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6月の太陽と緑の下で。

今日から「明日から妄想ブログ」を
「妄想小説」に変更します。

内容はtwitterアカウント名KmDbさんのヒントから、出来上がりました。

ありがとうございます。

ーーーーーーココカラが本編ーーーーーーー

僕の家は、さほど裕福ではなく、
とは言え、貧乏でもなかった。

しかし、家は長屋でこの時代では、
一般的。団地と言うものはなく、
それはもっと後の話と言えば、
分かってもらえるだろうか?

そんな長屋は公園の隣にあり、
夏には虫や蛇などが入ってくることは、
もはや風物詩で、その季節がわかったもんだ。

当然、遊び場も隣の公園となる。
その公園はこの近辺ではいちばん大きく、
野球場やテニスコート、5月になれば
大きな鯉のぼりを掲げるといった具合。

僕は、よく箒を持った管理人のおっちゃんに追いかけ回された、悪戯っ子だった。

でも、その管理人の事は嫌いになれず、
よく、事務所に遊びに行ったものだ。

あれから数年、

僕はその公園の管理人になっていた。
とは言え、1人で管理している訳ではなく
5人ぐらいの職員で管理していた。

テニスコートの横には鯉のぼりを掲げるためのポールがある広場がある。
その向かい、道を挟んだ所には丸太を切っただけの
古びたベンチがある。
日差しがある時は、ベンチを覆う様に生えている木の緑が木陰になって過ごしやすい事で人気がある。

通称、「話すベンチ。」
勿論、ベンチが話すからというオカルトから付けられた訳ではなく、色々な人が笑い、悩み、泣くといった事をそのベンチは何十年と聞いていた。

と言っても、話を聞くのは
我々、「管理人」なんだけど…

放っておくのが、いい事だと思うのだけど
「話すベンチでは、管理人に人生相談が出来る」との噂が流れ、結構な人気のベンチになっていた。

さて、今日の話し相手は…
おばあちゃんである。
と、言ってもヨロヨロしている訳ではなく
日向ぼっこを楽しんでいるようだ。

「こんにちは。いい天気ですね。」
「管理人さん、こんにちは。おやつ食べる?」
「ありがとうね。」
「昨日ね、孫が産まれたの。」
「おめでとうございます。」
「うん、これから会いに行くんだけど、楽しみだわ。」
「行ってらっしゃい。気をつけて。」

…こんな感じである。

平和だ。

公園の落ち葉や枝を掃き掃除していると、
次のお客さんがやってきた。
中学生?こんな時間に?

「こんにちは。どうしたの?」
「今日は学校、サボっちゃった。」
「そうなんだ。これからどうするの?」
「うん、それが決まってなくてさ、暇なんだよね。」
「そう。だったら掃き掃除、手伝う?」
「え?やだよ〜」
「じゃあ、好きなだけここにいるといいよ。」

学校に行けとは言わない。
彼には彼の事情というものがあるのだ。

そうこうするうちに中年の男性がやってきた。

「ここに中学生の男の子来なかった?」
ああ、先生か。あの子を探してきたんだな。

「あの子なら、そこに…」
指差すベンチに彼の姿はなかった。

「あの子、何かあったんですか?」
「実はイジメにあってまして…教師として恥ずかしい限りですが…」
「そうなんですか。彼は元気そうでしたよ。」
「もし、見かけたなら学校に来るように、それと皆が待ってるよとお伝え下さい。」
そう行って帰って行った。

ふと、ベンチを見ると彼がいた。

「聞いた?」
「うん。聞いた。」
「弱い奴だと思ったでしょ?」
「何で弱い人間と思わないといけないんだい?」
「いじめられて…何も言い返す事ができないんだ。だから、逃げて来たんだ。」
「そう。」
「やっぱり、掃き掃除を手伝って。」
「え?なんで?」
「いいからいいから。」
と箒を押し付ける。

掃き掃除をひたすらやってもらう。
彼は汗びっしょりになって、伸びをしながら言った。

「ふぅ〜!何だか、いじめられてるのを悩んでるのが馬鹿らしくなって来た。学校帰るね!」

そう言うと、足早に帰って行った。

「あの子、イジメを克服出来ればいいな。」

僕は解決をするわけではない。
話し相手をするだけ。
それで気が紛れるなら、それでいい。

次のお客さんはテニスを終えたふたり。
毎日テニスをしているから、健康的な日焼けをしている。

「管理人さん、今日は勝ったよ!」
「本当に?」
「う、嘘なんかついてないよ。」
「見てたよ。」
「ありゃ、見られてたか?クソ〜今度は絶対に勝つよ!」
「連敗記録が伸びないように祈ってるよ。」
「あ〜、嫌味〜?」
と、いつもの話。

とは言え、いつも平和な日常だけではない。

今日は梅雨らしい雨が降っていた。
雨に濡れた淡い紫色が綺麗に見える。
いつもは事務所に籠もるのだが、
見回りにでも行こうかと傘をさした。

雨の中を傘をささずに「話すベンチ」に
ひとりの女性が座っていた。
思わず傘をかざして、

「風邪をひきますよ。」
「いいんです…」

何か事情があるんだな…
「良ければ話を聞きますよ。」
すると、彼女はゆっくりと話はじめた。
結婚を約束した彼氏が交通事故に遭って、亡くなったということ、彼が居なくなれば生きている意味がない。
そう言うと、彼女は雨に紛れ大きな声で泣いていた。

「この傘を差し上げますから、今日はかえってお風呂に入って、ゆっくりとすればいいんじゃないですか?」

いかん、自分の意見を言ってしまった。

数日後…公園には公民館があって、
普段は寄り合いがあるが、
この日は通夜が行われていた。

さて、次のお客さんは
話すベンチに若いサラリーマン風の男性が座っていた。

「こんにちは。いい天気ですね。」
「はい!僕の心もいい天気です!」
「何か良いことでもあったの?」
「初めて僕の商談がまとまったんです!」
「それはおめでとう!」
「はい!今夜はお祝いです!」
「楽しみだね!」
「はい!」
彼は足取りも軽く去って行った。

次のお客さんは
若いカップルだ。男性は何かを話そうかとモジモジしていて、女性はスカートをギュッと握って下を向いている。

「こんにちは。きれいな夕日ですね。」

…あっ、いつものクセで話しかけてしまった…

男性は急いで立ち上がると僕の肩を抱き
少し離れた所まで連れて行き

「ちょ、ちょっと、邪魔しないでくださいよ!」
「す、すまん。いつものクセで…」
「これからプロポーズするんですから!」
「お、おう。頑張って。」

僕はその場を離れると…いや正確には木陰から
覗いていると、男性が彼女の手を握って
何やら話している。
その瞬間、彼女は口を塞ぎ、頷いていた。

何故か僕は、ひとりでガッポーズをしていた。

とあるお昼すぎ、いつも通り、掃き掃除をしていると
子供達が木の枝を折って遊んでいた。

「コラーッ!枝を折るな!」
と箒を持って追いかけてた。

公園の管理人の仕事は箒を持って追いかける事…でないことを祈る。

ー完ー

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