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【読書感想】「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」宮部みゆき

読了日:2017/5/30

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一度にひとりずつ、百物語の聞き集めを始めた三島屋伊兵衛の姪・おちか。ある事件を境に心を閉ざしていたおちかだったが、訪れる人々の不思議な話を聞くうちに、徐々にその心は溶け始めていた。ある日おちかは、深考塾の若先生・青野利一郎から「紫陽花屋敷」の話を聞く。それは、暗獣“くろすけ”にまつわる切ない物語であった。人を恋いながら人のそばでは生きられない“くろすけ”とは—。三島屋シリーズ第2弾!
「BOOK」データベースより

この本の概要

宮部みゆきの三島屋シリーズ。
1作目と3作目は読んでたけど2作目飛ばしてしまってたので読みました。

小説以外の本は、きりのいいところでやめやすいんだけど、小説は読み始めると止まらなくなっていけません。
これも結構なボリュームの本だったけど、夜中に子どもを寝かしつけた後、かなり夜更かしして読んでしまった…。

宮部作品ですもの、今回ももちろん面白い。
全部で4つのお話からなるんですが、私がいちばん好きなのは、タイトルにもなってる「あんじゅう」というお話。

本読んで久しぶりに泣いた。
かわいくて悲しくて優しくて寂しい物語。
ネタバレになるので、詳しくは書きませんが、心にじわ~っときました…。

青野利一郎

あと、ワタシ的によかったのは、新たな登場人物、青野利一郎。
3作目を先に読んでいたので存在は知ってましたが、彼の初登場がこの「あんじゅう」でございました。

青野利一郎、ことごとくワタシのツボ。
・地方から出てきた浪人(←朴訥としていてあか抜けてない)
・今は江戸で塾の若先生(←インテリ)
・剣の腕はたつ(←体育会系)
・人がいい
・金はない

条件が、居眠り磐音シリーズの磐音様とかぶる(笑)
磐音好きとしてはたまりません。
青野利一郎目当てにもう一度3作目読み直したくなりました。

彼も三島屋シリーズのレギュラーとなりそうですし、宮部さんが飽きなければこのシリーズしばらく続いてくれそうなので、とうぶん楽しめそうです。

ワタクシ的名文

「神様でも人でもさ、およそ心があるものならば、何がいちばん寂しいだろう」
それは、必要とされないということさ。

「逃げ水」 より抜粋

アドラー心理学でいうところの「貢献感」でしょうか。自分が役にたってるっていう感じ。

母になって貢献感を強く実感しています。
独身時代は彼氏もできないし、できてもすぐダメになるので、そのたびに「私は一生誰にも必要とされないのか…。」と暗澹たる気持ちになってました(笑)
もちろん、彼氏がいなくてものびのびできる人はたくさんいるし、それができるのがいちばんハッピーなんですけど、私はそれが、上手にできなかったんです。基本がネガティブだし、結婚願望も強めだったので…。

そんな私も、ありがたいことに運よく結婚できて、こどもを授かることができました。
親という仕事は大変ではあるけれど、このうえない「貢献感」は得られます。忙しいし、「ウガーッ」となることもあるけれど、この状態はすごくすごく贅沢で幸せな時間なんだな、と思います。

子供じゃなくても、大人同士でも、もっとそういう親密なつながりができるようになるといいなぁ。
結婚も、子孫残す意味では男女である必要はあるけど、そういう生物的なところと別に、精神的な面で、同性婚や友人同士の同居も、「一緒にくらしたら家族」みたいになるといいのに。
友達と家族になって、養子の子供を育てるだっていいじゃない。
その人たちの人生がハッピーになるなら。
そんな自由があるほうが私は嬉しいな。

「里の連中は、富一の頭が冷えればいいだなんて思っちゃいなかった。あいつが気にくわなくて、死んじまえばいいと思っていたんだ。最初っからそのつもりじゃなかったとしても、あいつとおはつを閉じこめて、煮ようが焼こうが勝手にできると思ったときから、箍が外れっちまったんだよ!」
人の箍。人の良心だ。誰かの上に君臨し、その生殺与奪を握ったとき、それは呆気なく外れることがある。とりわけ、衆を恃んで事を起こすときには。

「吼える仏」より抜粋

戦争の時代はまさにこれだったんでしょうね。
戦時中だけじゃない。
今の時代も、ネット私刑や、芸能人の不倫叩き、企業のCM炎上など、実は根っこはおんなじなんだと思う。

ネットのように匿名性が確保され、自由に言える場は、相手の生殺与奪を握りやすい。
「正義」や「マナー」のような、一見正しそうにみえる何かを後ろ楯に、集団で一斉攻撃するのがしょっちゅう…。
基本、素直なモトコですが、たとえ、その大衆と自分の考えが同じだとしても、ネガティブな事柄で大衆にのっかって声をあげるのはイヤだな、と思うし、そうしない自分でありたい。

ただ、それもどこまで心の箍としてワタシの中に在ってくれるかはわからない。

ワタシの心の箍も多分何かの拍子に外れることはあるのかもしれない。
人であるかぎりその危険性だけは常にもっていないといけないな。

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