戦闘霊ベルゼバブ(SF連載小説)「第1次戦闘」
戦闘霊ベルゼバブ(小説)
第一次戦闘。
ララメリア合衆国の東部大都市の郊外。
黒人の少女、名前はクリスマスローズ、
青い空の下で、彼女は車にひかれて死んだ。
道路を渡ろうとしたら、ものすごい勢いの車が突っ込んで。
消えゆく心の中で、彼女はこう思った。
どこまでも青い空。なんてきれいなんだろうと。
今日はステキな日だ。よかった。
しかし道で倒れて今にも意識を失う寸前、何もないところから声が聞こえ、
「君を呼び戻していいかな? 君が必要なんだ」
目が覚めると、事故の前。
彼女が待っていると、その車は後ろからフォンを鳴らされ、先に走っていた。
結局、道路を渡らずそのまま家に帰ると両親がびっくりしていた。
まだ何も言ってないのに。なんかあったのかな?
「あら、お帰りなさい」とようやく。
その夜、両親は少しおどおどしていた。
でも本当の両親ではない。
本当の両親は死んだので、おじさんの家に引き取られたのだ。
貧しくても、世の中にはきっと良いことがあると、信じていた。
いつもきれいなこと、素敵なことを探している。
次の日はいつもの1日。変わらない晴れた夏。
たった1人の仲良しの友達にも少し変だと言われるけど。
どうも私は不幸な子供だと他人から思われてるみたいだけど。
クリスはいつも、
一枚のカードに表と裏があると思ってる。
表には「誰もが不幸だと認める不幸」
そして裏には「その不幸の別の意味」
本当の人生はきっとドキドキする。
物事の本当の意味は私の想像を絶するところにあって。
両親を早くに無くしたことは悲しいことだよ。
しかしそれは足かせを無くしたことも意味する。
お金がないことは悲しいことだ。
しかしそれは、これから自分が手に入れるものはすべて自分の力で手に入れたものだよ、とささやいてくれる。
すべては自分次第、なんというシンプルな美しさ。
みんなが嫌う落ちてくる毛虫も私には美しい。
この毛虫、刺さないのになぜ嫌うんだろう。
刺さない毛虫はかわいらしい。
そしてみんなが嫌うからこそ、その美しさを独占できる。
クリスはいつもこんな風。
この度が過ぎた楽観主義のせいで友達はできない。
いわゆるポリアンナ主義者だ。(クリスはこの言葉を知らない)
1人を別にすれば。
「まあ、クリスのことだからあんまり心配してないけど」
友達は私のことを心配してくれていたらしい。
友達が1人しかいないって、意外とステキじゃない?
本当のところ・・・
すべてに楽観的な色眼鏡をかけてみるポリアンナ主義は、
本当は人生が悲惨だからこそ起こることだ。
悲惨な人生に耐えられるように、生き残れるように、希望を失って死ぬことのないように、現実を捏造する習慣が身に付いた。
・・・でもクリスマスロースは気づいてなかったし、
この先もたぶん気づくことはないだろう。なぜいけない?
折しもテレビでは、異星人による爆撃について触れていた。
謎の宇宙船による無差別攻撃がだんだんとひどくなっていると報道されていた。
だが大人の世界に子どもたちは無関心である。
その日もクリスマスローズにとって美しくも悲惨な一日が始まって、そして終わった。
さらにその次の日。また良く晴れた日。
義理の両親はクリスに学校を休ませた。そして車で連れ出した。
「今日は高層ビルの屋上に行くんだよ」
どんな高層ビルなんだろう?
近くにある大都市には、巨大な針の塔がいくつも建ち、そのうちいくつかは最上階が入れるようになっている。お金がかかるのでいつも入ったことはない。
これはいいことだ。クリスはそう考えた。
だが、義理の両親が連れて行ったのは、取り壊される直前の廃ビルだった。
誰もいない。おんぼろっちい。これはこれですごい!
クリスは廃墟の美しさに目覚めた。
そして3人は屋上にまで行った。ピクニック。
義理の母が作った、タマゴサンドを食べて。
「お前が死ねば、保険金が入るんだよ。新しく生まれる子供のためにおじさんとおばさんを幸せにしておくれ」
それがクリスにとって世界の真実の底にある言葉だった。
フェンスが一部分、敗れているのはそのせいだ。
ちょうどその時、異星人のメカが空に現れて地平線上に黒煙が上がる。
義理の両親は急いでクリスを突き落として逃げようとする。
どさくさに紛れて。
でもクリスマスロースはここで人生を閉じる運命にはない。
時はきた。
また謎の声が聞こえた。
「飛び降りなさい。大丈夫、あなたは飛べるから」
と声がしたので、ふしぎと大丈夫な気がして、思い切って飛び降りた。
落下する彼女。かなわなかった現実の中では、彼女は下でつぶれて、見ることもできない姿に、なっていた・・・はず。
でもこれは現実じゃない。
思い出す。自分が何者であるかを。
心臓が青く光り輝きながら、肉体が変形する。
無限アーク転送エンジン起動。
フォルムマテライザ投影開始。
フラッシュレート50アト秒。
投影物質による躯体再構成。
機体構築選択。スキールモルフ。ビルキース。気体圏内航空型。
クリスのとっての本当のリアル、それは、
天翔ける機械化種族、スキールモルフの1人だ。
必要なことはすべて覚えている。
というより思い出したというべきか。
変形して巨大なイルカのようなデザインで、先端部についた翼が曲がりながら後ろに丸く伸びている。翼はステルス機のような直線を多用したライン。
重力スラスト。パワーオン。
機体先端を青空に向けて、前方に重力傾斜を投影、天空に向かって落ち始めた。
針の街はあっという間に後ろの方に消えてゆく。
青の色は一瞬で薄くなる。
異星人メカを見つける。識別は敵性。無人攻撃機タイプだ。上位の人工知性すら入ってない。むしろ弾頭に近い。
兵装選択:直接質量弾。滅多にないことだが、いわゆる機関砲を選択。なぜそれにしたのかはわからない。気まぐれとしか言えない。
交差軌道。接触まで8秒。発射。撃破。崩壊を確認。
目覚めの儀式としては簡単すぎる。
鉄器撃破後、軌道上空に上るクリスマスローズ。
「目が覚めたか。久しぶり」
迎えてくれたのは、3人の仲間。
ザリンタージュ、ネーネ、それとビャクダン。
思い出した。4人で異星の機械と戦っていた。自分たちは機械化された種族で。
人間を守るために戦っていた。
戦闘で死んだ自分は心を病んだ。
単純な蘇生では意味がない。
それを癒すために、転生システムを使って再生することにして、長い時を仮想惑星上で生まれ変わってきたのだ。
謎の声は言う。今では誰かわかる。ザリンタージュの声だ。
メンバーの中でいちばん精神的に幼く、そしてまじめな戦隊長。
輝かしき蠅の紋章。私たちの部隊章。善と悪をつかさどる鈴の神様。
「アーカーシャ力場による同一人格周波数再生成現象を流用してみた。記録上は可能だったが、実際にやってみるのは初めてだった。成功だったようだ」
「またクリスが必要なんだ。一緒に戦ってくれるかい?」
「もちろん!」
仮想惑星ララメリアの空を割る。
クリスマスローズは二度と故郷には戻らない。
でも彼女が故郷の青い空を忘れることはない。
どんな時も青い空が一緒だった。
義理の両親やたった1人の友達、地上でクリスを見上げる彼らを、
はるか上空でフライパスして、振り返ることなくクリスマスローズは、青い空を上昇していく。
専門用語:
無限アーク転送エンジン:どこかの大質量星か大質量BHから熱エネルギーを無制限に転送する動力炉。実質的に無限動力。単に心臓とも呼ばれる。
フォルムマテライザ:観測効果によって出現する投影物質を投影する装置。心臓の周りに存在する。
フラッシュレート:指定時間内にどれだけ投影物質を再投影するか。最大ゼプト秒単位。
スキールモルフ:上述の技術を用いた無限再生型機械化人種。
ステルン(星の子)宇宙軍:スキールモルフによって構成された防衛軍。
ビルキース:流体圏内戦闘に特化した機種名。スピットファイアと同じ意味。
アーカーシャ力場:過去に存在した物体の性質を記憶した情報の力場。
第628惑星侵攻防空戦闘団:クリスマスローズの原隊。全員女性。
*:各種設定や種族の名前とかは、考えてはいますが随意に変更可です。
機体及び制服デザイン等は考えてありますが、絵師さんにデザインしてもらってもかまいません。
(スペースコブラ第1話の形式をストライクウィッチーズ風に演出しました)
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