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【モコモコ怪獣は今日もモコしてる。】5食目「冷たいご飯の方程式」

ここは宇宙船の中。
宇宙船の乗員はひとりだけ。
ちなみにパイロットではない。
パイロットもナビゲートもAIが実行する。
では人間は何をするのか?
AI管理士。
資格の辞典だとこんな感じで載っているやつだ。
要するに何もしない人と言っても言い過ぎでではない。

だがまあ、何もしないわけではない。
AI技術者である必要がある。
コードの書き方、調律の仕方はできる。
というか、本当にただの人なら逆に運賃を取られるだろう。
いや、そういう貨物船も広い宇宙にはあるけど。

さて、宇宙船だから載せられる搭載量は決まっている。
宇宙では魚も果物も取れないし。
安全係数は見込まれているものの、搭載してある食料は限られている。
そうこなくちゃいけない。

まあしかし、こんな宇宙船に乗るやつもいないか。
おれ以外は。
なんとなくおれはそう思って。定時巡回を始めた。そしたら。
いるわ。いたわ。密航者。
いや、まあ、ネズミなんかが乗っているのはむしろ縁起物だが。
(いつの時代だよ。普通に不衛生だよ)
それはともかく、どう考えても犬猫よりでかいのがいる。
そいつは地球で大騒ぎを起こした怪物だった。

宇宙船に載せられる食料は少ない。2人分じゃ足りなくなる。
だから、という問題はここでは最初から発生しなかった。

「だいじょうぶだよー」
と、もこもこ怪獣は言った。
「我が一族は肉食獣であるため、長期の絶食に耐えられるのだ。ただし暖かいところに限る」

なるほど。変温動物はエネルギーを節約することができるからな。
恒温動物は機動性が高いが代償としてエネルギーを浪費する。
小鳥サイズの生き物なら一日でも絶食するとアウトだ。

いや。そんなセリフ信用できるわけないだろ?
だってあれほどの惨劇を起こした怪物だぞ。
だいたいこいつが貨物船に乗っているのだって、地球に居ずらくなったからだろ?

どうにかしてこいつを叩き出さないと。
こいつは人食いなのだ。
よく考えたら食料の限られた船に乗っているからという問題じゃない。
こいつは人を食べる肉食獣なのだ。
何を考えるか、火を見るより明らかだ。
「食べないよー。大丈夫だよ」
狼に食べないよと言われて信じるウサギがいるか。
おれは一目散に逃げて、船の巨大な機械室の中に隠れ潜んだ。

当面はそれでしのげた。
だが食糧庫が。
食料をどうにかして取りに行かなくちゃいけない。
あいつと出会うのは問題だ。
なんとか迂回しないと。
夜な夜なおれは食糧庫まで潜んで行かなくちゃいけない。
とんでもないことになった。
このままではまずい。

だがおれに有利な点があった。
あいつはこの事実を知らない。

まもなく宇宙船は中性子星の近くを通る。

中性子星の中にはマグネターと呼ばれるタイプがある。
ヘビー級の中性子星で、まだ熱くて、そして磁場の化け物だ。
近くを通るといってもだいぶ遠くを通過するだけなのだが、それでも電子レンジの中を飛んでいくようなものだ。
まあ宇宙船の方は壊れない。
重要部分にはシールドがあるからだ。
私もシールドに隠れる。
自分で作ったシールドだ。
そして食糧庫に忍び込むついでに、
居住区のシールドには欠陥を作っておいた。
やつめ。あそこに逃げ込んだらこんがりと焼け上がるだろうさ。

そして。
悲鳴が確かに聞こえた。

宇宙船は目的地についた。
おれは生き残った。

だが、なんということだろうか。
たどり着いた宇宙港の警察におれは逮捕される。
「あいつです。あいつが密航者、いやハイジャック犯です」
指で示されているのはおれだ。
バカな。あいつが生きてるはずがない。
あいつは最初に殺したはずだ。
しかも五体満足だと?

あいつの両手両足は引きちぎっておいたはずなのに!
そうさ。もうひとりを食料にするなら、方程式は崩れる。
完璧な計画だった。はずなのに!

(おそろしいハイジャック犯の魔手からついに逃げ切れた。途中から記憶が曖昧になっているが、おそらく恐怖のせいだろう。そしてたまに自分がおかしなことを言っているのを、まるで他人のように聞いているときがある。
そう。「熱くて大変だった。もうお腹すいたー」という。もちろんその後、なんともないのである。記憶が週単位で飛んでいること以外は)

追記:タイトルのイラストは、
キラキラ画像。
著作者:kjpargeter/出典:Freepik
です。


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