてエイジングの世界に少しだけ触れてみました。

フレッシュなコーヒーも良いのですが、たまには職人さんによりエイジングされた「オールドクロップ」を味わってみるのはいかがでしょう?

おすすめのドリップは、「ちょっと温度低め、ゆっくり落とす」です。
濃厚な甘みを存分に味わうことができますよ!




最後に、ちょっとだけ裏技。
ゆっくり濃厚に落としたエイジングコーヒーに、ウィスキーをお好みで垂らしてみてください。
どんな味がするかは…やってみてのお楽しみで!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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